訓練編7
薄曇りの空の下、訓練所の屋外フィールドは冷たい空気に包まれていた。
ビル街の外縁に作られたこの“冒険者局・市街地訓練ブロック”は、防音と安全壁のせいで中だけ別世界のように静かだ。
「――おい、新入り。集中しろ」
鋭い声に、俺は姿勢を正した。
因幡教官。長い黒髪を後ろでまとめ、目元だけで人を刺すような視線を飛ばしてくる。年齢不詳の美人なのに、誰一人として逆らおうと思わない、そんな圧を持った人だ。
「お前の“展開型バリア”は珍しい。だが珍しいってだけで飯は食えねぇ。
使えるかどうかは訓練次第だ――分かったか?」
「はい!」
俺の返事に、因幡教官はわずかに頷く。
「では基礎。三方向からの模擬弾を防げ。
本物より弱いが、当たれば普通に痛いから覚悟しろ」
「痛いんだ……」
「冒険者をやるなら慣れろ」
教官が片手を上げると、訓練ドローンが三体、俺を囲むように浮上した。
機械音が低く唸り、銃口が展開される。
――来る。
俺は息を吸い、左手を前へ。
意識を一点にまとめる。
「展開――バリア!」
空気が震え、透明な盾のような光壁が現れる。
以前、狼の爪が飛んできたとき、反射的に使った“あれ”だ。今は自分の意思で展開できるようになった――まだ不安定だけど。
パン! パン! パン!
三方から模擬弾が同時に撃ち込まれる。
バリアはふらつきながらも、なんとか弾を弾いた。
が。
「っ……!」
四発目。角度の違う一弾がバリアの“薄い箇所”を掠め、腕に鈍い痛みが走る。
「おい新入り、わざと弱点作ってどうする」
「わ、わざとじゃないです!」
「なら尚更ダメだ。バリアは“面”で張るんじゃなく、意識の厚みを均一にするんだよ」
因幡教官が俺の後方に歩み寄り、背中越しに言う。
「展開型バリアは確かに優秀だ。
だが優秀ってだけで過信すると――いつか死ぬぞ」
その言い方が妙に重くて、俺は小さく息を飲んだ。
――何か知っている?
いや、今は考えすぎか。
「もう一度いくぞ。今度は五秒維持だ、新入り」
「はい!!」
ドローンが武装を再展開する。
俺は深呼吸して、両足を軽く開く。
(大丈夫だ……俺は守れる。まずは“ここ”から)
「展開――バリア!」
今度は、先ほどよりも“厚み”を均一に意識した。
光壁がバチッと音を立て、しっかりとした形を取る。
パンパンパンパン――!
連続弾が飛んでくる。
俺は歯を食いしばり――バリアを、維持した。
「……五秒経過!」
因幡教官が叫んだ瞬間、俺は力を抜いてバリアを消す。
「っ、はぁ、はぁ……!」
膝が震えている。
訓練ドローンが停止し、教官が前に歩み寄ってきた。
「悪くない。素質は確かにある。
ただし――お前の本当の特徴はそれだけじゃない」
「え?」
因幡教官は俺の胸元を軽く指で突く。
「体の“中”を、もっとよく感じてみろ。
そのうち、自分で気づくはずだ」
――それはもちろん、ドレインラインの伏線。
だが今はまだ知られない。
「今日の基礎実技はここまでだ。次は応用に入る」
「応用……?」
「“バリアを張りながら動くこと”だ。
冒険者は止まって戦う仕事じゃないからな」
因幡教官はそう言って、小さく笑った。
「覚悟しとけ、新入り。ここからが本番だ」




