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召喚者の責務

少女自身はさっきのショックから立ち直れず、呆けたまま地面に座り込んだままだった。

 その少女にリサは優しく手を差し伸べる。


 「大丈夫?」


 少女は差し伸べられたその手にしがみつき、リサの助けを借りてなんとか立ち上がると素直に礼を述べた。


 「助けてくれてありがとう」

 「怪我はない?」

 「ん、大丈夫」

 「それはよかった」

 「あの、名前を訊いてもいいですか?」

 「私はリサ、隣の子はティナ」

 「リサとティナ・・・あたしはミーナっていうの」

 「ミーナちゃん・・・いい名前ね。ところでミーナちゃん、あなたはなにか急いでたのではない?」

 「あ、そうだった」


 ミーナは急に思い出し、困った顔を始める。

 リサは少女がなにを困っているのか理解が出来なかったので話を聞こうと思った。、


 「ミーナちゃん・・・よかったら話を聞かせてくれる?もしかしたら助けてあげられるかもしれないわ」

 「助けてくれるの?」

 「勿論」


 困っている人を助けたいと思う性分はリサのいいところであり、悪いところでもあったが、今のミーナにとってはリサのその性分が非常にありがたいものであったことは否めない。

 なぜなら、それを聞いたミーナの顔が安心したようにパッと明るくなったからだ。


 「じゃあ、なにがあったのか、落ち着いて私に聞かせてくれるかしら」


 ミーナはリサにことの経緯を説明した。


 「この子が言っているお兄ちゃんってもしかして例の従者サーバントですかニャ?」


 ティナがポツリと零しながらリサを見る。リサはティナと目を合わせると軽く頷いた。


 「急ぎましょう。なにか嫌な予感がするわ」


 リサはミーナを背負うと、そのまま道案内してもらい先を急いだ。

 途中で一人の浮浪児がかなり慌てた様子で走ってくる。


 「あ、サス!」


 ミーナはサスと呼んだ男の子に声をかけて引き留める。


 「あ、ミーナ」

 「あいつらは?皆んな大丈夫なの?」

 「あいつらはどっか行っちまったけど、こいつらは誰だ?」

 「さっき知り合ったリサとティナって人、助けてくれるって」

 「助けてくれるのか?あの兄ちゃんがあいつらにやられた。血だらけで今にも死にそうなんだ、お願いだから助けてやって欲しい」


 リサはミーナを背負ったままサスに案内を促す。


 「サス君、そのお兄さんの所へ急いで案内して」

 「こっちだ」


 サスが先頭を走って道案内する。

 やがて橋の袂が近くなり、道端の血溜まりの中に倒れている人の姿が視認できるようになると、傍らで寄り添って見守るシュンにサスが声をかける。


 「シュンちゃん」

 「サス、ミーナ」

 「助っ人連れてきた。兄ちゃん助かるかもしれない」


 「勇人君!」


 リサが近づいて路傍に倒れる人の顔を確認すると、それは紛れもなく勇人の顔だった。


 「ティナ、早く回復魔法を、急いで」


 リサの指示でティナが急いで回復魔法を唱え始める。


 「コルプス・プラーガ・レフェクティオー・サーナーティオ」


 ティナが呪文を唱え始めると勇人の真下に輝く白い光の点が出現し、緑色に変化する。そして時計回りに回転しながら直径1メーターほどの魔法陣となる。


 「回復ヒール)


 その掛け声に併せて魔法陣が一気に広がり閃光が放たれる。勇人がその光に包まれると切り裂かれた傷口の血はみるみるうちに止まり、瘡蓋となって固まったかと思うとすぐにボロボロと剥がれ落ちる。そして瘡蓋の剥がれ落ちた傷口は完全に塞がれて治っていた。


 「すげぇ」


 勇人の傷が癒される光景を目の当たりにした三人の子供たちは、ただそう言いながら食い入るように見つめた。


 「様態はどう?」


 リサが尋ねる。


 「あと少し遅ければ間に合わなかったかもしれニャいですニャ。傷口は完全に塞ぎましたが、回復魔法では失った血液までは元に戻らニャいので、あとは薬餌療法と自然治癒に任せるしかありませんニャ」

 「そう、とりあえず命だけは助かったみたいね。ありがとうティナ」


 リサはそう言うとひとまずホッとした。


 「兄ちゃんを助けてくれて礼を言うぜ。ありがとな」


 シュンは怪我の治った俺を見てリサたちに礼を述べる。


 「こちらこそ、勇人君を助けてくれてありがとう」

 「そういや、姉ちゃんってこの兄ちゃんと知り合いだったのか?」

 「そう、私にとって大切にしなければならない人・・・かな・・・」

 「この兄ちゃんは姉ちゃんの恋人なのか?」

 「!!」


 シュンが臆面もなく不意を突いて訊くのでリサは顔を少し赤らめてしまう。確かにお互い年齢は近い。が、リサは勇人を見て首を横に振った。


 「ううん、そうじゃないわ。私にはこの人、勇人君を呼び出してしまった責任があるの。その責任だけは果たさなければいけない。ただそれだけよ」


 そう言うリサの顔は恋愛とは程遠い、自身の責務を果たさなければならないという凛とした王女としての顔だった。

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