5/8(木曜)『リスナー参加型ふぉすた』♯5
夜、二十時。
毎回だいだいこの時間に配信をはじめる。
普通の生活を送っている人たちがTVやYoutubeに張りつく時間だ。
今まで実験的にタイミングをずらして朝枠、昼枠、夜枠とやってみたけど一番同接が伸びたのが夜枠だった。
それからリスナーさんが見やすいように夜枠で固定している。
活動をはじめた当初はガチで同接ゼロとかあったし。
誰もいない世界にひとり孤独に喋り続けるのがどれほど苦しかったか。あの真っ暗な空間を経験したからこそ今のリスナーさんを『楽しませたい』って感情がある。
ま、自分が楽しむってことも大事だけどねー。
で、時間を固定パターンにするとリスナーさんも固定メンバーが見てくれるようになった。
ここ重要ね。とにかくファンを増やさないとこの世界では戦えない。
本日、同接五人。まーいつも通りか。
「あいあーい! 号六ななでっす、ななちチャンネルにようこそー」
すでに起動中のゲーム画面を表示する。
「今日もフォームマイスターやっていきまーす。参加ご自由にどーぞー」
で、いつもの二人がすぐ来てくれた。毎回マジで助かる。ありがてぇ。ありがてぇ。
米粒タケル :次のエリアリーダー、ヤバイらしいよ
「あ、そーなの? んまー、でもパリィ強かったしなー、たぶんこのまま行けるっしょ」
前回のボス戦はパリィでゴリ押しクリアだった。攻撃力もあるし行けるやろ。
三人で適当にザコ狩りしつつ山岳地帯を抜けて次のエリアへ。
「そーいえば最近ストレッチはじめてさー。なんかカラダが硬いと太りやすいとかで……」
爆裂思春期 :今なんキロ?
「山頂から突き落とすぞ、お前。……身長、体重は私の設定プロフィールを見なさいVtuberは太りません常識だぞバカバカぶあーっか」
米粒タケル :早口
爆裂思春期 :ブチ切れてまっせ
「んなモン常識だろーが」
米粒タケル :粉モン焼きすぎだろーが
爆裂思春期 :豚玉、半額だろーが
「半額は正義だろーが! ってか何連鎖すんねん。あ、フィールド変わったわ」
前方を見ると急激に風景が変化していった。
山岳地帯を抜けた途端、山と緑が消えて背景の色が単色に変わる。
「おおう、砂漠だよー」
空と砂。時々、敵。
「え、これ、砂エリアで移動スピードダウンとかすんの?」
米粒タケル :大丈夫、デバフ無し
「ほな、行くべ」
ふと思いついて話を続ける。
「あー、そーいえばさ、配信前に晩ゴハン食べようと思って近所のスーパー行ったらさ、タイムセール中で色々と割引されててね。お弁当でいっか、と思ったらタコ焼きも割引シール付いて並んでて」
爆裂思春期 :ちょっと迷うね
「でしょ? お弁当を選ぶ前に、先にタコ焼きと目が合ったんよ。そしたらタコ焼き食べたくなるっしょ。今ならどっちも安い。そこで迷ったんだよねえ……ムダ使いしたくないし、でもタコ焼きだけだとちょい物足りないし」
米粒タケル :値段は?
「お弁当が三百五十でタコ焼き百五十円」
爆裂思春期 :やっす
「そーなんだよ、だから迷ったんよ」
米粒タケル :そこは弁当でしょ
爆裂思春期 :むしろタコ焼きやろ
「両方、買ったよね結局」
爆裂思春期 :結局ダブルかい!
米粒タケル :人は食欲に勝てない
「ホントそう。完全敗北よ。意外とおいしかったし」
爆裂思春期 :セール最強やな
「ホント助かるわータイムセール」
マップを移動中。
砂漠エリアのフィールドをひたすら走る。その中にキラキラ光るいつものポイントを発見した。エリアボスが待ち構えるバトルゲート。
「準備いいかな? 回復アイテムは持ったか?」
米粒タケル :えっさ
爆裂思春期 :ほいさ
「突撃じゃい!」
そのまま三人でゲートに飛び込む。すぐ画面が切り替わりいつものボス音楽が流れだした。巨大な密室空間。制限時間が画面の上に表示される。
そしてエリアリーダー登場。天井から床へゆっくり降りてきたボスキャラ。
それはキラキラ輝いていた。まさにダイヤモンド。指輪の宝石をそのまま巨大化したような感じ。
同時に名前が表示される。『パビリオン』というボスキャラが移動しはじめる。メッチャ遅い。
「なんだ、こいつ」
まー、とにかく接近だ。こっちは武器のリーチが短いのでギリギリまで接近しないと攻撃が届かない。今回の敵は足が遅いので追いかける必要がない。ひじょーに助かる。
「足を止めての殴り合いだぜい!」
三人で一斉攻撃を開始。ダメージを受けはじめると敵が反応して急激に膨らんだ。まるで吸った空気を吐き出すみたいに大量の弾を全方向へ一気にバラ撒く。
「ちょ、東方みたいな弾幕シューティングになってんじゃんコレ」
逃げ場がない。三百六十度、画面すべてパビリオンの弾で埋め尽くされる。
爆裂思春期 :ゲーム変わったな
弾速は遅い。
が、あまりに弾幕が激しすぎてパリィが追いつかない。ほんの数回、敵の攻撃を叩き落としているあいだにこっちがダメージをくらい続ける。
この武器じゃ圧倒的に手数が足りない。
「痛い痛い痛いムリ無理むり!」
この弾幕を全部パリィするのはどう考えても不可能だ。
いくら攻撃ボタンを連打しても間に合わない。当然回復も間に合わない。
「ちょちょちょ、待て待てあああ」
あっという間だった。
HPをすべて削り取られ画面がブラックアウト。拠点まで自動的に戻される。
完全に敗北。
「なんやねんアイツ。これちょいレベル上げしたくらいじゃ勝てないなー。なんかべつの方法を考えるか」
米粒タケル :武器変更するしかない
「だよねー。じゃあ新しいフォーム探さないとね」
まず接近戦がアウト。パビリオンの弾幕をすべて浴びてしまうので近距離の武器では生き残れない。
爆裂思春期 :ご近所、回るべ
まー仕方ない。色々と試してみよう。
「あ、見たことないフォーム転がってるねぇ」
砂漠の地面を六角形が転がっている。
「新武器か、あれ」
とりあえず六角形に封印カード投げてゲットしてみる。捕獲は簡単だった。ステータス画面で装備変更。六角形の武器はムチだった。
「うりゃ、うりゃ」
とりあえず振り回してみる。リーチが伸びて中距離って感じ。だがムチの通常攻撃は大したことなかった。これならむしろ二刀流のほうが強い。
「これハズレ?」
米粒タケル :溜め打ちができる
「へー、溜め打ちか」
約一秒、攻撃ボタンを押して離すとムチをグルグル振り回しはじめた。完全に三百六十度。自分を中心に周辺攻撃してくれる。
「おー、なんかこれムチのリーチも伸びてるね。メッチャ長くね?」
爆裂思春期 :威力も増えとるんよ
しかもグルグルやってるから五回くらい多段ヒットする。ダメージ量も大きい。
米粒タケル :二秒くらい溜めてみて
言われた通り約二秒、攻撃ボタンを押して離す。すると今度はグルグルやったあと六角形がターゲットに突撃して爆発した。
「多段ヒットしたあとロックオンした敵に飛んでいくのか……溜め打ちスゲーな。みんなムチ装備でいいんじゃない?」
爆裂思春期 :せやな
米粒タケル :あと拠点バフもつけよう
「なにそれ?」
爆裂思春期 :拠点を大きくするとステータス上がる
「そんな効果あんの? ただのセーブポイントじゃなかったのか……」
さっそく周辺でザコを蹴散らし素材をゲット。拠点を少し大きく改造した。
すると拠点のメニュー画面に『防御力アップ』が追加された。
「うわーホントだ。とりあえず休憩してみよう」
するとキャラクターに防御アップの効果が付与された。しかも二時間も効果が継続される。
「けっこう強くねコレ」
爆裂思春期 :バフ付いてるうちに行くべ
「そだね。さぁリベンジじゃい」
三人でムチ持って再びパビリオンが待つゲートへ突撃。いつもの密室空間に移動する。
「覚悟せいや、うらあ!」
ゆっくり地上に降りてきたボスキャラ。
今回は武器のリーチが伸びたおかげで弾幕の直撃を回避できる。さらに落ち着いて離れてみると、タマとタマのあいだに多少の隙間が発見できた。焦らず自分のキャラをその隙間に滑り込ませる。
やはり数発は攻撃くらうけど防御バフのおかげで軽傷で済む。
爆裂思春期 :勝ったな、これ
あとは三人でムチをぶるんぶるん振り回していると敵のHPゲージがゴリゴリ削れていく。そこからの展開は早かった。
米粒タケル :溜め打ち、つよ
ボスのHPが半分以下になった。
後半戦BGMが変わりさらにパビリオンの弾幕が激しくなった。が、それ以上にこっちの火力が強力だったらしい。予想以上のハイスピードで瞬く間に敵のHPゲージが消えていく。
そして。
「うっしゃうら、やったったボケーぃ!」
撃破。
光り輝いて爆発するパビリオン。同時に勝利BGMが流れ出す。
「意外と勝てるもんだねー」
米粒タケル :毎回キツイ
爆裂思春期 :ボスがちゃんと強いゲーム
「本当にそうだよね。毎回、初見殺しだもんね」
ちゃんと拠点に戻ってセーブ完了。ここでうっかりセーブ忘れると大事故になる。
米粒タケル :ふぉすた次で最後だね
爆裂思春期 :続きまだアップデートされてないし
「ああ、そっかそだねぇ」
爆裂思春期 :次なにやるん?
「んー、ほかのVtuberさんってサッカーとか野球ゲームやってる人もいるけどさー……」
米粒タケル :いるね、最近
「私、あんまスポーツ興味ないんだよねえ。それよりこの前やってたレトロRPGクリアしたいんだよ」
爆裂思春期 :ほなそっち先やるべ
「ん、そーするべ。それでは今日はここまでー! お疲れ様でしたー!」