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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
第五章 セレディンティア大国へ

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クリスタル坑道の最深部へ

「魔物に対して憎しみを抱かず、討伐を楽しいと思う私は、やはり、恐ろしいですよね?」

「ええ」


 シーンと静まりかえる。これまで以上に気まずい空気が流れた。

 こういうとき、嘘でもいいから「恐ろしくなんかない」と言ったほうがいいことは、イルゼにもわかっていた。

 けれども、彼女は嘘をつけない性分なのだ。


「でもあなたは、襲いかかってくる魔物を倒しているだけで、自ら探しに行って殺しているわけではないから、そこまで気にしなくてもいいと思う」

「イルゼ……ありがとうございます」


 礼を言われるようなことなのか。よくわからないが、リアンの張り詰めたような空気が和らいだのでよしとした。


「恐ろしいと思ったときは、その、申告していただけるとありがたいです」

「わかった」


 リアンは腰からぶら下げていた御守りアミュレットを外し、イルゼの手のひらにちょこんと載せた。つるりとした黒曜石に、精緻に編まれた紐が結ばれたものである。


「これは何?」

「攻撃を受けたときに、身代わりになってくれる御守りです」

「これ、あなたが付けておくべきじゃないの?」

「もうひとつ、同じものがありますので」

「でも、魔物と戦うのはリアンだし、私が持っている意味はないような気がする」

「いえ、あるんです」


 リアンは御守りを持つイルゼの手を握りしめ、真剣な眼差しで訴えた。


「この先、強力な魔物がいます。私でも、勝てるかどうかわかりません。魔物の気を引きつけますので、イルゼは先にクリスタル坑道を脱出してください」

「そんな……!」


 命を落とすかもしれない戦いになるのだろう。なおさら、イルゼが御守りを持っている場合ではなかった。


「ねえリアン、やっぱり受け取れない」


 突き返しても、首を横に振るばかりで受け取ってくれなかった。


「あなたが死ぬのは、嫌。一緒じゃないと――」

「イルゼ、ありがとうございます」


 リアンは立ち上がる。そろそろ先に進まないといけないのだろう。

 御守りはハト・ポウに結んでおく。イルゼよりも、大事な命だから。

 ハト・ポウは外そうとしたが、「ダメ」と言ったら大人しくなった。


 一行は先へと進む。クリスタルが美しい坑道を。


 だんだんと、魔物も厄介になってくる。連携を駆使し、襲いかかってきた。

 魔物寄せの薬も効かず、まっすぐイルゼを狙ってくる個体もいた。

 リアンは自らが傷つくことを厭わず、イルゼを守るように戦う。

 戦闘後は、ハト・ポウに頼んでリアンの傷を治してもらった。

 彼が傷つくのと同時に、イルゼの心は悲鳴をあげる。

 どうして自分には何もできないのか。

 ふがいなく思った。


 そして――開けた場所へと出てくる。


「ここが、最深部?」

「みたいですね」


 イルゼは寒気を感じ、外套の合わせ部分をぎゅっと握る。ここだけ、異様な雰囲気の空間であった。

 これまでの水晶は、青白く輝いていた。けれども、ここにある水晶は怪しい赤である。


 もっとも異質なのは、巨大な岩とそこから無数の水晶。セレディンティア大国へと繋がる通路を塞ぐように突き出た巨大な水晶の塊であった。


「あれは、なんなの?」

「水晶を喰らって成長した魔物です」

「え?」


 リアンが剣を引き抜くと、突然地面が揺れた。


「危ない!!」


 何が危ないのか、わからないままリアンに助けられる。

 次の瞬間、イルゼがこれまでいた場所に鋭い水晶が雨が降るように落ちてきて地面に深く突き刺さった。

 もしも、リアンが助けてくれなかったら、イルゼの体は蜂の巣状態になっていただろう。 

 すぐさま、リアンはマントを脱いでイルゼの頭からすっぽり覆った。


「これを被っていたら、水晶を弾くはずです」

「リアン、受け取れない!」

「足手まといになるので、それを被って大人しくしていてください!」


 震える声で、リアンは叫んだ。

 イルゼが言うことを聞くように、普段は口にしないような言葉を選んだのだろう。

 だが、リアンの発言に間違いはない。

 これまでも、彼はイルゼを守ろうとして、傷ついてきたのだから。

 言われた通り、マントを被って身を縮めておく。


 そうこうしている間にも、岩と水晶の塊であった存在ものに変化があった。

 亀のように、細長い首が岩から覗く。手足も岩から突き出された。


 一見して亀のようだが、その姿は童話で見た覚えのある、〝水晶竜クリスタルドラゴン〟にそっくりであった。


『ギャアアアアアアアア!!』


 地響きが起きるような咆哮である。ハト・ポウがイルゼの耳を塞いでくれた。

 斬りかかるリアンを、魔物は尻尾でなぎ払う。

 リアンは高く飛んで回避し、首に斬りかかった。

 だが、手応えはない。金属に斬りかかったような音しか聞こえなかった。


 魔物が移動でもしたら、イルゼは走って坑道を駆け抜けただろう。

 けれども、巨大な魔物は一歩も動かない。

 番人のように、セレディンティア大国へと繋がる通路を塞いでいた。


 リアンの攻撃が効いているようには見えなかった。


  イルゼは神に祈る。どうか、リアンを助けてほしいと。

 けれども、祈りは叶えてはもらえない。

 リアンは魔物のブレスを浴び、動きが鈍くなる。

 そして突然突き出た水晶に足を貫かれ、御守りが弾けたようだ。

 続けて、水晶が突き出てくる。今度はリアンの心臓を貫通させた。


「リアン!!」


 目の前が真っ白になる。

 神なんてこの世に存在しない。イルゼはそう思いながら、意識を手放した。

 

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