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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
第五章 セレディンティア大国へ

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リアンの覚醒

 なんとかリアンの傷は全部塞がった。傷あとすら残っていない。

 肉体から抜けかけていた魂も、引っ張って戻しておく。

 ふと、イルゼは気づく。

 リアンの魂に、前世で聖女と結んだ契約が残っていることに。

 酷い契約だった。

 争いを好まない精霊を好戦的にした上に、主人である聖女に絶対服従させるような内容だった。

 リアンはきっとこの契約に引きずられる形で戦闘を好み、またイルゼに好意を抱いていたのだろう。

 すぐさま、イルゼは契約を破棄させた。これで、リアンを縛るものはなくなる。

 目覚めたあと、もしかしたらリアンはイルゼに冷たく接するかもしれない。

 そのときは、そのときだ。また一から関係を築けばいいだけの話である。


 ついでに、魔力調整もしておいた。鎧がないと息苦しいと話していたので、人間界の魔力に適応できるようにしておく。

 これで、常に兜や鎧を纏わなくてもよくなるだろう。

 本人は鎧を脱ぐと全裸でいるようだと話していたので、このままの恰好で居続ける可能性もあるが。


 じっと、リアンが目覚めるのを待つ。けれども、瞼は開かれない。

 ハト・ポウは魔物を翻弄し続けていた。けれども、体力が尽きたらそれまでだろう。


「リアン、リアン、起きて!」

「……」


 ロマンチックな恋物語では、キスをしたら目覚める。

 けれども、眠っているのは麗しの姫君ではない。自身の血で鎧を濡らした騎士だ。


「リアン、リアン!」


 最初は優しく揺さぶっていたものの、起きないので拳で鎧を叩く。それでも起きないので、今度はリアンの剣の柄で叩いてみた。カンカンカンと、けたたましい音を鳴らす。

 しかしながら、リアンは起きなかった。

 もしかしたら、心が覚醒するのを拒絶しているのかもしれない。


「リアン、起きて、お願い――!」


 一言ごめんなさいと謝ってから、イルゼはリアンの頬をバチン! と叩いた。

 すると、リアンの目がカッと開く。


「リアン!!」

「え、あ、イルゼ!?」

「よかった……! 本当に、よかった」


 リアンは状況が理解できず、きょとんとしていた。


「立って。まだ、戦闘は終わっていないの」

「あ――!」


 魔物を見た瞬間、リアンは我に返る。胸に手を当てて、ハッとなった。


「私は、鋭い水晶に胸を貫かれて、一度死んだのですか?」

「ええ」

「聖鳥様が治療をしてくださったのですね」

「いいえ、あなたを治したのは私」

「イルゼが!?」

「詳しい話はあと。まずは、あの魔物をどうにかしないと」

「ですね」

「どうする? 逃げるか、戦うか」


 魔物が塞いでいた道は開かれていた。ハト・ポウが気を引いている間に、通行できるだろう。


「帰りもここを通るので、倒していたほうがいいかと」

「リアン、戦える?」

「もちろん。不思議と、息苦しくなく、体が軽い――」


 今になって、兜を被っていないことに気づいたようだ。

 カーッと、わかりやすいくらい頬を赤らめる。


「あの、私の兜は?」

「水晶の攻撃に弾かれて、吹き飛んだみたい」


 イルゼが指差した方向に、兜は転がっていた。ひしゃげているので、もう装着できないだろう。


「気になることは山のようにあるのですが、話はあとですね」

「ええ」


 リアンは立ち上がり、剣を握る。そして、魔物に向かって駆けていった。

 イルゼは魔法で防壁を展開させ、魔物の攻撃がリアンに届かないようにする。

 そして、彼が振るう剣を強化させた。

 先ほどまで傷つけられなかったのに、魔物は食材のようにあっさり切り刻まれていく。一分もかからずに、倒すことができた。


「ハト・ポウ、おいで」


 手を伸ばすと、へとへとになったハト・ポウが胸に飛び込んできた。疲れを癒やす魔法を掛けると、気持ちよさそうに目を細める。


「ハト・ポウ、ありがとう」

『も、もったいないお言葉です』


 ハト・ポウの頭を撫で、肩に乗せておく。

 続いて、リアンを見る。

 背中を向け、魔物の亡骸を前に呆然としているようだった。


「リアン、どうかしたの?」

「あ、いえ、体がまったく別物のように思えて」

「辛い?」

「いいえ、逆です。楽なんです。体が驚くほど軽くて」

「そう、よかった」

「まさか、イルゼが魔法で魔力変換をしてくれたのですか?」


 こくりと頷くと、リアンはイルゼの手を握って頭を下げる。


「ありがとうございます! イルゼは、命の恩人です」


 いつもは不安げだった柘榴の瞳が、キラキラと輝いている。

 あのときのイルゼの判断は、間違いではなかったようだ。


「それにしても驚きました。突然、魔法が使えるようになったなんて」

「どうやら、封印されていたようなの」

「誰がそのようなことを?」

「私自身が」

「イルゼが!?」


 イルゼは自らについて、またリアンの前世についても包み隠さず語った。


「ちょっと待ってください。イルゼの前世が初代聖女で、私の前世が精霊だったと?」

「ええ」


 リアンは美しいかんばせしかめさせ、理解し難いという表情でいる。


「私に対するリアンの執着も、前世の契約が原因だったの。ごめんなさい。さっき、取り除いておいたから」

「え!?」

「もう、私に興味なんてないでしょう?」

「いいえ、大好きですが?」

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