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橋の袂で

古物商の店を出てから近くの橋の袂で、俺はシュン、サス、ミーナの三人にそれぞれ金貨を五枚づつ渡した。


 「俺からのお礼だ。遠慮せずにとっとけ」

 「いいのか?15万コインは大金だぜ?」

 「お前がいなかったらあの親父に相当値切られていただろうからな。これはお前が掴んだ金さ」

 「いや、いいよ兄ちゃん金が入用なんだろ?」


 城を出たことで金が要ると思って換金したが、先行きのことは正直何も考えていなかったのが本音だった。


 「実を言うとそんなに入用ってわけでもないんだ」

 「そうなのか?」

 「すげぇ」


 コインを手にしたサスが初めて口を開いた。ミーナも同じように喜んでいたが、二人とも手に持っていたコインをすぐにシュンに渡してしまった。


 「なんだ、二人ともシュンにあげちゃうのか?」


 俺が不思議そうにしていると、ミーナが答える。


 「シュンに任せておけば上手くやってくれるから、シュンに預けておくのが一番いいの。お兄ちゃんもシュンに任せてよかったでしょ?」


 ミーナに諭されるとは思わなかったが、確かにシュンに任せて全てが上手く行ったことは否めない。

 それにしてもシュンに対する二人の信頼感は絶大だな。


 「ところで兄ちゃんさぁ」


 シュンが訊いてくる。


 「あの置物、一体どうやって王宮に忍び込んで盗んだんだよ?」


 シュンも俺が盗んだと思っていたのか。だが、意図しなかったにせよ黙って持ち出したのは事実なので盗んだことに変わりはないか・・・。


 俺はしばらくの間、召喚のことを話すか迷っていたが、この三人になら問題ないと判断して全てをありのままに話すことにした。


 「じつは俺、ここのお姫様に魔法で召喚されたんだよ」

 「召喚・・・?じゃあ、兄ちゃんは従者サーバントってやつなのか?」

 「知ってるのか?」

 「知ってるもなにもミーナも使ってるぜ?」

 「ホントか?」


 シュンがさも当たり前のように話すので、俺は驚いた。


 「ホントさ、おいミーナ教えてやれよ」

 「いいの?」

 「ああ、だが話していいのは従者サーバントことだけだ」

 「わかった」


 ミーナは指先で輪を作り、指笛を鳴らす。しばらく経ってから一羽の鳥がミーナの足元に降り立った。


 「よしよし、いいコだね」


 ミーナはしゃがんでその鳥を抱きかかえると俺に差し出す。


 「この子があたしの従者サーバントだよ」


 ちょっと自慢気な顔をするミーナ。

 この鳥、猛禽類だよな・・・。


 「ワシ?タカか?・・・にしては小さいような」

 「ハヤブサだよ」


 俺が判別に悩むとミーナが教えてくれた。


 「ハヤブサか・・・名前はあるのか?」

 「名前はハヤトだよ」


 なんだかまるっきり日本名にしか聞えないんだが・・・。


 「なあ」

 「なあに?」

 「ハヤブサとかハヤトとか、俺の国、日本の言葉とまるっきり同じなんだが」

 「そうなの?」

 「うん」


 やっぱりここは日本で、この街全体で俺を騙そうとしてる?・・・のか?

 まあ、その話は置いておこう。


 「見たところ普通の鳥にしか見えないが、従者サーバントとして召喚された鳥ってなにか違うのか?」

 「よくわからないけど、あたしのは普通のより強いんだって」

 「強いって、どのくらい?」

 「うーん、普通のハヤブサと比べたことがないからわかんないよ」


 こんな子供に訊いてもやっぱ詳細までは説明できないか・・・。


 「ちなみに人間が召喚されても普通より強くなったりするのかな?」

 「んーそれもわかんない・・・」


 ミーナが申し訳なさそうな顔をする。


 「まあ、そのうちオイオイわかるだろ。ありがとう」

 「うん」


 俺がミーナの頭を撫でながら礼を言うと安心したように屈託のない笑顔を見せてくれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ギャハハハハ、オメェー、それマジヤベェって」


 ふと遠くから下品な笑い声と共に話し声が聞こえてくると、ミーナの表情は俄かに曇りだす。


 「よう、シュンじゃねーか」


 いかにも不良少年っぽい三人組がシュンに声をかける。年齢は見た目から俺と同じくらいか。

 リーダーっぽい男がニヤつきながら近づいてくると、シュン、サスは警戒の色で身構え、ミーナは俺の背中に隠れた。

 ミーナの従者サーバントであるハヤブサのハヤトは驚いたのかすぐに飛び出して上空へと消えていく。

 雰囲気的にどうも歓迎されるようなお知り合いではなさそうだ。


 「なんの用だ?」


 シュンがリーダーっぽい男を凝視したまま訊く。明らかに男の行動を警戒しているのがわかる。


 「へっ連れねーな。なんの用だはねーだろ。テメェ今月の俺たちへの支払い、まだだったよな?」


 男は突然にシュンの胸倉を掴んで持ち上げた。


 「ぐっ」


 シュンは一瞬顔を歪め苦しそうな表情を浮かべた。


 「おい!やめろ」


 俺は見かねてシュンを持ち上げるその男の腕を掴む。


 「なんだ?テメェ?」


 男はギロッっと俺を睨みつけた。


 「気安く人の躰に触るんじゃねーぞコラ!」

 「そんな子供に乱暴はよせ」

 「関係ネェ奴が口出しするんじゃねー。こいつらはな、俺らの縄張シマ窃盗しごとしてんだから、場所ショバ代を寄こすのが当然なんだよ」


 シュンは服を掴まれたまま苦しそうに言う。


 「なにが、場所ショバ代だ、お前らが勝手に縄張りと称してカツアゲしてるだけじゃねーかよ」


 その言葉が気に障ったのか、男は俺の腕を振りほどきシュンを放り投げる。


 チャリン・・・地面に放り投げられた勢いでシュンの服のポケットから金貨が零れ落ちる。


 「オイオイ、ずいぶんと持ってるじゃねーか、しかも金貨かよ。一体どこでかっぱらって来たんだ?」


 男の仲間らしきデブが言う。


 「トーゼン、浮浪児のお前らの金じゃぁねーよな・・・罰としてこれは没収だ」


 ノッポの男が金を拾い集める。


 「やめろ!その金に触るんじゃねぇ」


 シュンは叫ぶ。サスは唇を噛んだまま震え、ミーナの瞳は涙が今にも溢れんばかりだ。


 「その金は盗んだものじゃない!(れっき)とした報酬だ」


 俺はシュンを擁護する。


 「ああ?こんなヤツに誰が報酬を支払うっていうんだよ?」


 「それは」


 言いかけたその瞬間、シュンは俺の腕を掴んで首を横に振る。俺を見つめるその瞳はまるで・・・言うな・・・と言っているようだった。


 「・・・俺だ・・・」

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