5/2(金曜)『リスナー参加型ふぉすた』♯1
十二回。
半年で十二回も落ちた。
Vtuber業界ではかなり有名な企業で、所属できただけで勝ち組とまで呼ばれる会社。
その企業さんにオーディションの書類と自己アピール動画を送り続けて毎回、毎回、見事に落ち続けた。
まったく予選すら通過できなかった。よっぽど私には魅力がなかったらしい。
さすがに十二回も捨てられたら私も諦めますよ、普通に。
会社によって採用オーディションの方法はさまざま。まー、すべての企業を知っているわけではないけど、年々その採用倍率がとんでもなく爆上がりを続け、現在、企業に所属するだけでもメッチャ難しい状態になっている。
だがもし受かれば人気Vtuberの仲間入りができる。大きい企業だと初配信の前からチャンネル登録十万オーバーとかいうバケモノも出てくる。
そう。……あの世界には夢があるんだ。
かと言ってデビューした瞬間、伝説にはならない。絶対に。色々なVtuberを見てきたからこれはガチっすよ。
生配信ってのは毎日、日々の積み重ねだからね。少しずつリスナーさんが増えていって認知されていくもの。よっぽどの奇跡が起こらないと普通バズらない。それが現実だ。
現在、私は二十一歳。本名『飛車角ケイマ』。
バイトで生活を食いつなぐ弱小Vtuberである。
Vtuberになればきっと世界が変わる。
と思っていたのに奇跡なんか起きねーよ。私の奇跡どこ行った? その辺に落ちてませんか?
で、結局この配信活動をはじめて一ヶ月、とにかく現実を思い知らされた。
「ほいじゃやりますかー」
何事もコツコツやっていくしかない。
先に自分のSNSでゲームの告知だけ流しておいた。
《リスナー参加型『フォームマイスター』プレイするよおー》
今日やるゲームは、オープンワールドのサバイバルクラフト系アクション。略して『ふぉすた』。
発売直後からグラフィック、音楽、操作性、すべてにおいて高評価を叩きだした話題のゲームだ。
やり込み要素も多く長く遊べるらしい。配信者にとってはそこがポイントである。私はゲーム実況がメインなのでそこそこ長くプレイできるゲームは、ひじょーに助かる。
そして普通にゲームを起動して配信開始。
「はーい、号六ななの冒険、はーじまーるよー」
人数、確認。同接ふたり。
すぐに冒険がはじまるかと思ったらなぜかキャラクターがひとり画面に表示された。
「あー、最初にキャラメイクあんのね、これ」
米粒タケル :耳のばしてケモナーに
爆裂思春期 :鼻のばしてゾウさんに
「眉毛のばしてむしるぞ、お前ら」
ふぉすた用に女の子のキャラをつくりながら、ふと思い出して語りはじめる。
「そー言えばさあ、私のVのキャラデザって妹がつくってくれたんだけどさ」
米粒タケル :クリエイター依頼じゃないんだ
「んー、妹が大学生でね。将来ゲーム作りたいってプログラミングスクールに通ってて、あの子デザインも自分で描けちゃうから」
爆裂思春期 :万能やん
「そうそう、それでね。私がラフ画で何パターンかキャラ描いて、妹に仕上げてもらったんだけど。最後の最後まで迷っていたデザインがあってさ。決定したのは今の前髪ぱっつん女子で、もう一個がメガネ女子よ」
爆裂思春期 :メガネも悪くない
「でしょー、私メガネ女子が好きでさー。ギリギリまで迷ったんよねー」
で、今ふぉすた用に黒髪メガネ女子をキャラメイクしている。
「これデザインなんでも良いんでしょ?」
米粒タケル :ステータスに影響しない
爆裂思春期 :なんでもええで
「ほなこれでええか」
簡単にキャラメイクを終了させ本編スタート。
「えーっと、まず部屋つくって、ほらおいでー」
お、二人ともすぐ入ってくれた。助かるー。
リスナー参加型で誰も来てくれないのがいっちばんメンタルにくる。ひとり寂しくプレイしてたら孤独感、倍増。マジ吐くで。
「装備なんもないの、最初」
爆裂思春期 :まず素材の収集。
このゲーム『すべての形を支配しろ』とかいうキャッチコピーだったはず。
その言葉通り、周囲にさまざまな形の物があった。
とにかくフィールドが広い。
このフォームマイスター、世界に存在する形あるもの『フォーム』を素材や仲間としてゲットできるらしい。
地上から三角形が生えていたり、四角形が歩いていたり、薄いペラペラの長方形が浮いていたり。
とりあえず武器がないので近くに浮いていた白い長方形を殴ってみた。
米粒タケル :ななち、アカン
攻撃した途端、長方形の色が変わった。急に赤く変色して反撃してきた。
「痛い痛い痛い」
長方形に刺されてガリガリHPを削られる。
「ちょ、なにこいつ」
負けていられない。とりあえずこっちも殴り返す。
「こちとらアイドルVちゃうねん、個人勢なめんな、クソがあああーっ!」
米粒タケル :全力のクソが出ました
爆裂思春期 :殺意、尖りすぎ
だが反撃も虚しくHPゼロでブラックアウト。
「えー、なあんで。リスポーンどこー? ああ、スタート地点か」
爆裂思春期 :あいつ襲うと一定時間、攻撃してくる
こっちは何も武器もってないし。
「主人公、弱すぎなんだが?」
米粒タケル :最初は拠点作りよ
そーゆーモンらしい。
リスナーのふたりもあれこれ素材を持ってきてくれた。
私も言われた通り拠点の材料になる三角形やら四角形やら集めながら。
「このゲーム、武器つくれないの?」
米粒タケル :ゲットしたフォームに武器が依存する
爆裂思春期 :初期だとパンチのみ
「素手かあ……。それにしてもこのゲーム、スタミナ無いの助かるよねー。スタミナシステムあるとお腹すいて死ぬもんね」
爆裂思春期 :アイテムも自動回収されるし
「あー、全ロスしないの嬉しいねえ。せっかく集めたアイテム死んで消えたらヤル気なくなるもんね」
集めた材料で簡単な小屋をつくりベッドを置く。このベッドがセーブポイントと回復機能をもっている。
「あれ、なんかレベル上がった?」
米粒タケル : 建築とかクリエイト作業しても上がる
爆裂思春期 : 敵を倒してもレベル上がる
「なるほどねー。けっこう自由度が高いな、これ」
そうなるとボチボチ新しい武器が欲しくなる。
「じゃあフォーム仲間にする方法ってどーやんの?」
米粒タケル :封印カードつくれる
爆裂思春期 :ランクが三種類あるで
メニュー画面で封印カードを調べてみる。
「低級、中級、高級。あー、敵が高レベルだとゲット確率が下がるから、強い高級カードを使えってことね」
素材は揃っているので、まず低級カードを数枚クリエイト。
さっきボコボコにされた長方形を見つけ、さっそく封印カードを投げてみる。
カード命中。長方形の上に数字が表示された。
一パーセントからはじまりドンドン数字が上がっていく。あっという間に百パーに到達して長方形が消えた。
「え、消えた?」
メニュー画面で自分のアイテムを確認すると、フォームリストに長方形がいる。
「お? これで長方形ゲット?」
米粒タケル :仲間になった
爆裂思春期 :もう使えるで
フォームリストの長方形を選択すると、自分の周りにそのまま長方形のフォームが出現した。歩くとちゃんとついてくる。同時に主人公がヤリを持っていた。攻撃してみると意外とリーチが長い。
米粒タケル :レベルでフォームも同時に成長する
爆裂思春期 :プレイヤーと一緒に勝手に強くなる
「そーゆーシステムか」
メニュー画面で仲間の装備も覗ける。
リスナーさんの武器を確認すると米粒さんが円錐フォームで武器ドリル。爆裂さんが四角フォームで盾を持っている。
「ん、なんか違うフォーム浮いてるな」
少し離れた所に青い立方体が浮いていた。試しに封印カードを投げてみる。
さっきと同じようにフォームの上に数字が表示されパーセンテージが上昇していく。
と、急に数字が砕け散った。
「カード弾かれた!」
爆裂思春期 :レベルが足りん
「まずはレベル上げかー。バトルだと負ける可能性が高いから、クリエイト作業でレベル上げるか」
またみんなで素材を集めながらフォームゲットのために封印カードをコツコツつくる。
米粒タケル :ななちは収益化とかできないの?
こーゆー場合、作業タイムはだいたいリスナーさんとの雑談になる。
「収益化ねえ……まだまだ遠いなー。だって収益化の設定ってさ、チャンネル登録が千人に到達。さらに時間の条件もあって、たしか視聴時間が四千時間以上だったかな。私の初配信のアーカイブ残ってるから見てみて。再生回数、九十二で止まってるから。百回すら届かないの。マジで震えるって」
米粒タケル :ちょっと泣いてくる
爆裂思春期 :ちょっと穴、掘るわ
「なんでだよ、埋めとけ、その穴」
こっちはチャンネル登録まだ六人。たった六人。たまーに増えるけど、なぜかすぐ減る。
「配信前にSNSで告知宣伝するけどほとんど効果ないし。なんたって私のSNSフォロワーが今、七十人くらいだし。まー、ショボすぎるよねえ」
足りない。なにもかも足りない。
人気、知名度、話題性。
ネットの世界で絶対に成功する方法はまずないだろう。大きなキッカケがなければ。
爆裂思春期 :案件は?
「ねえよ」
企業さんからの案件なんて来るわけねえ。それが底辺Vの現実である。
とはいえ、ある程度の人気が出れば個人勢のメリットもある。
広告収入やスーパーチャットの収入がすべてそのまま入ってくるので(手数料は引かれるけど)収益はすべて自分のものにできる。
会社に利益を吸われないってのが大きい。
ただし知名度ゼロからのスタートはメッチャ大変。
まず私という存在を見つけてもらえない。なにせ認識してもらって初めて利益が発生する仕事なので、発見されないとずーっと存在感ゼロが続く。
ま、個人勢なら私みたいな地味子でも自由にVtuberタレントになれる。
心が折れたら治せばいい。
歩くスピードなんて人それぞれだ。
「これフォームの武器って、けっこう色々あるの?」
米粒タケル :球体なら主人公も遠距離ボール投げ
爆裂思春期 :四角形なら自分もシールドアタック
「じゃあ強いフォームゲットできたらプレイヤーも強い武器を持てるって感じ?」
米粒タケル :最強フォームでレールガン撃てる
「え、プレイヤーがレールガン撃てるの? 無敵やん」
やり込めばそこまで強くなれるのか……。
とりあえずそのまま色々と素材を集めて防具も作った。
「レベルも少し上がったし、いちばん弱いエリアリーダーのトコ行ってみる?」
最終的にすべてのエリア制覇がクリア条件だし。
マップにマーカーが付いているので場所は最初から分かっている。けっこう親切設定。
「まあ、お試しで」
三人で全体マップを確認しつつエリアリーダーのポイントに到着。
フィールドにキラキラ光るエフェクトの場所があった。
そこに触れると急に画面が暗転。
画面が明るくなると同時にエリアボスが出現した。かなり大きな空間。壁と天井があるからデッカイ体育館みたいなイメージ。
空中に浮かぶフォーム。
形はひし形。この世界のものは生物ではないので、ひし形に目も口も耳もない。謎のひし形が浮いている。
同時にボスの名前が表示された『リョウケイ』というらしい。
戦闘開始で音楽が専用曲に変わった。一気に緊張感が高まる。
「行くぜい!」
私が突っ込もうとすると先に爆裂さんが突撃した。
エリアボスのリョウケイが、正面から接近してきた爆裂さんに集中攻撃で弾を飛ばす。
爆裂さんの四角フォームがリョウケイの攻撃を受け止めているあいだに、ボスの側面から米粒さんが円錐フォームでドリルアタック。本人と円錐のダブル攻撃でリョウケイのHPゲージがどんどん減っていく。
「強いなー」
ボスの正面で盾もちの爆裂さんがずっと攻撃を受け止めている。かなり防御力が高いらしくタンク役としてメッチャ優秀だった。
そちらでヘイトを買ってもらっているあいだに私もボスの側面からヤリと長方形でザクザク攻撃を続ける。
「いけるか?」
ボスのHPが半分以下になった。すると急に攻撃パターンが変化した。
前方だけの射撃だったのに、突然、横から背後から上からあっちこっち撃たれまくる。
「いやいや、避けるのムリでしょ!」
あせった。
その時、戦闘中に同接がひとり増えた。通りすがりで配信を見にきた人がいる。偶然の新リスナーを逃してはいけない。
「新規さん、いらっしゃいませー!」
あ、消えた。
「帰るの早すぎだろ、お前! もっと見ていけ、おおい!」
米粒タケル :本音が強すぎる
爆裂思春期 :見ていけハラスメント
そのあいだに主人公が攻撃くらいまくって全身、ハチの巣にされていた。当然HPカラッポで画面がブラックアウト。
あっさりエリアリーダーに敗北した。
「なんであんな攻撃力、高いのあいつ! 一般通過リスナーに即逃げられるし!」
爆裂思春期 :まー、色々あるべ
米粒タケル :それが人生
「重いな、いきなり。んんー、今日はこの辺にしとくかー」
リスポーンで最初の拠点に戻ってセーブ完了。
「また近いうちに『ふぉすた』やりまーす。時間があったら遊びにきてねー。それじゃエンディングうううー!」
サクっと枠を閉じる。こうして今日の配信が終了した。