シンデレラの登場
何の変哲もない、ここは住宅街の一角にある公立中学校。少子高齢化が進んでいるとはいえ、そこそこの人数が在籍している。退屈な授業に、退屈な先生。朝起きては学校に行き、帰ってきて寝る。そんな当たり前の日常を、特に何か思うこともなく過ごしていた。
季節はもうすぐ中学3年生になる2月。この時期には珍しい転入生がやってくると、学年の子たちがざわついていた。転入生がやってくるというのは、学生の日常にとってはそれはそれは大きなニュースである。先生が結婚する、だとか、課題の提出期限だとか、そういった類のニュース。学年の半数以上がきっとその転入生のことを注目しているといっても過言ではない。まあ、そんなこと関係ないけれど。私、淵野麻衣はいわゆるボッチである。特別な趣味を持っているとか、ちょっと変わっているとかいうわけではないけれど、女子のグループとか、悪口とかマウントの取り合いがめんどくさくなって、社交を放棄した結果がこうだ。一人でいることは嫌いじゃない。少し寂しくなることもあるけど、一人は楽だ。だから、あと一年ちょっと。誰かと仲良くするつもりも、噂の転入生と関わるつもりも全くなかった。
朝のホームルーム。いつも一人で寒いギャグを放つ40過ぎの担任が、いつもの寒いジョークを放ち、教室を凍り付かせてから、ここ数日のみんなの注目の的だった、転入生の話を切り出した。
「えー、最近ね、みんな、転入生のことがね、話題になっているみたいだけどねー、うちのクラスに転入してくることが決まったからねー。怖がらせないようにね、あまり群がったりしないようにねー。」
やたら長い前置きを聞いている生徒はほとんどおらず、教室はざわめき立った。
「はいはい、じゃあ入ってきて~」
先生のその一言で教室はシーンと静まり返った。ガラガラ。教室の引き戸がゆっくりと開いた。
廊下の冷たい空気とともに入ってきたのは、思わずクラス全員が目を見開くほどの美少女だった。
「新出レラです。えーっと、仲良くしてくれたらうれしいです。よろしくお願いします。」
鈴を転がしたような可愛い声で、彼女は自己紹介をした。ピンと張った背筋が美しい。
「えー、新出さんは、とりあえず、淵野さんの隣の席空いてるからねー、そこに座って。」
「わかりました。」
彼女は、荷物が所狭しと並んでいる机と机の間を優雅に抜けて、一番後ろの窓際の角まで来た。
「淵野さんですか?これから短い期間ですがよろしくお願いします。」
彼女はぺこりとお辞儀をしながらそう言って座った。
美しい。彼女にはその言葉がよく似合う。まっすぐで、艶やかな茶色の髪。肌は、焼けたことのないように真っ白で、鼻筋はすっと通っていて、唇はほんのりピンクで、まつ毛はくるんと長く、瞳はキャメルブラウン。どこから見ても誰が見ても絶世の美少女。私を含むクラスメイトは彼女に釘付けになった。あまりの美しさに、誰も近づくことができない。
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