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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
第五章 セレディンティア大国へ

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クリスタル坑道

 異国には〝善は急げ〟――善き行いはためらわずに迅速に実行せよ、という言葉があるらしい。

 そんなわけで、イルゼとリアン、そしてハト・ポウはジルコニア公国の都を発つ。

 クリスタル坑道の場所まで、デュランダルが転移魔法で飛ばしてくれるという。


 地下工房には大がかりな魔法陣が描かれている。術者が転移しないタイプの魔法は難易度がぐっと上がるらしい。

 大賢者と呼ばれるデュランダルが行うので、間違いはないだろう。


 フィンとジルコニア大公が見送りにきてくれた。


「リアン、この先最優先で守るのは、ハト・ポウのほうだ。忘れるなよ」

「聖鳥様はイルゼが心から大切にしている存在です。ついでに、お守りします」

「ついでじゃない! メインで守れって言っているんだ」


 リアンはフィンの言葉が理解できないとばかりに、小首を傾げていた。フィンの肩はぶるぶると震えているようだったが、それ以上文句を言うことはなかった。


 何か、ずいっと差し出す。紙の束だった。表面には、複雑な呪文が描かれていた。


「猊下、これは?」

「転移魔法の巻物スクロールだ」

「なっ!」


 スクロール――それは魔法が付与された紙である。魔法使いでなくても、魔法を使うことを可能とするものだ。

 大変高価で、簡単な魔法を付与したものであっても金貨五枚以上もするという噂話をイルゼは耳にした記憶があった。

 転移魔法は高位魔法である。きっと、高かっただろう。


「デュランダル殿に依頼して、作ってもらった。これを破ると一瞬にしてここへと戻ってくる」


 何かあったときは迷わず使うよう命じられた。

 スクロールの値段については、あえて聞かなかった。金額を聞いたら、使えなくなりそうだったから。

 全部で四枚もあった。リアンと二枚ずつわけて、別々の場所に隠して持っておくようにと言われた。

 続いて、ジルコニア大公が一歩前にでてくる。


「これは、私からの餞別だよ」


 ジルコニア大公が差し出してくれたのは、セレディンティア大国の金貨と銀貨、それから小銭が入った革袋であった。


「この先、お金で解決することがあれば、遠慮なく使ってほしい」


 一度、フィンを見る。問題ないと、微かに頷いた。イルゼは恭しく、革袋を受け取る。


「大公閣下、ありがとうございます」

「私にできるのは、これくらいだからねえ」

「助かります」


 正直、リアンが路銀を持っているか怪しかった。かと言って、ストレートに「金を持っているか」と聞くのもはしたない。ジルコニア公国の通貨を換金する暇などなかったので、非常にありがたく思う。


「では、ご両人と鳥、クリスタル坑道へ飛ばすぞ」

「ええ、お願い」


 魔法陣の上に立つ。描かれた呪文と円陣が淡く光り始めた。

 イルゼはハト・ポウを手のひらで包みこむ。転移中に飛ばされないための対策だ。

 リアンはイルゼの腰を抱く。

 彼が接近し、鎧越しに触れ合った瞬間、胸がどくんと跳ねた。

 ドキドキしている間に、目的地らしき場所へと下り立つ。


「イルゼ、違和感などはないですか?」

「ええ、平気。ハト・ポウは?」

『ポーーウ!』

「大丈夫みたい」

「よかったです」


 周囲は真っ暗。少々湿り気を感じる。ここがクリスタル坑道なのだろう。


「何も見えない」

「待っていてくださいね。水晶に魔力を流しますので」


 リアンはイルゼから離れ、しゃがみ込んだようだ。

 クリスタル坑道にある水晶は、豊富な魔力が含まれている。しばし触れて、自身の魔力を流し込んだら、連鎖的に反応し光るらしい。


 リアンが呪文らしきものをブツブツ呟いていると思っていたら、急に坑道内が明るくなった。


「わ……!」


 上下左右前後、突き出た水晶が魔石灯のように光る。なんとも幻想的な光景である。


「きれい」


 うっとりしていたのも、ほんのひとときであった。

 水晶は青く光る。落ち着く色あいだった。

 けれども、遠くから怪しく光る赤がポツポツと浮かんだ。


「リアン、あれは――!?」

「魔物です。イルゼ、下がっていてください」

『キィィィイイーー!!』


 赤く発光する目を持つコウモリ系の魔物が、バサバサと大きな羽音を響かせながら襲いかかってきた。


「あれは、吸血コウモリです。鼓膜を破る超音波を発するので、イルゼは耳を塞いでいてください」

「え、ええ」


 イルゼは即座に耳を塞ぐ。ハト・ポウも、翼を使って塞いでいた。

 吸血コウモリの数は三匹ほど。普通のコウモリよりもかなり大きい。


 リアンは腰にぶら下げた小型の鞄から、瓶を取り出す。それを、頭から被った。

 すると、散り散りだった吸血コウモリが、リアンのほうへと飛んでいく。


「あれは、魔物寄せ薬!?」


 イルゼに危険が及ばないよう、魔物の注目を集めているのだろう。

 剣を引き抜いたリアンは、瞬く間に吸血コウモリを両断していく。

 まるで熟練の料理人の調理を見ているような、鮮やかな手並みであった。


 吸血コウモリの返り血を浴びた状態で、リアンは振り向いた。


「イルゼ、先を急ぎましょう」

「待って。その前に、あなたの鎧が返り血で汚れている。ちょっと拭かせて」

「大丈夫です。お気持ちだけ、いただいておきます。これから先、もっと酷い状態になるでしょうから」


 一刻も早く、聖女カタリーナに会わなければならないだろう。

 イルゼは頷き、リアンのあとに続いた。 

 

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