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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
最終章 黒幕は誰なのか

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平穏な日々は遠い

 手紙を読み終えると、便箋は勝手に宙を舞い、ボッと音を立てて燃えてしまった。

 肩に止まっていたハト・ポウが、全身を震わせて驚く。


 聖女を巡る騒動の諸悪の根源はエルメルライヒ子爵だと決めつけていた。しかしながら、それはシルヴィーラ国のみでの話である。セレディンティア大国のイルゼが誘拐された事件を含めると、他にも悪事を企む者がいるようだ。

 さらに、カタリーナはこのふたつの事件の点と線は繋がっているのではないかと推測している。

 誰かが結託して、シルヴィーラ国とセレディンティア大国を破滅へ導こうとしているならば、絶対に許せるものではない。

 イルゼは侍女に命じ、リアンを呼んできてもらうように頼む。

 ハト・ポウに呼んできてもらおうかと思ったものの、今はひとりになるべきではないと判断した。

 実家に帰っていたリアンが、イルゼのもとへとやってきた。

 今日は鎧ではなく、詰め襟の騎士服姿で現れた。鎧以外の恰好を見たのは初めてである。

 リアンは少し照れくさそうにしていた。イルゼが似合っていると褒めると、頬を染める。社交界デビューした年若い娘のような反応に、どんな言葉をかけていいものかわからなくなった。

 ハト・ポウが防音魔法を展開させると、リアンの表情がキリリと締まる。


「何かあったのですか?」

「カタリーナ様から、手紙をいただいたの。聖女を取り巻く事件の黒幕は、うちの父以外にいるだろうと」

「なるほど」


 詳しい事情を語ると、リアンは盛大なため息をつく。


「ひとまず、イルゼはここにいないほうがいいと思います。敵が動きを見せるとしたら、イルゼを狙ってくるでしょうから」

「ええ」


 誰が敵か味方かわからない場所に居続けるのは危険だろう。リアンの言う通り、拠点を移したほうがいい。


「でも、どこがいいものか」

「我が家はいかがでしょうか? 少々賑やかですが、家族もきっと喜ぶはずです」

「だったら、お言葉に甘えて――」


 すぐにでもリアンの実家へ行こうとしたものの、思わぬ方向から反対を受けてしまった。

 それは、シルヴィーラ国でいう聖教会に似た組織、〝聖務省〟である。

 聖女の力を独占しないように存在する組織で、なぜかイルゼの行いにも口出ししてきたのだ。

 従うつもりは毛頭なかったものの、このままイルゼがアイスコレッタ公爵家に身を寄せると、聖女の力を独占状態にしているという問題が生じるらしい。

 あまりにもバカげている。呆れたものの、セレディンティア大国にいる以上勝手な行動はできない。

 イルゼはリアンと防音魔法を用いて話し合う。

 このままでは、敵の思うつぼだろう。

 対策を詰めていった。


「私はイルゼの傍を離れません!」


 そんなふうに誓った途端に、リアンに国王からの勅命が下る。

 なんでも、強力な魔物〝ベヒーモス〟が暴れているので、討伐するようにという任務がくだされた。

 国王の命令は絶対である。リアンは泣く泣く、任務を遂行するため準備を始めていた。


 しょんぼりと背中を丸めながら王都を旅立つ、板金鎧姿の騎士をイルゼは見送った。


 イルゼが不安がっていたからか、護衛や取り巻く侍女、メイドの数が増やされた。

 日々、見張られているような落ち着かない時間を過ごしている。

 イルゼの楽しみは、カタリーナとの水晶通信であった。

 もちろん、取り巻きはその様子を見守っている。会話は筒抜けなのだ。

 それらは想定済みで、ふたりの間で暗号を決めていた。食べた菓子の話をするときは、本日は異常なし。天気の話をするときは、雲行きが怪しくなってきたという報告。ドレスの話をしたときは、緊急事態で助けを求めるときである。


 今日も、イルゼはセレディンティア大国のすばらしい菓子について語った。カタリーナも同様である。

 お互いに異常なしだった。


 ◇◇◇


 誰の贈り物でも受け取らない。イルゼはそう主張しているにもかかわらず、毎日のように品物が届いていた。

 皆、聖女の噂話を聞きつけて、縁故を結ぼうと送ってくるのだろう。

 返品対応するメイド達が気の毒になる。イルゼの品物でないので、下げ渡すこともできないのだ。

 今日も、山のように積み上げられた包みが届く。


「すべて、送り主にお返しして」

「かしこまりました」


 手押し車に積んでここまで持ってきてくれたが、そのまま送り主のもとへと返されるのだ。労力の無駄だと、イルゼはうんざりしてしまう。

 持ってきたときに断るよう頼んだが、それはできないという。イルゼの前に運ばれた時点で、初めて返品ができるのだとか。

 はあ、と盛大なため息が零れる。いったいこのやりとりはいつまで続くのか。うんざりするのと同時に、背後から悲鳴が聞こえた。


「きゃあっ!!」


 振り返ると、メイドの腕にサソリがしがみついていた。すぐさま、イルゼはハト・ポウに命じる。


「ハト・ポウ、あのサソリを払って!!」

『了解です!!』


 果敢にも、ハト・ポウはサソリを翼ではたき落とす。近くにいた騎士が、逃げようとしたサソリを仕留めた。

 しゃがみ込み、死んだサソリを確認する。騎士が震える声で報告した。


「致死性の毒を持つ、毒サソリでございます」


 先ほど悲鳴をあげたメイドは、その場で失神した。


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