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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
第五章 セレディンティア大国へ

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聖女として

『イルゼ様! イルゼ様! 起きてください、イルゼ様ー!』

「ハト・ポウ、うるさい」


 頭がズキズキと痛む。いつもの、大雨のときに感じる目の奥が痛くなるような頭痛ではない。

 これは、聖女の記憶と力が甦ったことによるものなのだろう。


『イルゼ様、騎士様が動きません! 早く、傷を回復させなければ! 僕はイルゼ様の命令がないと、魔法を使えないのですよ』

「わかっている」

『へ?』

「わかっているから」

『イルゼ様、僕の言葉が、わかるのですか!?』

「全部、思いだしたの」

『ああ……!』


 ハト・ポウは聖鳥ではなく、守護鳥だ。聖女に仕え、聖女を守る力を持つ奇跡の鳥なのだ。

 通常、聖女に召喚され傍にはべる。

 しかしながら、イルゼは生まれてすぐに誘拐されてしまったので、喚ばれることはなかったのだ。


 イルゼは立ち上がる。再び、頭がずきんと痛んだ。突然聖女の力を取り戻したので、体が驚いている状態である。馴染むまでに時間がかかりそうだ。

 ついでに背中もヒリヒリしていた。聖なる刻印が瞼の裏から、本来あった背中に移動したからだろう。


「リアンを、助けなければ……!」


 イルゼが一歩、一歩とリアンに接近すると、魔物が咆哮をあげる。

 坑道内は大きく揺れて、再び上から鋭く尖った水晶が雨のように降ってきた。


「ハト・ポウ、防壁を」

『はい!』


 ハト・ポウは魔法で防壁を作り、降り注ぐ水晶を弾き飛ばした。常時展開させ、魔物の攻撃が届かないようにする。


 倒れるリアンのもとへ辿り着く。

 すると、これまで微動だにしなかった魔物が動き始める。


「ハト・ポウ、ここに近づけさせないで」

『承知いたしました』


 ハト・ポウは翼をはためかせ、巨大な魔物と対峙する。

 魔物は体から生える水晶を突き出し、ハト・ポウを串刺しにしようとした。けれどもハト・ポウはひらりと回避する。

 守護鳥であるハト・ポウは、聖女の命令があれば戦うことも可能だ。ただ、命令がなければただの鳥なのだ。 


 魔物の相手はハト・ポウに任せ、イルゼはリアンの蘇生に集中する。


「リアン……」


 胸が引き裂かれるような思いとなる。

 槍のように細長い水晶が、リアンの体を貫通していた。息絶え、ピクリとも動かない。

 痛かっただろう。辛かっただろう。

 兜は吹き飛ばされていた。イルゼは初めてリアンの顔を見る。

 すさまじく性能のいい兜だったのだろう。顔には傷ひとつついていない。

 菫色の髪に白い肌を持ち、彫刻のように整った目鼻立ちをしている。

 長い睫が縁取る瞼は、閉ざされていた。このままでは、永久に開かれないだろう。

 だから、聖女の力を用いて蘇生させる必要がある。

 彼が普通の人ならば、生き返らせることなど不可能だっただろう。

 正確に言うならば、蘇生とは少し違うのかもしれない。再生と言えばいいのか。

 まず、胸に刺さった水晶を抜く必要があった。

 水晶はリアンの体を貫通していて、地面に深く突き刺さっている。非力なイルゼが引っ張っても、簡単には抜けない。

 最終的には片足でリアンを踏んで押さえ、水晶を引っ張る。けれども、びくともしない。


「はあ、はあ、はあ、はあ……!」


 ハト・ポウをちらりと見る。魔物の相手で精一杯のようだ。リアンの水晶を引く余裕などあるようには見えない。

 どうしようかと考えている中でふと気づく。水晶は魔力の結晶体である。固体から変換させて、体に取り込めばいいのだ。

 水晶を握り、魔力変換の魔法を展開させる。すると、リアンの体に刺さっていた水晶は消えて、イルゼの体内へと取り込まれた。

 傷口から血が流れないよう、魔法で止血を施す。


 ホッとしたのもつかの間のこと。今度は蘇生をする必要がある。

 リアンへかざした手は、途中で止まった。

 果たして彼を勝手に生き返らせていいものなのか、思いとどまる。

 リアンは人間界に馴染めず、思い悩んでいたように感じていた。

 人とも、精霊ともいえない立場にある彼は、イルゼには想像もできないほどの苦しみがあったのだろう。

 今、こうして生き返らせようとしているのは、本人の意思を無視していることにならないのか。

 酷く不安になる。


 リアンの頬に触れると、冷たくなっていた。

 その瞬間、せきを切ったように涙が溢れる。

 これまで感じたことのないような悲しみに襲われた。

 後悔も押し寄せる。恐れられていると不安がるリアンに、大丈夫だという言葉をかけてやれなかった。

 彼に対して、素直になれないところもあった。理解を深めたら、離れがたくなると思っていたから。

 まだ、リアンと一緒にいたかった。話していないことだってあるし、聞いてもらいたいこともあったように思える。

 けれども、死んだら二度と叶わないのだ。

 ふと気づく。

 リアンは生を完全に手放してはいない。人としての死を迎えても、精霊の力を使って命を繋いでいる状態だった。

 ならば、生き返らせてもいいのではないか。

 イルゼはそう思い、リアンの傷を治していった。

 

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