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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ボクはキミを2度助ける シエラver.

作者: ひまると

どうして、こんなことになっちゃったんだろう。

こんなことなら、誰かと一緒に来ればよかった。


私は、目の前に迫るトロルを見上げて、絶望にも似た感情に襲われていた。



グォォォォーー



もうダメ……。



「下がってろ!こいつは俺が相手をする!」



私が諦めかけたその瞬間、彼は颯爽と現れ、私とトロルの間に割り込んだ。


そして、彼はあっという間にトロルを倒し、何事もなかったかのように私を助け出してくれた。


その時が初めてかもしれない、男の人をカッコイイと思ったのは。



「大丈夫か?ケガは?他に仲間は?」



そう言いながら、彼の差し出してくれた手を取り、私はゆっくり立ち上がった。


彼の顔は見覚えがあった、何回かギルドで見かけた顔。

その時はなんとも思わなかった、どこにでもいる冒険者の1人くらいにしか認識してなかった。


でも今は違う。あんなにカッコ良く助け出されたら、イヤでも意識してしまう。



「あっ……わ、私一人でもトロルくらい倒せたんだから!」



意識してしまったから、思ってもいないことが口から出てしまう。


違う、違うの。本当はありがとうって。お名前は?って聞きたいのに。


でも、私の言葉で彼の表情は曇ってしまった。



「そ、そうか……じゃあ、とりあえず森の出口までは一緒に行くから……」



「え、ええ……」



それから無言で森を出て、私たちは別れた。


あのとき、素直にありがとうって言えていたら、もう少し彼と仲良くできたかもしれないのに……。



「……ばか!」



自分にそうつぶやいて、私も家に帰っていった。



***



「ねえ、シエラちゃん、いいじゃねえか。俺とコンビを組んで冒険しようぜ?」



ギルドに顔を出すと、毎回誰かしらに声をかけられる。



「私、あなたに興味ないわ!ここには依頼を受けに来たの、退いてくれないかしら」



そう言いつつ、視線を巡らせた。


いた!この前の彼だ!



「おい、サイラス!お前もシエラちゃんのことが好きなんだろ?告白でもしてみたらどうだ?このギルドじゃ、告白してない奴の方が少ないんだぜ?」



彼のもとに行こうとした私の耳に、彼らの話が聞こえてきた。



「俺はいいよ。お前たちみたいに、フラれても平気なほど、鋼のメンタルをしてないからな。それに俺は強い女性が好きなんだ」



えっ……強い女性…………。


その瞬間、私は足を止め、混乱する頭で一生懸命に考えた。


強い女性ってことは、彼に助けられた私は強くないから、眼中にないってこと!?


それなら、私は強くなる。強くなって、彼に認めてもらうんだ。



***



「この依頼をお願いします」



「はい、こちらの依頼でよろしいですね?」



「ちょっと待って!その依頼は私が受けるわ。サイラス・ドーラ、あなたは他の依頼を受けなさい」



私は受付で話をしているサイラスを見つけて、急いで彼のもとへ駆け寄る。


本当なら、一緒にその依頼を受けたいと言いたいのに……どうしても素直な言葉が出てこなかった。



「えっ、シ、シエラ……さん。これは、俺が受けようとした依頼で……」



「さん付けはしなくて結構よ、シエラでいいわ。そんなことより、その依頼は私が受けるから譲って!」



「えっ、でも、この依頼はシエラ1人では……」



「私だって、そのくらいの依頼は簡単に遂行して見せるわ!」



「え、えーと、それでは、こちらの依頼はシエラ様がお受けいただけるということで、よろしいですか?」



「あ、ああ、シエラもこう言ってますので……俺は別の依頼にします」



***



「それで、カッコつけようとして横取りした依頼が難しすぎて、あたしに助けを求めたってことね」



「そ、そんなんじゃない……けど…………」



「はぁー。あんたね、もう少し素直になりなさいよ。そんなんじゃ、いつまでたっても愛しのサイラス様に振り向いてもらえないよ?」



「べ、別にそんなんじゃ……」



「へえ……じゃあ、なんでわざわざ、サイラスの依頼を横取りなんてしたのさ?」



「そ、それは……」



彼女の名前はレヴィ・アンバー、私の唯一と言ってもいい親友で、頼りになる女性。


今回は彼女と一緒に依頼に来ている。依頼内容はオーク5体の討伐。

1体なら私1人でもなんとかできるけど、複数体となると弓を使う私には無理だった。


そう考えると、やっぱりサイラスは凄い。

彼が強いと認める女性なんて、いるのかな……。



「そ、そんなことより!レヴィはどうなの?恋人とかできた?」



「あたしに声をかけてくる度胸のある奴なんていやしないよ!でも、まあ、そうだね……サイラスが強い女が良いってんなら、あたしはピッタリかもしれないね。あたしから、声でもかけてみようか」



「だ、だめー!!」



レヴィは強い、うちのギルドの中でも上位に入る実力がある。

そんなレヴィが、サイラスに声をかけちゃったら、もしかすることもあるかもしれない。


私の必死の言葉を受けて、彼女はニタリと笑ってこっちを見た。



「やっぱり、サイラスに惚れてたんだ。聞かせてごらんよ、協力してあげるから」



「惚れてるってわけじゃ……ただ認めてもらいたいって言うか……私を見てほしいって言うか…………」



それから私は、トロルから助けてもらったことや、そんな彼がカッコ良く見えていることをレヴィに話した。



「それで、強い女が好きだって聞いたから、人知れず強くなって、彼に認めてもらいたいってわけかい?そんな回りくどいことするくらいなら、直接、そう伝えた方が早いんじゃないかい?」



「で、でも、それで、弱い女に興味ないなんて言われたら、どうするのよ?」



「わかった、わかったよ!とりあえず、あんたが強くなれるように協力はするさ。まずは剣の使い方からだ。あんたは確かに弓の使い方は上手いけど、近距離では弱過ぎるからね」



「う、うん。レヴィ、私に剣の使い方を教えて!」



「言われなくても、教えたやるさ。あたしとあんたの仲じゃないか。サイラスの方があんたに惚れるくらい、あんたを強くしてやるよ!」



サイラスに惚れられる、それを想像してニヤけていた私の頭を、レヴィは軽く叩いた。

そして、前方にいるオークを指さした。



「浮かれる前に、敵を見な!剣を構えて、リラックスするんだ、変な力みは剣を鈍くするよ。あたしが援護する、心配しないで突っ込みな!」



「う……うん!や、ヤァァーーー!!」



***



「まあ、こんなところじゃないか。剣の腕も上達してきているよ。これなら、オーク程度であれば問題ない」



「ありがとう、レヴィ。私、その……強くなったかな?」



「強くはなってると思うよ。ただ、まあ、サイラスより強くってのは、まだまだ無理だろうねえ。もういっそのこと告白したらどうなんだい?」



「で、でも、まだ、強くなっているかも分からないし、やっぱりその……それに好きっていうか……」



「はあ、いつも他の男にするみたいに、はっきりしてやればいいのにさ。サイラスのこととなると、相変わらずだね、あんたは」



私とレヴィは、その後も何度も一緒に依頼を受けていた。

実際には、私が依頼を受けて、こっそりレヴィが手伝いながら、剣術を教えてくれている。


その甲斐もあってか、剣術の腕も少しずつだけど上達している。


でもまだ、サイラスが受けようとしていた依頼を、1人で遂行できるまでにはなっていないのよね。

サイラスに認めてもらえる日なんてくるのかしら。


次の日もその次の日も、私はサイラスが受けようとしていた依頼を受けた。


やっぱり私には難易度の高い依頼が多い。

その依頼を涼しい顔でこなすサイラスは、やっぱりかっこいいな。


私も早く強くなって、サイラスに認めてもらうんだ!



そんなある日、ギルドの受付で依頼を受けようとするサイラスを見つけた。


私はいつものようにサイラスの依頼を受けようとしたけど、いつもと様子が違っていた。



「この依頼は完全出来高制で、冒険者の募集人数にも規定がありませんので、お二人で受けられてはどうでしょう?」



受付のお姉さんの言葉に、私は内心喜んでいた。


サイラスと一緒に依頼を受けることができる。サイラスのカッコイイ姿を、また見ることができるんだ。



「あっ、いえ、俺は別の依頼でも……」



えっ、ちょっと待って!せっかく2人で依頼を受けることができるのに……。



「構いません!2人で、この依頼を受けたいと思います!」



「えっ、でも、俺と一緒じゃイヤなんだろ?」



「べ、別に、イヤだって言った覚えはないわ!ただ、私が受けようとしていた依頼を、いつもあなたが横取りしていくだけよ!」



……もしかして、私、サイラスに嫌われてるのかな。


でも、そうよね。サイラスからしたら依頼の邪魔をするヤツくらいにしか見えてないだろうし、仕方ないのかな……。


本当は、あなたに認めてもらいたいだけなのに……でも、そんなこと言えないよ。


それから些細な言い合いをして、ゴブリンの討伐数での勝負をすることになった。



「いいわね、明日の夜明けに、ここに集合よ!」



***



「で、サイラスに良いところを見せたいから、アドバイスをくれってかい?」



私は彼と別れてそのままレヴィのところに来た。

理由はもちろん、明日のためにアドバイスをもらうことが目的。



「う、うん。サイラスに実力で勝つのは無理だけど、倒したゴブリンの数なら私にも勝機があるかなって」



「アドバイスも何も、いつもみたいに弓矢で一体ずつ倒していくのがいいんじゃないかい?いくら剣術の腕が上がったとはいえ、まだまだ乱戦では厳しいよ」



「そ、そう……だよね」



「ところで、あんた、負けたら何でも言うこと聞けって約束したんだろ?いったい、何をさせるつもりなんだい?まさか、私と付き合え!なんて言うんじゃないだろうね?」



「ち、違うわよ!私はただ、サイラスに私の力を認めてもらいたいだけっていうか……」



「はあ。本当にそれだけかい?好きとか、そういう感情はないっていうんだね?」



「それは……わからない。助けてもらって、その姿を見てカッコイイなとは思った。それからは彼に認めてもらいたい一心で。どうすれば、彼に私を見てもらえるかとか考えたりして。でも、彼の受けようとしてた依頼を受けるたび、彼の凄さが分かるようになって……こういうのを憧れって言うのかな……」



「いや、あんた……それをみんなは、恋って言ってるんだよ…………。はあ。まあいい。とにかく、ゴブリンを甘く見るんじゃないよ!あいつらはバカだけど思考力がないわけじゃないからね!」



「わ、わかった!」



「いいかい、弓矢を持っているゴブリンがいたら気をつけな。あいつらは矢に毒を塗っていることが多い。その毒で動きを封じて、女を犯すためだ。いいね、弓矢を持っていたら先に殺すか、射線に入らないようにするんだよ」



「う……うん」



「あとは、そうだね……もし、チャンスがあったら、押し倒してキスでもしちまえば、サイラスの方から手を出してくる。あんたは美人でスタイルもいいからね。それで既成事実を作っちまえば、こっちのもんさ!」



「もう!真剣に相談してるのに!」



「ははは、別に冗談で言ってるわけじゃないんだけどね。まあ、無茶だけはしないようにしなよ」



***



ふう、これで4体目。

やっぱり弓矢だと一気に倒せる数に限りがあるなあ。


こんなことで、サイラスに勝てるのかな……。

やっぱりちょっと危険でも、もう少し奥に行くしかないのかも。


私は慎重に森の奥へと進んでいった。


いた!3体いるけど、何かやってるみたいだし、気づかれなければ大丈夫。


その時の私は、完全に油断していた。

ゴブリンはバカだけど甘く見てはいけない。そんなレヴィの忠告が頭から抜けていた。



ガサガサ。


背後からの物音に、私は背筋が凍るような思いで振り返った。


ゲヘッ、ギィィ。


そこには醜い顔の魔物が舌なめずりをしながら立っていた、ゴブリンだ。


すかさず、そのゴブリンに向けて矢を放った。

矢は見事に命中し、目の前のゴブリンは卒倒した。


しかし、調子が良かったのはそこまでだった。

物音に気付いたゴブリンたちが集まってきたのだ。


イヤ!こんなところで、ゴブリンにやられるなんて、絶対イヤ!


なんとか剣を振り回しながら、私はその場から逃げ出した。


ゴブリンはそんな私を追いかけた。

付かず離れず、まるで私が消耗するのを待つようにジワジワと追い詰められていく。


あっ、ダメ!


ついに私はゴブリンに弓矢を奪われ、素材袋も奪われた。

そして、なおも逃げる私を、やつらは取り囲み、下品な笑みを浮かべている。


ああ、イヤ……イヤだ、怖い…………助けて、誰か助けてよ……。

お願い、誰か。レヴィ……サイラス…………。



「シエラ!!」



声のする方へ視線を向けると、恐怖で歪んだ視界の中に彼はいた。


来てくれた、彼は、また私を助けに来てくれた。


その瞬間、粗雑な弓矢を構えるゴブリンが視界に入った。



「サイラス!来ちゃダメ!!」



彼は私の制止も聞かずに飛び込んできた。

そして次々と周囲のゴブリンをなぎ倒していく。



「ハァハァッ、ハァ、ハァ……」



ゴブリンを全滅させた彼は、肩で息をしながら青い顔をしていた。

極度の緊張感、疲労感……違う、彼の右肩に刺さった粗雑な矢が原因だということを、私はすぐに理解した。



「サイラス……ごめんなさい…………」



「本当だよ、まったく!なんでこんな無茶…………この矢、毒が……シエラ、解……毒…………」



そう言いながら、彼はその場で意識を失った。


どうしよう、どうしよう、どうしよう。

サイラスが死んじゃう、私のせいだ、私の……。

サイラス、死んじゃイヤ……ダメ、イヤ……どうしよう、どうしよう。



その時、彼の言葉が脳裏に浮かんだ。


解毒……そうだ、解毒!応急処置でも、解毒ができれば、助かるかもしれない。


私がやるんだ、今度は私が彼を助けるんだ!

彼が私を助け出してくれたように、今度は私が。


でも、私には薬学の知識がない。

そこら辺の草も、どれも同じに見える。


……そうだ、あの時!


『これは解毒薬に使われる薬草で、ドクカイソウって呼ばれてるんだぜ。口に含んで噛んでれば、成分が溶け出して応急処置にも使えるんだ。一枚あげるよ』



私はトロルから助けてもらったときの彼の言葉を思い出した。

慌てて、胸当ての中に手を入れ、こっそり細工して作った胸ポケットを探った。


あった、あの時もらったドクカイソウ。

でも、これ……乾燥してて使えない……。


私はその乾燥した草を頼りに、周囲を見渡した。


あっ、これだ!見つけた、ドクカイソウだ。

でも、サイラスは意識がないのに、どうやって噛ませればいいの……。



『もし、チャンスがあったら、押し倒してキスでもすれば……』



レヴィの言葉……そうか、私が少し噛み砕いて、それをサイラスの口に入れてあげれば……。


私は無我夢中で薬草を噛みしめた。


に、苦い……解毒薬って、こんなに苦いの!?


吐き出したくなる衝動を抑えて、なんとか口の中で団子状になるまで噛みしめて、ハッとした。


これをサイラスの口に……。


再びレヴィの言葉が脳裏をよぎる。


キス……サイラスに口移しで…………で、でも、今はそんなこと考えてる場合じゃないよね。これはサイラスを助けるために必要なことだもん……。



「サイラス……い、いくよ…………んっ」



なんとか彼の口にドクカイソウを含ませることができた。


私は、やけにうるさい自分の心臓の音を聞きながら彼を見守った。

そして、ぼーっと見つめながら、フワフワする頭で彼の無事を祈る。



「う……うぐっ」



うめき声と共に顔をしかめた彼の顔は、心なしか血色が良くなってきたように見える。

荒かった呼吸も、徐々に落ち着いたものになっていく。


よかった、なんとか応急処置が間に合ったみたい。


そう思った瞬間、急にサイラスの口にドクカイソウを含ませたときのことを思い出した。


あっ、あれ、私のファーストキス……。


急に恥ずかしくなって、顔を手で覆いながらサイラスを見た。



『それをみんなは、恋って言ってるんだよ』



レヴィの言葉……私はサイラスのことが好き……なのかな。


カッコイイと思うし、認めてもらいたいとも思う。

でも、本当にそれだけ?


私は必死に彼を助けたけど、それは彼に死んでほしくなかったからで……。


なんで死んでほしくなかったんだろう……私が原因で命を落とそうとしているから?

違う!私が彼に死んでほしくないと思った、本当の理由、それは……。



「ゲホッ、ゴホッ、ゲホゲホッ……げえぇぇ、苦っ……」



「サイラス!!よかった、もう目を覚まさないかと……」



それから、彼に現状を説明した。

彼は病み上がりにも関わらず、冷静に状況を把握していった。



「俺はてっきり、シエラに嫌われているものだとばかり……」



話の中で彼の言った言葉。サイラスは私が彼を嫌っていると思ってたみたい。

でも、それは違う。私は気づいた、あなたに対する気持ちを、ようやく理解することができたよ。



「私は、あなたが好きよ、サイラス……」



「えっ、あっ……おっ、俺だって……あっ…………」



慌てたように立ち上がろうとしたサイラスは、そのままバランスを崩し意識を失った。


それから少しして、救助に来た冒険者たちと、私たちは森を出た。



***



それから二日間、サイラスは眠り続け、そしてようやく目を覚ました。


良かった、本当に良かった。サイラスが生きててくれて。



「二度と目を覚まさないのかと思って心配したのよ!あんな無茶して!」



「そうだな、心配かけて悪かったよ。でも、無茶はお互い様だろ?」



「うっ……と、とにかく!今後は無茶しないこと、いいわね?」



「ああ、約束する」



「よし!ねえ……あのとき、何を言おうとしてたの?」



私の問いにサイラスは、いきなり体を起こし、バランスを崩した。

とっさに彼を支えることには成功したけど、彼との距離の近さに自分の心臓が早鐘を打つのが分かる。


どうしよう、ドキドキしてきた……。



「俺もシエラのことが好きだ。ずっと前から大好きだった、結婚してほしい」



えっ!?今なんて……結婚!?…………それにサイラスも私のことを好きって……。

嬉しい……でも、結婚って……。



「ふふふ。あー、おかしい。いきなり結婚なんて、私たち恋人でもないのに……でも、サイラスらしいわね」



「あっ、えっと、違うんだ。その、結婚を前提に付き合ってほしい」



「イヤよ!私と結婚するんでしょ?私の初めてのキスを捧げたんだから、責任は取ってもらわないと」



彼の気持ちを知って、間近で彼の顔を見ていたら、自分の中で何かが吹っ切れた気がして、思わず私の方から、彼に口づけをしていた。



「……ちょっと早いけど、誓いのキス」



「シエラ、もう一回!もう一回お願いします!」



「だーめ!本番までお預けよ!」



私は照れ隠しで、彼に向けて舌を出し、おどけて見せた。



「ねえ、サイラス。本当に私でいいの?サイラスは強い子が好きなんでしょ?私はサイラスが思ってるほど強くないわ……」



「そうでもないさ。今回の勝負はシエラの勝ちだよ」



「えっ!?嘘よ、そんなはずない!」



そんなはずない。私が倒したゴブリンは4体、サイラスがそれ以下なんてありえないもの。



「嘘じゃないさ。そこの素材袋を見てくれ」



私は言われるがまま、サイラスの素材袋を確認した。



「うそ……」



その中には、ゴブリンのものと思われる耳が3つのみ。



「俺が倒したゴブリンは全部で3体だ。シエラは4体だろ?だからシエラの勝ちだ。シエラ、きみは強い女性だよ」



「なんで、そんなこと……ううん…………ありがとう、サイラス」



私はもう一度だけ、彼に口づけをした。


本当はね、気づいてるんだ。

森から出るときに、私の弓矢の近くに不自然に散乱したゴブリンの素材を見つけたもの。


それに、私はゴブリンを4体倒したなんて言ってないんだから、サイラスが知ってるはずないのに。


でも、そういう詰めの甘いところがサイラスらしいよね。

大好きだよ、サイラス。




それからも、私たちは同じ依頼を受けている。

彼が前衛、私が後衛……彼より強くなくたって、彼が私を引っ張ってくれている。


私は、彼が安心して前だけを向いていられるように支えていくんだ。

だからサイラス、背中は私に任せてね。

数ある小説の中から、この小説をお読みいただき、ありがとうございます。


同タイトル作品のヒロイン視点となります。

特にご要望はありませんでしたが、気が向いたので、執筆・投稿いたしました。


今後も恋愛ジャンルの小説に力を入れていきたいと思います。


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