シンデレラとの決別
「レラ!意識が戻ったのね!」
リナさんとシアさんがレラのもとに駆け寄った。
「姉さん、王子が...!」
レラは再び震え始めた。ほんとに何かにおびえてるみたい。
「大丈夫よ、レラ。もう逃げましょうね。」
リナさんが言った。逃げる?
「逃げる、ってどういうことですか?」
「麻衣?」
レラが私に気づいた。レラの目は、恐怖のあまりにいつものキラキラした輝きがなくなってしまっていた。焦点はあっておらず、廃人のようで。本当に何から命を懸けて逃げているのだと信じないわけにはいかなかった。
「逃げるって、王子から逃げるのよ。このままじゃ、また私たちは死んでしまうの。」
シアさんが私に強く言う。なんでそんなこと言うの?口を出さないでくれる?みたいな調子で。それでも私には一つ納得できないことがあった。
「あの...」
「何?」
リナさんがいらいらしながら答えた。携帯を見ているけどきっと逃げるための何かを手配したり調べたりしているのだろう。
「私が見た男の子は、ものすごいイケメンでしたよ。」
「イケメンとかいうわけじゃなくて。瞳とか、髪の毛の色はどうだった?」
シアさんが私を問い詰める。
「えっと、夜の闇みたいな黒い髪ともうすぐ夜が明ける空みたいな瞳だったと思います。」
シアさんとリナさんがうなだれた。
「それが、それが、王子の特徴なのよ。魔法使いと手を組んだ王子は自分の顔を自由に変えるけれど髪の毛と瞳の色は変えられないの。その男は間違いなく王子よ!」
だんだん、リナさんとシアさんはヒステリーのようになってきた。
「でも、イケメンの粘着質なんて別にいいんじゃないかな...」
私はそうつぶやいてしまった。だって本当にイケメンなんだから。粘着質にでも、大切にしてくれるなら、それでいいんじゃないか。誰にも興味を持たれない私みたいなやつよりもずっといいんじゃないか。
「あなたね、自分の友達がこんな風になってて、イケメンだからいいんじゃないなんてそれでも人の子?」
「そんな風に思ってるんだったら、もうここから出て行って!!」
遂に、追い出された。まくし立ててくるところはシンデレラの意地悪な姉そっくりだ。もういいや。よくわかんないし。シンデレラの世界から逃げてきただなんて。あの人たちのおかしな妄想に決まっている。
私は、教室に荷物を取りに行きそのまま下校した。そして、その日の帰り道、私はまたあのすごくイケメンな子に出会ってしまった。シンデレラの姉たちが言うには、『王子』に。