5/1(木曜)『ゴクジョウがんせき小石くん』
PCの動作確認、問題なし。
「カメラよし、マイクよし」
いつも通りの設定完了。
いつも通りの配信がはじまる。
オープニングスタート。
緩めスロー系の音楽。デフォルメされた自分のミニキャラがテクテク歩き続ける待機画面。
そしてオープニングが終わり画面が切り替わった。
Vtuberとしての私のキャラクター『号六なな』が画面いっぱいに表示された。
黒髪、前髪ぱっつん。いわゆる地味子。
そのキャラが私の動きをトレースして少しだけ動く。
カメラを通してこちらの動きを反映するモーションキャプチャー、それと連動した2Dアニメーションのソフト。
このソフトのおかげで私はVtuberとして活動できる。
ただ自分のキャラクターに派手さは求めなかった。
特殊なキャラに設定するとあとあと説明や言いワケが多くなる。その辺の初期設定は普通で良い。
もし『異世界で魔王やってました』設定とか『地上にやってきた女神さま』設定とかにすると色々あとで苦しくなる。
なんで魔王がPCいじってんの?
なんで女神さまが病気で入院してたの?
とか、相手にするのが面倒くさい。
結果、悩んで悩んでたどり着いた答えが、ごく普通の超ノーマルVtuber。
これならあれこれ設定を考えなくて済む。だって普通の私で良いのだから。
「お待たせしましたー、ななちチャンネルへようこそー」
現在、同接ふたり。
ま、底辺の個人勢なんてこんなモンっすよ。一ヶ月も続けたからこの状況にも慣れた。
同時接続数。
略されてよく同接と呼ばれる。
生放送のリアルタイムで、どれくらいユーザーさんが配信を見てくれているかハッキリ数字で表示されるのだ。
当然アクセスが多いほどたくさんの人に見てもらえる人気配信者ってことだ。
で、私の配信を見ている人たち現在、二名。
べつにええねん。
個人勢ならではの『ゆるさ』。もうこれでいい。
活動をはじめる前、私も夢を見ていた。
Vtuberになったらすごい人気が出てチャンネル登録が急上昇! みたいな。
が、実際はこんなもんである。
いちいちヘコんでいるとメンタルがもたない。まー、いつも通りだからダメージはないっすよ。
そりゃあ、たくさんのリスナーさんに見てほしいけどねえ。現実は甘くない。人生簡単にバズるわけねえだろ。
ってか、バズりたければ歌って踊って炎上してろ。とりあえず数字だけは伸びる。そのあと鎮火して終わりやけどな。
「はーい、今日はこのゲーム。『ゴクジョウがんせき小石くん』をプレイしていきまーす」
基本、私はゲーム実況をメインで活動している。単純にゲーム好き女子なので配信そのものは楽しんでプレイできる。Vtuberはメンタル管理が大事。ちょー大事。
「今回はレトロゲーでーす」
画面の右下に私のキャラ『号六なな』を縮小して移動させる。
画面の中央に映しだされたゲーム画面。
昔ながらのドット絵。いにしえより伝わりし横スクロールアクション。
現在の新ハードに移植されたおかげで昔のゲームがダウンロードで簡単に遊べるようになった。値段も安くて非常に助かる。
ゴクジョウがんせき小石くん。
当時はそこそこ話題になって売れたらしい。調べてみたら続編が『小石くんスリー』まで出ていた。
「ドット絵って良いよねえ。こーゆーデザイン好きなんよ」
米粒タケル :ふるき良き時代やで
爆裂思春期 :ドットは目に優しい
コメント欄が動いた。
この反応があるから生放送の配信は面白い。だいたい書き込んでくれるメンバーは決まっているので自然とリスナーさんの名前は覚える。彼らのコメントのおかげでこっちも孤独死しなくて済む。
「あ、オープニングあるんか」
短いデモムービーが少しだけ流れた。どうやら小石くんの妹さんが悪代官に攫われたらしい。それを助けるためにお兄ちゃんが冒険に出るって感じなのだろう。
先にゲームの起動確認しただけなのでどんな感じかまだ中身に触っていない。まずは操作内容を確認する。
「えーっとキャラの移動と攻撃、ジャンプ。はいはい、ABボタン二個しかないからシンプルだよねー、昔のゲームって」
主人公の小石くんはカラクリ人形らしい。
ゲームをスタートすると背景にデッカイお城が見える城下町からはじまった。
小石くんは着物みたいな和装スタイル。
ボタンを押すと木刀で攻撃。連打可能。
「小石とか投げるのかと思ったわ。木刀で攻撃すんのかコイツ」
最初のザコ敵が登場。
ツノが生えた赤鬼を遠慮なくブッ叩く。
「これって何ステージあるの?」
爆裂思春期 :六ステージだったはず
「六ステージ? あ、意外と少ないね」
昔のゲームはステージ数がかなり多いイメージがあったので安心した。六ステージならクリアできそうだ。
「私あんまアクションうまくないからねー」
画面が横スクロールで移動していくと、途中から地面がなくなった。
次は足場の狭いジャンプエリアだ。落ちたら即死コース。
まー、移植版は無限コンテニューあるからなんとかなるっしょ。
あまり深く考えずにジャンプしまくっていると足場から小石くんがあっさり滑り落ちた。
《げはあーん》
「うわ、なんで声ついてんの」
いきなり小石くんがしゃべった。
なぜかミスした時のやられセリフだけ声がついていた。昔のゲームなので音割れガサガサで音質はヒドイ。
米粒タケル :スタッフ謎のこだわり
「こだわりポイント間違ってるやろ」
プレイ再開。
で、また落ちた。
《げはあーん》
米粒タケル :げはあーん
爆裂思春期 :げはあーん
「ちょいセクシーなのやめて」
それでもなんとかジャンプエリアを突破。
その先でなぜか空中に串団子が浮かんでいた。
とりあえずジャンプで串団子を叩いてみる。すると中から扇子が飛び出してきた。
「なにこれ強化アイテム?」
その扇子をゲットすると主人公のグラフィックが変化した。突然鎧を着ている。
爆裂思春期 :耐久値が増えた
「扇子が鎧になるって謎システムすぎるやろ」
米粒タケル :昔のゲームだし
まー、ほかの有名な横スクロールゲームでは、オジサンがブロックを叩くと人体が巨大化するキノコとか出てくるし。あまり深く考えてはいけない。ゲームだ、ゲーム。遊べればいいんだよ。
そして普通にザコ敵が出てきたので攻撃。
「え、なんか投げたんだけど!」
さきほどまで木刀を振り回していた小石くんが急に『こけし』を投げはじめた。しかもデカイ。
温泉地とかでお土産で売られている無表情な工芸品。
なぜかこのゲームでは武器として扱われている。
「ちょ、メッチャこけし強いんですけど」
基本装備だった木刀はリーチが短くてやりづらかったけど、鎧モードになった途端こけし無限投げができるようになり無双状態になっている。
「なんかゲームバランス狂ってるね、これ」
爆裂思春期 :デバックやり忘れた?
「ありえるよねー、昔のゲームだと」
最初のステージラスト。
音楽が変わりボスキャラが出てきた。
はじめてのボスキャラは足の生えた鯛だった。なかなか気持ち悪いデザインである。
しかも小魚を投げてくる。
「おらっ!」
攻撃ボタン連打でこけしを投げまくると、あっさり鯛が爆発した。
「おっけ、ないす、焼き魚!」
米粒タケル :安定の爆発オチ
爆裂思春期 :まるこげ
とりあえず最初のステージはサクっとクリアできた。
第二ステージをはじめてみるが、それほど難易度は高くない。こけしでゴリゴリに押せる。そしてボスキャラ登場。
「なんかボス二体いるんですけど」
お面を被った天狗がふたり。
相手の攻撃をかわしつつ反撃、連打。
もちろん、こけし無双。天狗爆発。
「このカラクリ主人公、強すぎんか?」
第三ステージ。意外とクセがない。そのままノンストップで行けた。
そしてボスキャラ三体登場。
赤鬼、青鬼、黄色鬼。
「ちょ、小石くんに勝てないからって友達つれてくんな、お前」
こけし無双。
かわいそうなくらい大量のこけしでボコボコに殴られて散った鬼たち。
「ってか、これ、六ステージは六人ボスキャラ出てくるパターンか?」
米粒タケル :ラスボスの威厳ないやん
爆裂思春期 :量産型ラスボス?
とにかく進むしかない。
次、第四ステージ。
通常バトルは簡単に進める。同じパターンでステージの最後、曲が変わった。
ボスキャラ、イノシシ四匹。好き勝手にお城の前を走り回っている。
「おい飼い主どーした、野生のイノシシ暴走してますよー!」
ま、こけしでボコボコっすよ。たとえボスキャラだろうと無表情な工芸品は万能だった。
イノシシ全部ぶっ飛ばしてステージ四クリア。
ついにステージ五。そろそろ終わりが見えてくる。
その第五ステージもサクサク進んでほい来たボス戦、突入。
案の定ボスキャラ五体で現れた。
「なにこのお札みたいな奴」
米粒タケル :式神やで
その式神五体が同時に攻撃してくる。なんかメッチャ炎を飛ばしてきた。
「画面うるせー」
こけし連打。
なぜか敵の炎もこけしが吸い込んで消し飛ばしてくれる。そのまま式神に命中してダメージ貫通。あっという間に式神が全滅した。
「よっしゃ、きた最終ステージ!」
ステージ六。
いつも通り楽に行けるやろ、と思ったらいきなり穴に落ちた。
落下ミス。
小石くんの鎧も消えて、ここに来て最強こけしを失った。
ヤバイかも……。
「あー、もうちょい頑張れよ小石。腕伸ばせば行けたやろ、今。もっとカラダ鍛えてから飛べや!」
米粒タケル :カラクリに無茶ぶり
爆裂思春期 :主人公に説教しないで
「いやいや、ここで小石に足りないのは努力っしょ。歯を食いしばれ、お前。覚悟を見せろ!」
爆裂思春期 :ここはブラック企業ですか?
マズイ、ちょっとでも油断すると穴に落ちる。
「くっそ。根性、見せてくれ小石、男だろ!」
また落ちた。
《げはあーん》
米粒タケル :げはあーん
爆裂思春期 :げはあーん
「妙な連帯感、だすな」
それでもなんとか落下ゾーン突破。
「あぶねー」
途中で空中に串団子を発見。
ブッ叩いて扇子をゲット。小石くんが鎧モードになった。
「勝ったな……」
こけしがあれば勝ち確定。
自信たっぷりラスボス戦へ突入する。
ラスボス用の専用曲に変わり悪代官、ついに登場。
「どーせ六人、出てくるんだろ?」
ピンだった。
「ひとりなんかい! てっきり六人くると思うやん!」
米粒タケル :容量の都合で……
爆裂思春期 :動かせるわけないやろ
「昔のゲームだもんなー……」
この悪代官、動きが独特でなぜかお尻プリップリで迫ってくる。
どーしてもプリケツが気になる。
「このラスボス、ケツきれいだな……」
爆裂思春期 :ハッシュタグ、ラスボス、ケツ、綺麗
「拡散すな」
不意にラスボスの動きが止まった。
すると画面の上。空からビカーっと光が降ってきた。
瞬間、小石くんが消し飛ぶ。即死である。
「はあああ?」
米粒タケル :サテライトレーザーです
「なんだこいつ、月に友達でもおるんか!」
ミスると鎧モードが解除される。
「ヤバイ、こけし無くした! どーしよ!」
爆裂思春期 :作るか工芸品
米粒タケル :Amazonで送るわ
「いらねーよ!」
ここにきてメッチャ追い込まれた。どんどん死にまくり残機がない。
こけしも無い。攻略法が分からない。
「いきなり難易度上がりすぎだろ!」
初期装備の木刀ではリーチが短すぎる。とにかく悪代官に近づいてゼロ距離で勝負するしかない。
あのサテライトレーザーは命中すれば瞬殺されるが、少しだけ落下地点に隙間がある。まず落ち着いてレーザーを回避しなければいけない。
「冷静に、冷静に、よっし」
ギリギリで最初のレーザーをなんとか避けた。
悪代官が次の動きをする前に迷わず接近。
「おら!」
木刀で攻撃するとダメージを受けた瞬間、少しだけ相手の動きが停止した。
「もしかして」
そのまま連続で殴ってみると、ラスボス停止中もきちんと当たり判定がある。攻撃を続けるあいだずっとダメージが加算されている。
「ってことは、このままボタン連打でいけるか?」
コントローラーを握りしめ攻撃ボタンを連打連打。
ひたすら小石くんが木刀を振り回す。
「おらおら!」
米粒タケル :おらおらおら!
爆裂思春期 :おらおらおらおら!
連打連打で悪代官の顔面をフルボッコにしまくる。
すると画面が突然フラッシュした。
けっこう大きな爆発の効果音。
悪代官があっさり消滅した。
「よっしゃあああーっ!」
米粒タケル :しゃー!
爆裂思春期 :ハムスター元気?
「飼ってねえよ」
質問の意味が分からないが、とにかくクリアだ。
悪代官の城からカラクリの妹さんを救出して無事にスタート地点に帰ってきた小石くん。
その画面をバックにスタッフロールが流れる。
エンディング曲は明るいアップテンポな感じ。
「このゲーム曲、良いよね」
米粒タケル :だから人気がある
と、エンディングが終わった。
「スタッフロールみじか! エンディングもう終わったよ」
昔のゲームってだいたいこんな感じ。
「クリアできて良かったー。途中で沼ったらどーしよーかと思ったよ」
爆裂思春期 :次どーすんの?
「あー、明日あれやりたいんよ。『フォームマイスター』ってやつ」
フォームマイスター。略してふぉすた。
オープンワールドのサバイバルクラフト系のゲームだ。
素材を集めて拠点つくって敵をゲットして自分の仲間にできる。
で、各エリアのボスを倒してクリアを目指していく、というストーリー。
「このゲームPC版とプレステ版でサーバー違うらしくてさー。どっちオススメ?」
米粒タケル :プレステ
爆裂思春期 :PC版たまに落ちる
「あー、落ちるのヤバイね。じゃあプレステ版でやるかー」
PCのマウスを操作して画像を切り替える。
「じゃあ今日はここまで。エンディングうううーっ!」
配信終了。枠を閉じる。
これが私の今の日常。
ネットの隅っこに転がった、号六ななの配信物語。