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07.領地

 あの後、お義父様にフィニアス様と青年に正体がバレたことを明かした。

 お義兄様も呼び、今後のことを相談した私は領地へと住まいを移すことになった。

 上掛けは綺麗に洗濯され、丁寧にお返しされることとなる。


「何をしてもいいと言ったが、テイル……」

「なんですの?お義兄様」


 私は今汚れてもいい服を身に纏い、鍬を手にしていた。

 目の前に広がる屋敷の庭の一角は、昨日庭師から譲り受けた私専用の畑だ。

 お義兄様はご婦人キラーと呼ばれるキラキラとしたお顔を呆れたように崩し、私と畑を見ている。

 

「人参、じゃがいも、キャベツ、何を育てようか悩んでますの。何がいいと思います?」

「好きなものを植えればいいんじゃないか?」


 部屋で読書や刺繍をしていると、無意識でフィニアス様のことを思い出してしまう私は体を動かしたくなった。

 庭師の庭いじりにくっついて回ったところ、お義兄様は一角を私専用に与えてくれた。

 お花を植えると思っていたのだろうお義兄様は、朝も早くから耕し始めるとは思っていなかっただろう。

 

「お義兄様もいかがですの?体を動かすとすっきりしますわ」

「遠慮しておく。どうだ?こっちでの暮らしは」


 もう領地に住まいを移してから1カ月ほどが経っている。

 王都の屋敷には一度フィニアス様がいらっしゃったようだが、その時には私は既に領地に来ていた。

 お義父様が対応されたようだが、どのような話をしたのかわからない。

 けれど、私の元に誰も来ていないことから、リンベルンの生き残りということは黙ってくれているようだ。

 情けをかけてくれているのだろうか。本当にフィニアス様はお優しい。


「みんな優しいですわ!快適に過ごしておりますのよ」


 領地は港町になっており交易の場となっている。

 お義父様はお仕事がり王都から離れられず、お義母様も一緒に来たがったが、社交があるため私とお義兄様だけが領地にへと来ていた。

 海風の匂いで満たされている町は気持ちよく、商売人が多いこともあってか、活気づいている。

 メイドと使用人も陽気な人が多く、私は毎日を楽しく過ごしていた。


「リリス様とも早くお会いしたいですわ」


 私とは違い、お義兄様には昨年リリス様という婚約者ができた。

 顔合わせの際にお会いしたが、商家の娘で気立ての良い人だ。

 むしろ元気いっぱいで勝気な方なので、お義兄様は将来尻に敷かれるのではないかとさえ思っている。

 来年に結婚式が予定されていて、今から楽しみでならない。


「商談からそろそろ帰ってくる頃だろう。リリスもテイルに会いたいといってたな」

「まあ。ではいらっしゃったら招いてもいいかしら?いえ、遊びに行ってもいいですわね。は!お義兄様には渡しませんわよ!」

「テイルであっても俺の婚約者なんだから譲れないな」


 お義兄様は私に優しく、甘やかしてくれるため喧嘩の1つもしたことないが、今はリリス様を巡って火花が散っている。

 リリス様のこととなると心が狭くなるお義兄様。まことに恋とは愚かである。


 ■□■□


 畑には結局、キャベツを植えた。

 毎日、実ったキャベツをどのように料理するかを考えて過ごしている。

 お義兄様はロールキャベツが好きなので、ロールキャベツにすることは確定だ。

 とはいえ、私は料理ができないため、料理長に渡して調理してもらうのだけども。


「大きく育ちますのよ~」


 水を撒きながら、キャベツに話しかける。

 メイドや使用人はそんな私の姿を楽しそうに見ていた。

 決して令嬢らしくない私だが、お義兄様がリリス様以外のことでは私に優しいこともあり、よくしてくれている。

 私は恵まれている。


「テイル様。そろそろ用意しませんと」

「はい!すぐ参ります!」


 まだお義兄様のお手伝いをするには至らない私は、こちらでも家庭教師をつけてもらっている。

 畑いじりをしている私は先生が来る前に身支度を整えなければいけない。

 畑を確認して、満足した私はいそいそと屋敷へと戻った。


 

 身支度を終えた後、ゆっくりと待っていると時間通りに家庭教師であるジーニアス様がいらっしゃった。

 リリス様の弟であるジーニアス様は、いつも眠そうな半開きの目をしていて、感情表現が苦手なのか不愛想だ。


「お待たせしました。では、昨日の続きから始めます」

「はい!よろしくお願いしますわ」


 ジーニアス様は雑談が得意ではないのか、毎日静かに時間が過ぎていく。

 リリス様はよく喋る方なので、姉弟で正反対だなぁと思うばかりだ。

 おおよそ2時間ほどの時間をいただいている。

 特に予定のない私はいつも外まで見送りに出ていた。


「本日もありがとうございました」

「仕事なので。……あ、そのままじっとしてください」


 私よりも頭一個分大きいジーニアス様が、手を伸ばしてくる。

 どうしたのだろうと思えば、左耳の横当たりで骨ばった指先が髪に触れた。

 どうやら綿毛がついていたようで、ジーニアス様が綿毛をつまんで見せたあと、綿毛を離した。

 風に乗って飛んでいく綿毛を見送る様に、視線を流した先を見て、私は固まった。


「……フィニアス、様?」


 どうしていつも突然現れるのだろうか。

 屋敷の前にいるのは、私がずっと会いたくてたまらなかった人。

 同時に、会うのが怖かった人だ。

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