ハト・ポウのこれまで
聖女に仕える守護鳥は、世界の果てに存在する聖樹になる。
木の実のように、卵がたわわに実っているのだ。
聖女が産まれるのと共に殻が割れ、孵化する。
その後は、聖女に喚ばれるまで、聖樹のもとで待つのだ。
通常、聖樹になる守護鳥はひとつ。
けれども、愚かな魔法使いが世界の理を変えたことにより、聖樹にいくつもの守護鳥の卵がなるようになった。
世界にひとりだった聖女が、いつしか国にひとり生まれるようになったわけである。
そんな状況の中、真なる聖女の守護鳥が生まれた。
白い鳩の姿をした守護鳥は、まさかの状況にギョッとする。
たくさんの卵があるだけでなく、すでに守護鳥がいたのだ。
『よお、後輩。お前さんの聖女も、産まれたみたいだな』
『あ……はい、おかげさまで』
まさかの先輩に、鳩の守護鳥は戸惑う。
何か物申したかったものの、相手は鳩より数倍大きい。
雀の姿をした守護鳥だが、スイカと同じくらいあった。
リンゴと同じくらいの大きさである鳩の守護鳥は、すっかり萎縮する。
それから数年経ち――先に聖女に喚ばれたのは、雀の守護鳥であった。
『じゃあな、後輩』
『い、いってらっしゃいませ、先輩』
鳩の守護鳥は、先輩である雀の守護鳥を見送る。
自分もそろそろ喚ばれるのではないか。
そう思っていたものの、何年経っても喚ばれることはなかった。
そうこうしているうちに、孵化してから十八年も経ってしまう。
雀の守護鳥と別れてから、十年以上も経った。
何かおかしい。いや、絶対におかしい。
鳩の守護鳥は聖女の気配を探る。すると、微弱な反応を得た。
これだと確信し、必死になって掴む。
それは、召喚魔法であった。
術者は美貌の少年。彼は聖女ではない。
鳩の守護鳥は必死になって翼をはためかせ、聖女を探す。
そして――ついに出会った。
窓枠に止まり、目を凝らす。
魂が、輝いていた。間違いない。
喜びのあまり、聖女の頭上に着地してしまった。
興奮していて、判断を誤ってしまったのだ。
『よかった!!』
鳩の守護鳥は安堵する。これで、役目を果たせると。
その後、鳩の守護鳥は〝ハト・ポウ〟と名付けられる。
困ったことに、主人であるイルゼは聖女であるという自覚がまったくなかった。
ハト・ポウがどれだけ訴えても、言葉を理解してもらえない。
彼女が聖女であると自覚しない限り、意思の疎通はできないのだ。
ハト・ポウはイルゼに乞われ、聖女の力を借りて奇跡を起こす。
イルゼはハト・ポウはすごいと絶賛するものの、まったくの的外れである。
奇跡の力は、イルゼの力を借りただけに過ぎない。
いくら訴えても、欠片も通じていなかった。
さらなるピンチが、ハト・ポウを襲う。
リアン・アイスコレッタの登場である。
全身邪気まみれの彼は、一歩間違えば魔王になるほどの凶悪な存在であった。
彼の近くにいるだけで、気分が悪くなる。
けれども、イルゼはピンピンしていた。さすが、聖女様だとハト・ポウは絶賛する。
彼と行動を共にするなんて、最悪である。どうか考え直してほしいと訴えるも、腹が減っているのかとパンをくれるばかりであった。
邪気がイルゼに悪影響を及ぼすのではないか。ハト・ポウは戦々恐々していたが、リアンに変化が訪れる。
リアンの邪気は、イルゼと行動するにつれて薄くなっていき、最終的には消えてしまった。イルゼが、祓ってしまったのだ。
感謝しかないと、ハト・ポウは涙を流しながら思う。
邪気がなくなったリアンであったが、相変わらずハト・ポウは苦手だった。
相性の問題なのだろう。
旅するなかで、とうとうイルゼは聖女と自覚する。
ハト・ポウとも意思の疎通が取れるようになった。
これまで頑張ってくれたという労いの言葉を聞いた瞬間、ハト・ポウは踊り出したいほど嬉しくなった。
なんとか事件も解決し、めでたしめでたしである。
後日、ハト・ポウは先輩と再会した。
彼は聖女カタリーナの守護鳥だったのだ。
体は一回りほど大きくなっていた。のし、のしっと貫禄たっぷりな様子でやってくる。
『おう、後輩、久しぶりだな』
『お久しぶりです、先輩』
雀の守護鳥は、〝デカ・チュン〟と名付けられ、カタリーナに仕えていたのだとか。
再会を喜び、抱擁しあう。
『これからいろいろあるだろうけれど、聖女様をお助けするのが俺らの仕事だ。頑張ろうぜ』
『はい!』
互いに健闘をたたえ合い、これからも守護鳥として誇り高く生きようと誓い合ったのだった。
本日から、新連載が始まります。
『スライム大公と没落令嬢の案外しあわせな婚約』という作品です。
よろしくお願いいたします。
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