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美少年枢機卿からの呼び出し

 身体検査が終わったイルゼは、そのまま美少年枢機卿のもとへと連行された。

 契約印がなくても、追及は逃れられないのだろう。


 もちろん、契約印については墓場まで持って行くつもりだ。

 この普通ではない鳥と大いに関わりがあると知られたら、イルゼの大事な日常が崩れてしまう。

 朝、昼、晩の食事と、暖かい布団――加えて変化のない日常。それさえあれば、イルゼは幸せである。

 絶対に、邪魔させるわけにはいかない。


 依然として、ハト・ポウはイルゼの頭上に座っている。楽しげに『ポウポウポーウ』と鳴いていた。

 どうにかして契約破棄ができないか相談を持ちかけたいところだが、他の修道女の目があるので難しい。

 ひとまず、今日のところはどうにか躱して、ひとりになったときに話すしかないだろう。

 前を歩く修道女は無言のまま、普段、一介の修道女が入れないような場所まで案内する。

 重厚な扉が、修道士の手によって開かれた。

 聖教会の頂点に君臨する枢機卿の執務室は、壁も床も赤。壁は金細工で縁取られ、天井には豪奢な水晶の照明がぶら下がっている。どこを見ても絢爛豪華であった。

 その中でも、もっとも派手で贅沢な存在は、美少年枢機卿フィン・ツー・アインホルンだろう。

 すらりと長い足を優雅に組んで、一人掛けの椅子に鎮座していた。

 ただの椅子なのに、玉座に見えるのは気のせいに違いない。そんなことを考えながら、美少年枢機卿の前で平伏する。


「皆、出て行くように」


 たどり着いた途端、思いがけない命令が下る。

 修道女と一緒にイルゼも一緒に出て行きたいところだが、怒られるのがわかっていたのでぐっと我慢した。


 部屋には美少年枢機卿とイルゼ、それからハト・ポウだけになる。

 シーンと静まりかえっていた。


「イルゼ・フォン・エルメルライヒ。聖鳥はなぜ、そこまでお前に懐いている?」

「さあ? どうしてだか、まったく」

「……」


 鋭い視線がこれでもかと突き刺さる。イルゼは奥歯を噛みしめ、無言の追及に耐えた。


「王都の雨が止んだ」

「え?」

「儀式をしても、止められなかった雨だ」


 イルゼとの接触後に、雨が止まったらしい。

 何かしたかと問いかけられ、特に何もと答える。

 非常にスムーズに返したものの、心当たりはありすぎた。


 ハト・ポウにパンを与えるとき、「国内の天変地異が収まれば、もっといいパンが食べられる」、なんて言葉を発したような記憶がはっきりある。

 おそらくだが、ハト・ポウはイルゼの願いを叶え、雨を止めたのだろう。


「契約は交わしていない。けれども、その鳥畜生はお前といたら、奇跡を起こすのだろう」

「偶然では?」

「偶然なわけがあるものか!」


 ずっとずっと、聖教会では国内の混乱を鎮めるために儀式が行われていた。

 聖水と聖石を使い、高位魔法を用いて儀式魔法を行ってきていたが効果はいっさいなし。

 聖女が祈るだけで止む雨は、大勢の修道女や修道士が魔法を用いても降り続けていたのだ。


 美少年枢機卿は、目を閉じる。そして、カッと見開いた。

 彼は、イルゼがまったく想定していなかった命令を下す。


「イルゼ・フォン・エルメルライヒ――お前を今日から、聖鳥の専属世話係兼代理聖女に任命する」

「は!?」

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