力無き者
「シュンに金を払ったのは俺だ」
俺はハッキリと目の前のリーダーの男に言い放った。
「ハンッそんな恰好したヤツがこんな大金持ち歩くかよ!」
「これを見ても信じないのか?」
懐から取り出したコインの詰まった皮袋を取り出す。袋の中から聞こえるジャラっと重そうな金属音にヤツ等の目の色が変わる。
「なぜテメェみてぇな奴がそんな大金を持ってやがる」
「そんなことはどうでもいいだろう」
「てか、テメェはバカか?そんなもん見せられて俺らが黙ってると思ってるのかよ?」
「この金をお前らにやる」
「マジか?」
「へへへ、この野郎俺達にビビっちまってるぜ」
デブとノッポが小馬鹿にしたようにヘラヘラと笑う。
「ただし条件がある」
「アン?条件だ?」
「相手を見てモノ言えよ?テメェが条件を出せると立場だと思ってるのかよ?俺たちゃテメェを殺して奪うことだってできるんだぜ」
「条件を呑めないなら、この金をこのまま川の中に投げ捨てる」
一瞬、不良連中が固まる。
「ハッタリかまそうったってそうはいかねーぞ」
「ハッタリじゃないさ、どうせ盗られるなら捨てたほうがマシってもんだ」
俺は皮袋を持って振りかぶる。
リーダーの男が俺を睨む。俺もリーダーを睨んだ。
しばらく二人で睨み合ったあと、リーダーの男が折れた。
「チッ!条件とはなんだ?」
「聞いてくれるのか?」
「話だけだ。内容によっちゃテメェを殺す」
「シュンの金を返してやって欲しい」
「・・・それだけか?」
「それと、金輪際この三人には関わらないと約束して欲しい」
「・・・・・・」
リーダーの男はしばらく考え込んでから口を開く。
「・・・・・・おい!その金をシュンに返してやれ」
リーダーの男はノッポの男にそう指示する。
「エッ、マジかよ」
ノッポが躊躇する。
「サッサとしねぇか!」
リーダーに怒られ、ノッポは渋々とシュンに金を渡す。
「これでいいんだろ?サッサとその金をこっちによこせ」
俺は小声でシュン達に伝える。
「俺が合図したら逃げろ・・・」
「なに話してやがる!」
「なんでもない。金はここに置くぜ」
そう言って俺は全ての金をバラ撒く。不良達は一瞬バラまかれた金に注意を逸らされ、それを見た俺はシュン達に合図した。
「逃げろ!」
俺と子供たちは一目散に走りだす。
だが、リーダーは素早く動き、俺の足を払い除けてきたので、俺はそのまま転倒し、頭を地面に押さえつけられる。
「グッゥ・・・」
力まかせに押さえつけられた俺は一瞬呻き声をあげた。
「おい!ガキどもを捕まえろ」
リーダーの指示通りにノッポがシュンの腕を捕まえる。
「くそ、放せよ」
もがきながらなんとか逃れようとするシュン。
「その金を取り上げろ」
リーダーの指示でノッポがシュンの金の入った皮袋を取り上げようとした。
「サスッ!」
そうはさせじとシュンが合図すると、サスがシュンの手から素早く皮袋を攫っていく。
だが、サスもノッポに腕を掴まれた。
「ミーナ!」
サスがミーナに皮袋を投げ、それを受け取ったミーナは必死で走って逃げる。
「なにしてる、さっさと捕まえねーか。テメーもいつまでもボケっとしてんじゃねーぞ」
リーダーはデブに命令し、デブは慌ててミーナを追うが、なにもないところでデブは転んだ。
デブは慌てて何度も起き上がりミーナを追おうとしたが、追おうとするたびに転びまくり、結局ミーナを逃がしてしまった。
「なにやってんだ!この役立たずが」
「ゴメン」
リーダーはデブに怒り、デブは委縮していた。
ミーナが上手く逃げ切ったのを見て俺は一安心だったが、俺の行動がリーダーの怒りに火を注いだことは間違いがない。
「ずいぶんと舐めた真似してくれたが残念だったなぁ・・金をバラまいて注意を逸らして逃げるなんざありふれた手段なんだよ。このバカが!」
そう言ってリーダーの男は俺の腹部を蹴り上げた。
―ドカッ―
「ゲハッ」
それにより俺は一種の呼吸困難に陥った。だがリーダの男はそのことを気にせずに蹴りを入れ続けてくる。
―ドカッ、ドカッ、ドカッ―
「結局、シュンの金も奪うつもりだったから逃げようとしたことはいい判断だったが、相手が悪かったな」
「それ以上やったら兄ちゃんが死んじまうだろうが」
シュンが俺を庇おうとして叫ぶ。
「死んじまうだぁ?こっちは舐めた真似されてブチ切れてんだ、端からぶっ殺すつもりだよ」
リーダーの男はシュンの制止も無視して懐からバタフライナイフのようなものを取り出す。
そして躊躇もせずに俺の背中から心臓めがけて振り下ろされる。
「やめろぉぉ!」
シュンが悲痛な声を上げるが、リーダーの凶刃は容赦なく俺の躰を貫いた。
だが、幸いにも刃は心臓をはずれ即死は免れた。しかし・・・躰をナイフで貫かれる痛みで俺の呼吸はしばらく止まった。
「・・・ガァッ!」
叫びたいがあまりの痛さで悲鳴が声にならない。
痛い、イタイ、熱い、アツイ・・・背中の焼けるような痛みに加え生暖かいものが俺の躰を濡らしている。
俺の躰がドクンと脈打つたびにスキン!ズキン!と刺された傷口が跳ねるように疼く。
クソ、俺はここで死ぬのか・・・こんなクズ共に殺されて・・・。
力の無いものはただ理不尽に踏みつけられるだけなのか・・・ムカつく、殺してやりたい、こいつらを全員。
欲しい、ホシイ・・・こいつらを叩きのめせるような力が・・・俺に・・あったなら・・・。
俺はそう考えながらも息も絶え絶えになり徐々に朦朧とし始める。
「ヘッ、ザマァみやがれ。オイ、シュン。・・・テメェは次回から俺達に支払う場所代は二倍だ。わかったな?」
―ペッ―
リーダーはシュンにそう言い残すと。俺に唾を吐きかける。
「オイ、行くぞ」
そしてノッポとデブの二人を従えてこの場を去って行った。
俺は朦朧とする虚ろな目にそんな光景を映しながら、やがて完全に意識を失う。
「しっかりしろ兄ちゃん!兄ちゃん」
シュンの悲痛な叫び声はもはや俺の耳に届くことはなかった・・・・・・。