ざまあされた者の末路
シルヴィーラ国の国王が腰かける玉座を背に、王太子ハインリヒは愛らしい娘ユーリアを胸に抱いた状態で叫ぶ。
「偽物聖女め! お前を国外追放の刑に処す!」
偽物と責められたカタリーナは頭を低く垂れた。長く美しいブルネットの髪が、さらりと床に流れる。彼女は言葉を返さず、ただただ平伏するばかりであった。
「国を守護する聖女を騙るとは、大罪だ。死刑でないことを、感謝すべきだ」
三百年前より起きた謎の現象、魔物の集団暴走により、国が荒廃した。 どうしようもない状況を救ったのが、聖女と呼ばれる存在である。
体の一部に聖刻を宿して生まれ、多くの魔力を有しているのだ。
その者の祈りが、魔物を遠ざける。
長年、国は聖女の力によって守られてきた。
公爵令嬢カタリーナは十代目の聖女であり、王太子ハインリヒの婚約者でもあった。
カタリーナの聖なる刻印が判明した五歳の誕生日に、婚約が決まった。
それから十五年と続いた婚約であったものの、つい先ほど破棄される。
代わりに、カタリーナの妹であるユーリアがハインリヒの婚約者となったのだ。
原因は、カタリーナにある。彼女は聖女ではなかったのだ。
カタリーナは王太子ハインリヒと結婚したいがために、聖女を騙っていたのだろう。
ずっと祈りを捧げていたのは、妹のユーリアだった。カタリーナは祈る振りをしていただけ。
それが明らかとなり、カタリーナは今、国外追放の刑が言い渡されている。
カタリーナは騎士達の手によって、大罪人のように拘束された。そしてそのまま、生まれ育った国から追い出される。
偽物の聖女カタリーナは国を追い出され、真なる聖女ユーリアが国を守護する。
王太子ハインリヒはユーリアを心から愛していた。
彼女を妃として迎えることにより、国の平和はさらに強固なものとなるだろう。
誰もがそう信じていたが――。
一か月後、国は瞬く間に魔物に蹂躙され、滅びかける。
聖女の祈りがなくなり、暴走状態の魔物が攻め込んできた。
「どうしてこうなった!!」
騒動の発端となった王太子ハインリヒが叫ぶ。
聖女カタリーナの追放を決定したのはハインリヒである。すべての責任が、彼に押しつけられた。
王太子は廃嫡となり、王族としての身分を取り上げられた。
けれども、それだけでは国民は納得しなかった。魔物の侵攻により、多くの人々が亡くなったのだ。
聖女カタリーナの祈りがあれば、多くの犠牲者を出す悲劇など起こらなかったのだから。
ハインリヒは責任を取って、民衆の前で首を切り落とされる。
聖女を騙ったユーリアは、罪人を収容する塔に監禁されていた。
ハインリヒと同等の罪だと責める声があるものの、いまだ処刑には至っていない。
それも時間の問題だろうと、街のほうでは囁かれている。
聖女ユーリアを支持した聖教会の枢機卿は失脚。財産没収の上、国外追放が言い渡された。
他にも、聖女ユーリアの支援をしていた家や取り巻きの侍女などは、新しい体制となった聖教会へ送り込まれた。
生涯、奉仕することで罪滅ぼしをするという。
真なる聖女であるカタリーナの捜索が行われていたが、発見には至らない。
連日、魔物が各地で暴走し、大勢の者達が亡くなっている。
もしかしたら、カタリーナも命を落としている可能性が大いにあった。
人々は嘆く。
聖女カタリーナさえいれば、平和だったのに、と。
何もかも、もう遅いのだ。