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真なる聖女を国外追放し、 偽聖女を持ち上げた結果滅びかけている国の、 聖女代理に任命されてしまった……!  作者: 江本マシメサ
第四章 囚われの代理聖女とハイエルフ

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話し合い

 シルヴィーラ国とジルコニア公国の非公式会談は、密やかに回数を重ねる。

 フィンとジルコニア大公は共に慎重だった。そのため、一回の話し合いはそこまで長引かない。

 三回目で、ようやく作戦が本決定となる。


「では、セレディンティア大国にて、聖女カタリーナと接触するのは、イルゼ・フォン・エルメルライヒと、リアン・アイスコレッタに任せるとしよう」


 すぐさま、デュランダルが「我もいきたいぞ!」と挙手する。すぐさま、ジルコニア大公が待ったをかけた。


「デュランダルちゃんはダメ」

「なんでだ!」

「アイスコレッタ卿との相性が悪すぎるから」

「それは否定できんな」


 リアンはデュランダルが現れるたびに威嚇していたが、イルゼが止めるように言うと今度は彼女を空気のように扱う。話しかけても無視だった。

 そんな仲なので、共に行動するのは無理だろう。


「そんなわけで、ふたりで行ってもらう予定なんだが、ひとつ問題がある」


 リアンの言う問題とは、ジルコニア公国とセレディンティア大国の国境が警戒態勢になっているということ。


「セレディンティア大国の開戦についての噂が国内でも出回りつつある。ジルコニア公国を通じて探りを入れられることを、警戒しているのかもしれない」


 国境を通るさい、リアンは通過できるだろう。問題はイルゼだ。

 もしも、聖女カタリーナがシルヴィーラ国にいる要注意人物の中にイルゼを入れていた場合、即座に拘束されるだろう。

 そうなれば、シルヴィーラ国はセレディンティア大国に弱みを握られてしまう。


「それゆえ、国境をそのまま通過しセレディンティア大国に行かないほうがいいだろう」


 残る手段は空路だが、セレディンティア大国の上空には結界が張られている。他国から侵入できないようになっているのだ。


 そんなわけで、都合よくセレディンティア大国に入る手段はない。

 シーンと静まり返る。

 沈黙を破ったのはデュランダルであった。


「ならば、クリスタル坑道を通ってセレディンティア大国までゆくしかないだろう」

「わー、デュランダルちゃん、それ言ったらダメなやつ!!」

「クリスタル坑道? ジルコニア大公閣下、クリスタル坑道とは?」


 初めて聞くその場所を、フィンはハキハキと復唱した。

 さすが、最年少で枢機卿に抜擢されるだけの少年である。発言は一言も聞き逃さないのだろう。


「えーっと……。なんだったかな」

「クリスタル坑道です。クリスタル坑道」

「は、はいはい。クリスタル坑道についてだね」


 明らかに、ジルコニア大公の顔色が悪い。額にはびっしりと汗を掻いている。

 もしかしなくても、デュランダルがうっかり口にした〝クリスタル坑道〟は、国家機密なのだろう。

 ジルコニア大公は涙目でデュランダルを見つめていたが、知らんぷりをされていた。

 フィンは笑顔でジルコニア大公の返答を待っている。

 イルゼは若干、気の毒になった。


「えー、その、うーん。クリスタル坑道……。そう、クリスタル坑道とは、我が国からセレディンティア大国に繋がる、非公開の地下街道……なんだよね」

「へえ、それは驚いた! 大公、そこを通ったら、誰にも知られずにセレディンティア大国へ行けるのですね」


 フィンの問いかけに、ジルコニア大公はきゅっと唇を噛む。再度、「そうなんですよね?」と聞かれた。ガクガクと、震え始める。


「ジルコニア大公、もう一度、言ったほうがよろしいでしょうか? クリスタル坑道を通ったら、セレディンティア大国へ、行けるのですよね?」


 圧のある「ね?」に耐えきれず、ジルコニア大公は肯定せざるを得なかった。


「そ、そうでしゅ……」

「では、クリスタル坑道の通行許可を、いただけますか?」

「え、でも、あそこは強力な魔物が多くて、百年以上閉鎖されていて」

「ご心配なく。アイスコレッタ卿が倒しますので」

「そ、そっか」


 フィンは身を乗り出し、通行許可を出してくれないかと頼み込む。ジルコニア大公は、微かに頷いた。


「ありがとうございます。助かります!」


 ジルコニア大公は涙を流していた。小さな声で、「ご先祖様、ごめんなさい」と謝っている。

 満面の笑みを浮かべるフィンが、とてつもない悪者に見えてきた。


「まさか、ここまで協力いただけるなんて! 大公、心から感謝します」

「いえ……。お役に立てて、何より……」


 もちろん、無償というわけではなかった。フィンはジルコニア大公の骨折りに対し、国から持ってきた感謝の印を差し出した。


 それは、拳ほどの大きさの柘榴石だった。


「私の個人資産です。非常に質のよい魔力が含まれているので、これひとつで一年もの間、都中の灯りを灯せるでしょう」

「そ、そんな! このような貴重な品を、受け取るわけにはいかない」

「いいんです。僕が個人的に管理する領地は、柘榴石がよく採れるもので。どうぞ、遠慮なく受け取ってください」

「だ、だったら、いただきます」


 ちなみに、柘榴石が多く採れるというのは秘密らしい。でないと、勝手に領地へ侵入する輩が出てくるからだとか。


「大公、お互いに、秘密ができてしまいましたね」

「そっ、だね……」


 デュランダルの密告とフィンの腹芸のおかげで、秘密裏にセレディンティア大国への入国ができそうだ。

 不法侵入であるものの、今は緊急事態である。

 神よ、許し給えと祈るイルゼであった。

 

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