訓練編8
翌日。昨日の転倒の筋肉痛を抱えながら、俺は訓練場に立っていた。
「赤木。昨日の失敗、覚えてるな?」
因幡教官は腕を組んだまま、冷静な声で言う。
「……はい」
「原因は簡単だ。“展開をためらった”。以上」
淡々としているのに、反論できない説得力がある。
「だって……現場で暴走したら困るじゃないですか」
「暴走ってほどのものじゃない。お前の場合は過出力だ。ただの力みすぎ。周囲に被害は出ない」
あっさりと切り捨てられた。
「だからと言って油断していいわけじゃないが……まあ、昨日のはビビっただけだな」
「ビビっ……!」
「事実だろ。自覚しろ。でないと直らん」
言い返せなかった。
因幡教官は訓練場奥の簡易フィールドに歩き、スイッチを操作する。
「今日の課題、説明する。ためらいを潰すぞ」
「ためらい……?」
「ああ。《展開型バリア》は反応の遅れに直結する。お前、たまに躊躇してる。あれを叩き潰す」
フィールド内に光点が浮かび上がる。
「赤く点滅したら、一秒以内に展開。言ったな、一秒だ」
「一秒はきつ……!」
「本番はもっときつい。開始する」
言うが早いか、赤い光点が飛び込んでくる。
「っ、展開!!」
反射で腕をかざし、膜が広がり、光点が弾かれる。
「初速は悪くない。次」
休ませる気ゼロで、点が三つ同時に弾けた。
「ちょっ、多っ……!」
「五月蝿い。集中しろ」
俺は薄く、広くバリアを展開し、何とか受け止める。
膝が少しだけ揺れた。
「……ふむ。そこまで崩れないなら上等だ」
教官はスイッチを切り、俺の前に歩いてくる。
「赤木。お前の《展開型バリア》は、防御の初速は平均以上。問題は“維持”だ」
「維持ですか?」
「出してからの集中が甘い。昨日もそれで崩れた。持続力をつける。コントロールと同じくらい重要だ」
俺が息をついていると、因幡教官はほんの少しだけ声を落とした。
「落ち込むほど悪くはない。伸びる余地が多い分、むしろ楽だ」
褒めているのかどうか判断しづらい言い方だが、悪くはなさそうだ。
「じゃあ、ラスト行くぞ」
「まだやるんですか!? 俺もう腕が──」
「知らんな。現場では“プルついた腕”で仲間守るんだよ。立て」
「……はい……」
俺が構え直した時、因幡教官はふと視線を細めた。
「赤木」
「はい?」
「お前のバリア……ときどき、意図しない方向に引っ張られてないか?」




