引っ張られてる!?
「お前のバリア……ときどき“引っ張られて”ないか?」
誰にも言ってなかった“違和感”を、たった一言で射抜かれた。
俺は深く息を吸って、答える。
「……はい。たまに、ですけど」
「どんな感じだ?」
「説明しにくいんですけど……。展開した瞬間に、腕じゃなくて、バリアそのものが……どこかに向かって吸われる感じがして」
因幡教官は目を細めた。
「方向は?」
「毎回違います。前だったり、横だったり、上だったり……。でも、狙われてるって感じじゃなくて……」
「“ひきずられる”ような感覚か?」
「そうです」
教官は腕を組んで、しばらく沈黙した。
いつもは即答するのに、珍しい。
「……まあいい。言葉で説明しても限界がある。実際に見せてもらう」
「今ここでですか?」
「他にいつやる」
だよな。
フィールドが再起動され、光がふっと灯る。
「赤木。まずは普通に展開しろ。無理に何か起こそうとするな。いつも通り、自然にだ」
「わかりました」
俺は呼吸を整え、手を前に出した。
「──展開」
透明な膜が広がる。
いつも通りの軽い反動。
違和感なし。
「よし、もう一度」
教官の声は変わらず淡々としている。
「……展開」
その瞬間だった。
「っ……!」
バリアの端が、わずかに“左”へ引かれた。
見た目ではほとんど動いてない。
ただ、内側の感覚だけが、明確にそっちへ流れる。
「今のだな」
因幡教官はわずかに眉を上げた。
「赤木、今のは力んでなかったな?」
「はい。普通に展開しただけです」
「……ふむ」
教官はフィールドの光源装置を確認しながら、言う。
「機械の影響じゃない。訓練場の魔力ラインも正常。お前の出力過多でもない」
そして、俺の方に向き直る。
「赤木。これは“外からの干渉”じゃない」
「え……?」
「バリアそのものが、“内側から”どこかへ流れたように見えた」
内側から──。
俺はごくりと息を呑む。
「な、なんですかそれ?」
「知らん」
即答。
「……えっ」
「知らんと言った。私も初めて見た現象だ。だから推測だけ言う」
因幡教官は指を一本立てた。
「一つ。お前の《展開型バリア》は、他の使用者より感覚が鋭すぎる」
「鋭い……?」
「ああ。普通は“展開できた”ところで終わりだが、お前は膜の内部の状態を感じ取っている。方向、圧力、濃淡……その全部に反応している」
そんなの、言われてみれば確かにそうだった。
でも俺は、それが“普通”だと思ってた。
「つまり赤木。お前のバリアは──」
因幡教官はそこで言葉を止め、ほんの一瞬だけ、考えるように目線を落とす。
「……いや、今は言わん。断定できん」
「気になるところで止めるのはやめてくださいよ!」
「知らんと言っただろ。無責任なことは言わない」
まあ、それがこの人らしい。
「ただし、赤木」
「はい?」
「少なくとも──」
因幡教官は俺のバリアに触れない距離から、じっと観察するような視線を送った。
「“何かに反応している”のは確かだ」
俺の喉が乾いた。
「何か、って……なんですか」
「さっきも言った通り、外からじゃない。装置でもない」
そして小さく、
「……おそらく“お前自身だ”」
と言った。
「俺自身……?」
「そうだ。お前の内側の、どこかの機能か反応か……そういう類だ」
内側──。
もしそれが本当なら、俺はずっと、自分の知らない“何か”を抱えたまま生きてきたことになる。
「怖い顔するな。現時点で危険性はゼロだ」
「ゼロですか?」
「少なくとも“暴走”とは無関係だ」
本当に珍しく、因幡教官は穏やかな声で言った。
それだけは確かなのだろう。
「赤木。この現象は、今日一日でどうこうするものじゃない。放置もできんが、急ぐ必要もない」
「じゃあ、どうすれば?」
「観察する。気づいたときに報告しろ。感じた方向、強さ、頻度……その全部だ」
「……はい」
「この現象、まだ“形”になっていない。ただの違和感の段階だ。今なら、正しく扱える」
教官は最後に、かすかに口元を上げた。
「安心しろ。普通じゃないだけで、悪い兆候じゃない」
その言葉に、少しだけ胸が軽くなった。
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