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神城組の狂人たち  作者: 白猫
3/5

ケジメ1

今日は1人の兄貴が荒れていた。瞳孔が開いたまま、後ろに立っていた俺を呼んだ。


「駿河〜ちょっと座れー。」

「はい。」


この人に逆らうと何をするかわからない。兄貴…佐村の兄貴が目の前に座る舎弟の元斑もとむらを怒り狂いながら凝視していた。それに対して元斑は顔を真っ青にして小さくなり震えていた。


「元斑〜?お前よくもやってくれたな?」

「う…うぅ。」


なぜこんな状況になっているかというと、ことの発端は元斑が兄貴の妻を寝とったことから始まった。その現場を見た組員からの報告でわかった。


佐村の兄貴

この世界では【硫酸の佐村】と言われている。硫酸を用いた戦法で敵を溶かしている。


《さぁどろどろになれやぁー》

《きゃあ!》

《目がぁ…!》


人体を溶かすと言われる薬品を躊躇もなくぶっ掛ける狂人だ。ナイフや弾丸にも特製の硫酸を浸して殺す。


そしてこの話を耳にした佐村の兄貴は元斑に問い詰めた。


「俺の女に手を出すなんてやるじゃん?溶かしていい?」

「ひぃひいいぃ。も、申し訳、ございませんでした。」


元斑は兄貴の妻とは知らなかったらしい。しかしこの世界ではそんなことは理由にはならない。

そして今からそのケジメをとる儀式をやることになった。


「駿河!あれもってこい。」

「わかりました。」

「元斑〜手を出しな?」


エンコ詰めだ。しかし任侠ドラマでみるようなことではない。佐村の兄貴独自のエンコだ。

用意したのは桶に張ってある硫酸だ。この硫酸に小指をつけて溶かすエンコ詰めだ。とてつも無い痛みが襲う。切るよりも遥かに残忍だ。

うちの組ではまず輪ゴムを根元を縛り、麻酔代わりにする。紫色になったらその指を硫酸に自らつけて溶かすというやり方だ。


「そろそろいけんだろ?やれよ。さぁ?」

「は、はい…」


鬱血した小指を震えながら硫酸の桶へと持って行く。青い顔した元斑はさらに震えていた。それを見かねた佐村の兄貴は元斑の腕を掴み…


「おせぇんだよぉ!この鈍間が!」

「ギャァぁぁれ!!」


指ではなく手ごと硫酸の桶へと漬け込んだ。叫び声が聞こえる中、佐村の兄貴は腕を離そうとしない。数分が過ぎるとやっと腕を離した。

元斑の手を見ると若干残っているものの、ぶらついていて取れそうだった。これで終わりかと思った。

しかし


「まだ終わってねぇよ?次は眼だぁ!隻眼になぁれ!」

「ぎゃあうああああ!」


片目をスポイトにいれた硫酸を掛けやがったのだ。さすがにやり過ぎだと思い俺は止めたが。


「さすがにそれは。」

「なんじゃあ?文句あんのか?次はお前か?」

「いえなんでもありません。」


俺は何もいえなかった。すまん。

元斑を医者へ連れて行こうとしたが問屋は下ろさなかった。


「元斑…闇医者へ…」

「まてぇ駿河…シノギ取りに行くぞ?元斑もいくぞ?」

「え?え、」

「了解しました。」

(病院にもいけねぇのか。)


俺はこの時、佐村の兄貴の思惑に気付くことがなかった。そしてその言葉の意味を知らなかった。

俺たちは車のトランクにダイバースーツを入れていた。


「これから海ですか?」

「うん!楽しいヨォ!」


事務所を出て、車を走らせ、千葉県の埠頭へと辿り着く。


「マル暴は居ませんね。」

「鮑取りの祭りだヨォ!!」


これから行うのは【鮑の密猟】だ。本職は魚とは縁深い。それは金になるからだ。

カタギに出回る鮑や魚類が密猟品なんてことはザラにあるらしい。

そしておれはあることに気づく。


「あれ?兄貴…ダイバーが居ませんが?」

「あ?」


本来なら現地のダイバーを雇うというが…今日は見当たらない。ま、まさか…!


「大丈夫!元斑がやってくれるからなぁ?そうだろ?えぇ?」

「は、はい…。」


片目を腕を失っている元斑に肩をポンと置いてそう言った。

怪我というかいろいろ失っている奴を潜らせるとか正気か?素人だぞ、しかも潜れるわけがない。

返事がない元斑を佐村の兄貴は殴りつけた。何度も殴りつけた。そしてボートからダイバースーツに身につけた元斑が海へダイブした。潜って数秒が経った時、兄貴が棒読みで言い出した。


「いっけねぇ取り立て忘れてたわ。」

「え?」

「駿河、急いで帰るぞ?」

「元斑はどうするのですか?」

「あ?んなもん決まってるだろ?置いて行く。帰るぞ?」



兄貴はドスを聞かせた声で俺にそう言った。従うしかなかった。

そして俺は全て悟った。この男…初めからそうするつもりで元斑を…

すまねぇ元斑。言い返せねぇ俺を恨んでくれ。


沖に着き、片付けを済ませて帰ろうとしたとき、敵対組織である【三村組】の鉄砲玉ヒットマンが立っていた。


「これはこれはネジが外れた佐村さんじゃあねぇですか。」

「うちのシマを荒らしてはいけないよぉ?」

「あれ?駿河。雑魚がやってきたよぉ。海だけに。」


武闘派である佐村の兄貴は常日頃から命を狙われている。


「お前らも溶けるかぁ!」

「あ、兄貴!」


やられる前にやるそれが兄貴だ。1人に発砲しながら硫酸を持って向かって行く。


「ほらたんと飲めぇ硫酸だよ?」


首を絞めながら硫酸を飲ませていると


「佐村!往生せぇよ。」

「ぐああ。」


背後から撃ち漏らした敵に側頭部を撃たれてしまった。俺はやらなければやられるという精神で一心不乱に引き金を引いた。

どれくらい経ったのだろうか、空は緋色に染まり、海の一部も緋色に染まっていた。


「あ、兄貴…死んでる。」


佐村の兄貴は即死だった。元斑のことを考えるとこの男は死んで当然だったともいえるだろう。

数時間後に元斑は死体となって上がっていた。


この世界は人の命は簡単に消える。内でも外でもそれは簡単に消える。この俺もいつ消えるかわからない。それまでは…死ぬわけにはいかない。




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