訓練編6
翌日、訓練場の空気は昨日より張り詰めていた。
因幡教官は俺を見るなり、短く言った。
「今日は“動作連携”だ。バリアを張りながら殴れ。避けろ。そして歩け」
「……そんな同時に?」
「実戦では全部同時に起きる。盾使いだからこそ、手を止めるな」
理屈はわかる。
だが昨日わかったばかりの魔力の“流れ”は、まだ掴みきれない。
教官が手にしたのは、細いスティック型の訓練棒。
当たっても痛いだけだが、遠慮なく振ってくるやつだ。
「始めるぞ。——展開!」
教官が動いた瞬間、俺も展開型バリアを張る。
——バッ!
振り下ろされる棒。
俺は反射的にバリアを前へ滑らせた。
その時、昨日つかんだ“細い流れ”が、また勝手に走る。
——左にずれる?
流れの方向に膜を合わせると、膜の縁がわずかに傾く。
そこへ因幡教官の棒が当たる。
——パァンッ!
勢いよく弾いた。
膜は割れず、揺れもしない。
「……ほう、反応したか」
「い、今のは……流れが勝手に……」
「勝手に、ではなく“向かって”いるんだ」
まただ。
昨日も聞いたその言い回し。
俺の魔力は、何かへ向かっている。
「その流れに合わせて方向調整をしたな。よし、次は歩け!」
「う、うわわっ——!」
歩きながら防御。
歩幅を変えた瞬間、流れが急に細く伸びて、バリアが揺れる。
「赤木、揺れを抑えるな。合わせろ!」
「合わ……」
揺れに逆らうように歩くと、膜が波打つ。
逆に――歩幅を“流れが向く方向”へ合わせると、
——ピタッ。
整った。
「……できた」
「できるじゃないか。お前の魔力の癖は特殊だが、合わせれば扱える」
因幡教官は、表情には出さないが明らかに驚いていた。
「赤木。お前は《展開型バリア》の“防御面の安定性”では平均だ。
だが“追従性”が異常に高い」
「追従性……?」
「流れに合わせれば、バリアの形が滑る。普通はそんな動きはしない」
そこで教官は、わずかに眉をひそめた。
「だが……滑りすぎる。まるで、向こう側から引っ張られているような……」
その言葉が胸に残る。
引っ張られている。
それは昨日の——
「魔力が何かへ向かって流れている」
という言葉とも重なる。
何に?
なんで?
どうして俺だけ?
因幡教官は、俺の不安を察したように軽く手を上げた。
「考えるな。今は感覚をつかめばいい。原因は、もっと後で明かす」
“もっと後で”
その言い方は、何かを知っていながら敢えて言わないようでもあった。
ただ、その“後”が近いのか遠いのかはわからない。
「よし、今日はこれで終わりだ。十分合格点だ。
……この流れは扱えれば強力な武器になる。だが同時に危ない。気を抜くな」
「はい」
「もう一段階の訓練ができたら、初任務を任せる」
初任務。
冒険者登録してからようやく現実味が帯びてきた言葉。
だが俺の胸には、期待よりも——
“流れの向かう先”が何なのか。
その不安だけが残っていた。




