ダメ男と婚約指輪
ユカちゃんとエリちゃんから、「結婚してください」と同時に言われた。
その光景を見ていたノゾミちゃんは、「私も」と僕の手を引く。
それからサオリちゃんとナツミちゃんも求婚を迫ってきた。
そんな彼女達全員に、「いいですよ」と僕は笑顔で応じた。
「よく考えるとダメ男ですよね」
頬杖をついて溜め息をつく僕に、カナさんが熱々のコーヒーを差し入れてくれる。
「状況が状況ならね。いいじゃない、モテモテで」
「尻軽のダメ男って言いたいんじゃないですよ」
一口、コーヒーを啜る。
コーヒーをブラックで飲むようになったのは、この仕事に就いてからだ。
苦い苦い、大人の味。
僕が大人ということを思い出させてくれる味。
「私もたくさん『結婚してください』って言われちゃった」
「そりゃあカナさんはいいですよ。女なんですから」
「どういうこと?」
僕はポケットから指輪を取り出す。
ユカちゃんとエリちゃんとノゾミちゃんとサオリちゃんとナツミちゃんからもらった指輪だ。
「女の子から指輪をもらうって、僕、何かすごく情けない男みたいじゃないですか」
指輪って、普通、男性が女性に贈るもの。
一生をかけて幸せにするという決意を込めて贈るもの。
「まあまあ、折り紙の指輪なんだから気にしないの。それよりもクリスマスのお遊戯やバレンタインが楽しみね、先生?」
「楽しみにしているのはカナさんの方ですよね」
そう返すと、カナさんはにこにこしながら十個近くの指輪をエプロンのポケットから取り出す。
僕の折った指輪は、ユカちゃんとエリちゃんとノゾミちゃんの取り合われ、ぐちゃぐちゃに破けてしまった。
やっぱり僕は、ダメな男だ。






