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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
第五章 セレディンティア大国へ

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リアンの気持ち

 クリスタル坑道に生息する魔物は、クリスタルを主食としているようだ。クリスタルは高密度の魔力の結晶体である。それを食べる魔物達は、地上の魔物よりも強力だった。

 リアンに襲いかかってくるのは、彼が精霊並みの魔力を持っているからだろう。 

 地上の魔物が魔力を持つ人間を襲うのと同じで、強い魔力を持つ者を取り込んだら強くなる。そのため、喰らおうと襲撃を仕掛けてくるのだ。

 イルゼが狙われたのは、ハト・ポウが一緒にいるからだろう。


 戦闘を重ねるたびに、リアンは魔物の返り血を浴びる。

 一時間も経ったら、鎧は赤く染まっているように思えた。

 若干、リアン自身も体の体幹がぶれているように思えた。もしかしたら、魔物の血に含まれる毒に犯されているのかもしれない。


「ねえ、ハト・ポウ。リアンの鎧に付着している血を、きれいにすることってできる?」

『ポーウ!』


 ハト・ポウが翼を広げると、リアンの全身が光りに包まれる。一瞬にして、鎧がきれいになった。

 リアンもそれに気づき、振り返る。


「あ……浄化魔法、ですね。イルゼ、ありがとうございます」

「ハト・ポウのおかげだから」

「聖鳥様、心から感謝します」

『ポウ』


 リアンの鎧がきれいになったところで、先へと進む。

 一時間ごとに休憩を取りながら、クリスタル坑道をどんどん前進していた。

 五時間進んだところで、一度長い休憩を取りたいとイルゼは提案する。


「イルゼの望む通りにします」


 リアンはそう呟き、剣を握ったままその場に立ち尽くす。

 この五時間、ずっとそうだった。ゆっくり座って休むことなどない。

 時間が経つごとに口数も少なくなるので、イルゼは心配していた。


「ねえリアン、座って休憩して」

「いつ、魔物がやってくるかわからないので」

「この前みたいな魔物避けの魔法陣は、作れないの?」

「魔法陣を描く間、私自身に隙ができてしまうので、無理ですね」

「そんな」


 このままでは、リアンの体が悲鳴をあげるだろう。少しでもいい。休憩してほしかった。けれども、イルゼはリアンを守れるほどの力はない。

 対等な関係ではない現状を、歯がゆく思った。


『ポウ、ポーウ』

「え、何?」

『ポウポウ』


 何やらハト・ポウが、一生懸命身振り手振りで説明していた。翼でマルを作り、ぴょんぴょん跳ねている。


「ごめんなさい。わからない」

『ポウ』


 ハト・ポウは嘴を使い、地面に何か描いている。

 円を描き、ミミズが這うような文字を描いていた。


「これは、もしかして魔法陣?」

『ポウ』


 ハト・ポウは描いた魔法陣の上に座り、安心しきったような表情を浮かべた。


「魔法陣の上で寛ぐ……? もしかして、魔物避けの魔法陣を作れるの?」

『ポウ!』

「だったらお願い! 魔物避けの魔法陣を作って」

『ポーウ!』


 ハト・ポウが翼をはためかせると、地面に大きな魔法陣が浮かんだ。


「リアン、これ、魔物避けの魔法陣?」

「あ、ええ、そうですね。もしかして、聖鳥様が作られたのですか?」


 ハト・ポウは恥ずかしくなったのか。イルゼの背中に回り込んで隠れてしまった。


「リアン、座って」

「はい」


 今度は、素直に腰を下ろす。

 リアンは片膝だけついて、いつでも立ち上がれるような体勢でいた。きちんと座ってほしかったものの、これ以上は強制できない。この体勢になっただけでもよしとする。


「リアン、魔物を倒すの、きつくない?」

「え?」

「ずっと戦っているでしょう? 魔物の血も浴び続けているし、辛いんじゃないかって思って」

「いえ」


 リアンは俯き、黙り込んでしまう。

 聞いてはいけないことだったのか。イルゼは「ごめんなさい」と謝る。


「イルゼは悪くありません。悪いのは私のほうなんです」

「どうしてそう思うの?」

「それは――」


 再び、リアンは言葉を途切れさせる。


「言いたくなかったら、無理して言わなくてもいいから。それと、言えない自分を責めないで」


 リアンの表情も、感情も、言葉の真意もよくわからない。それなのに、イルゼにはリアンが今、自分を責めているのではないかと思ってしまった。

 ハッとしたように、リアンはイルゼを見る。

 初めて、目と目が合ったような気がした。


「イルゼ、私の話を、聞いていただけますか?」

「ええ」

「もしかしたら、私を恐ろしいと思うかもしれないのですが」

「それは、話を聞いてから決める」


 リアンは静かに語り始める。自分の中にある、人とは異なる感覚を。


 精霊を母に持つリアンは、人並み外れた感性を持っていた。

 そこを不気味に思われることは、一度や二度ではなかった。


「人間界にやってきてから、苦しくて、居心地が悪くて、自分が生きるべき場所はここではないと常に思っていました」


 生まれ育った精霊界に帰りたいと思う気持ちは、日に日に高まっていったという。

 そんな中で、リアンが満たされる瞬間があった。

 それは魔物と戦い、自らが握る剣で屠る瞬間である。


「気持ちが高揚し、感じていた息苦しさも吹き飛び、楽しいという気持ちすら浮かんでくるくらいで――」


 自らの快楽のために魔物を殺す。

 血まみれになりながらも戦う姿は「まるで化け物だ」と仲間である騎士に指摘され、リアンは「そうなんだ」とショックを受けてしまった。  

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