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叔父さんの内緒話

作者: 桐生甘太郎





私は今、中学二年生。ちょっとしたことで進路に迷って、昔いい高校に行っていたという叔父さんの家を訪ねたところ。


「家」と言っても叔父さんはアパート暮らしだから、「部屋」と言った方がいいかもしれない。


「叔父さん、こんにちは。来たよ」


「よう」


叔父さんは短くそう言って、私を迎えてくれる。


古いアパートの一階にある叔父さんの部屋は、ほんの少し蒸し暑かった。エアコンは点いていたけど、多分効きが悪いんだと思う。冬に来ても、寒いし。


「どうしたい。急に来るのも久しぶりじゃない」


床に散らばったゴミをかき集めては部屋の隅に寄せ、叔父さんは私にクッションを差し出す。


「おっと、埃だらけだ。こっちにしな莉子ちゃん」


そう言って差し替えられたクッションは、ゾウの模様が描いてあった。


「ありがとう」


叔父さんも私も席に就いて、叔父さんは煙草に火を点けた。


私は、叔父さんが煙草を吸っている姿を見るのは、嫌じゃない。だって、ちょっとかっこいいもの。


「別に、用ってわけじゃないんですけど…相談したいことがあって」


そう話しだして、私は一通り、ここ何か月かの間に起きた事を話した。


お父さんからもお母さんからも、学校の先生からも違う意見を言われて、どうしたらいいか分からない。私の悩みはそれだった。


話の途中から叔父さんはちょっとにやついていて、でも、悪い事を考えているというより、楽しそうな感じだった。


私の話が終わると叔父さんは吸っていた煙草をもみ消し、また新しい一本を吸いつける。そして、ぷはっと煙を吐いた。


叔父さんはしばらく考えていたみたいだったけど、やがてこう言った。


「じゃあ、俺だけ内緒のことを教えてやろう」


「え?」


“内緒のこと”って、なんだろう。私の知らないうちに何か大人が話してたのかな?


そう思ったけど、叔父さんが言ったのはこんな事だった。叔父さんはリラックスして、片手を振るような仕草をまじえて喋りだす。


「大人はね、みんなもっともらしいことを言いたがるんだよ」


「たとえ忙しいから間に合わせに言ったことでも、それらしく形を整えたら、あとは知らんぷりしちゃうんだ」


「それに、今度莉子ちゃんが言われたのが、真剣に考えてくれたことだったとしても、別に莉子ちゃんがそれに従わなきゃいけない理由なんか、どこにもないんだよ」


「だってやるのは莉子ちゃんで、ほかに誰も責任は取ってくれないんだからね」


叔父さんはそこまで言って、煙草を灰皿に押し付ける。そして私を見て笑った。


「俺がこんなこと言ってるってのは、内緒だぜ?」


私はなんだか嬉しくなって、「わかった。秘密にする」と返事した。


「よしよし、いい子だ」


そう言って叔父さんは私の頭を撫でたから、私はちょっとむくれて見せる。


「子ども扱いしないでよ」


「だって子どもじゃないか」


「そうだけど…」



帰り際、叔父さんは私を玄関口に見届けてから、「気ぃつけてな」と言ってくれた。


「うん。ありがとう。またね」


「おうよ」



叔父さんは不思議な人だけど、なんだか今日はスゴイ秘密を知っちゃったかも。


そう思うと私は気持ちが軽くなった。


「美術の専門校、通いたいって…言えるかな…」


私は、「どうやら周りの言うことばかり気にしなくてもいい」とは分かっても、本当にやりたい事を言い出す勇気が出なかった。


「あ!」


私はそこで、身内に切り出す勇気を持つにはどうしたらいいかなんて、叔父さんは教えてくれなかったと気づいた。


「大人なんだから、もう…」


でも、私は足取り軽く、「なるようになるか」と家に帰った。





End.

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