月が綺麗なんておかしい
今日は月が大きい。
僕は凝り固まった首を久しぶりにあげた。
うるさいほど光り輝く街。
それに負けないほどの光を放つ月。
どちらも自分一人では光ってはいなくて、ぼくは無性に笑いたくなった。
ビッグムーン。
今日はその日らしい。
スポットライトが当てられたように光る月は、影に隠れた僕を見ない。
まるで脇役は要らないとでも言うかのように。
思わず僕は、身体を縮こませた。
電気屋のテレビの中の人達は、一つ覚えのように綺麗と呟く。
僕には僕を罵倒する言葉に聴こえる。
僕はますます身体を縮こませた。
月が綺麗なんておかしい。
月は綺麗な丸ではなく、歪。
なのに綺麗というなら、僕のようなのも綺麗なはずだ。
月が綺麗なんておかしい。
月は太陽からもらった偽りの光で光っている。
なのに綺麗というなら、沢山の偽りで出来た僕も綺麗なはずだ。
月が綺麗なんて、おかしいんだ。
僕の目に、月への愛を囁く人が見えた。
僕の目に、止めるのが惜しいとばかりにシャッターを切る人が見えた。
僕の目に、沢山の目が向けられている大きな月が見えた。
僕の目に、僕の目に……。
僕は気づいた。
気づいてしまった。
月は沢山の人から愛をもらっている。
だけど、僕には一欠片も向けられていないことに。
悲しい。
違うそうじゃない。
悔しい。
違うそうじゃない。
苦しい。
そう、これが一番近い。
寂しい。
うん、そうでもある。
僕は苦しいのだ。
自分という小さな存在が大きな月の光の影に隠れ、誰も気付かず、僕を認めてくれないことが。
僕は寂しいのだ。
周りを見回しても誰も僕を見ていないことが。
ああ、そうか。
そうだったのか。
誰も僕なんて知らないし要らないし、興味が無いんだ。
久しく感じていなかった喉が焼ける感覚。
僕は泣いた。
泣いた。
泣いた。
気がつくと僕の目に見えていた人達はみんなぽっかりと消えていた。
見えるのは月ただ一つ。
僕はどうしたら良いか分からなくて、近くの森に逃げ込んだ。
静かな木々の中、僕は下を向いて木々にもたれていた。
ろくに休んでない体は走ることに耐えられなかった。
疲れた。
何もかもに。
疲れた。
僕はなんでいるんだろう。
答えを求めて僕は周りを見渡す。
夜の森がやけに明るい。
木の葉の間を抜けて光が差し込んでいる。
月光だ。
僕には月が寄り添って、慰めてくれているように感じた。
ああ、そっか。
月は、月だけは僕を認めてくれていたのか。
月が綺麗なんておかしい。
月は綺麗なんかじゃ無い。
月は、優しいんだ。
月は、みんなを見ている。
月は、みんなを照らし出している。
月は、優しかったんだ。
僕は小さく瞳を閉じた。