吸血姫の力
「今日もワインでよろしいですかニャ?」
「ええ、お願い」
ここ最近はリサがワインしか口にしないことにティナもその他の召使いたちも慣れきってしまっていた。
カーテンの隙間から漏れる日差しと流れる風の心地よさに微睡みながら、昨日の余韻をリサは思い出し浸っていた。
「なんか、今日はいつもより機嫌がよろしいようですニャ」
「あら、そう見える?」
「はいニャ」
リサとしてはいつもと変わらないつもりだったので、どこがいつもと違うのかわからなかった。 そこでティナに直接尋ねることにした。
「いつもとどう違うの?」
「昨日まではいろいろと考え込んでいるようでしたニャ。今日は憑き物が落ちたみたいな穏やかさを感じますニャ」
「私はいつもと変わらない気がするけど」
「それは、自分のことは客観的に見れないですからニャ。自分自身では意外とわからないこともあるもんですニャ」
リサはイマイチ釈然としなかったが、そんなものなのかと思い込むことにした。
「あ、そうそう・・・」
リサは思い出したようにティナに話し掛ける。
「今日はもう少ししたら、シュン君たちに会いに行くわ」
「姫様のほうから会いに参られるのですかニャ?」
「ええ、体調もいいようだし。なのでフード付きのローブを用意して頂戴」
「フフ・・・だいぶ元気になられましたニャ。一体、誰のおかげですかニャ」
ティナの言う『誰』は言うまでもなく『勇人』を示していたが、それは充分リサにも伝わった。
「もう、茶化さないの・・・イヤなティナ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リサがシュンたちの前に現れたころ、いつも通りミーナを含めた四人で訓練にいそしんでいた。目下の課題は、ミーナの付与魔法を使いこなすことだった。
ミーナが水属性を付与した剣はアイスブレードとなって、通常のものより切れ味が数段上がる。革鎧くらいなら難なく切り裂けるほど威力が増すのだ。鉄製の鎧には効果はないが、その場合は火属性を付与して焼き切る。ただ焼き切るにはある程度時間がかかるため、使い勝手はよくないのが欠点だった。そこで、その欠点を補うために武器の使い手の技量上昇と付与者の魔力上昇を当面の目的とした訓練が行われている最中だった。
「あーリサお姉ちゃん」
一番最初に目聡くローブを被って現れたリサを見つけたのはミーナだった。
リサが現れたことでクリスは訓練を一旦中止して、休憩に入る。
「姫殿下、もうお加減はよろしいのですか?」
「ええ、おかげさまで」
「リサお姉ちゃん、見て見て、ミーナ火の魔法使えるようになったんだよ?」
ミーナはそう言って掌から灯のようなを小さな炎を出して見せた。
「オイゲン先生に教えてもらったの?・・・聞いたわよ、爆発魔法も使えるようになったんですってね」
「うん、あとね、風の魔法も教えてもらってるんだ」
「そしたら、私と同じ三属性の魔法も使えるようになるわね。三属性を使えるなんて王族でもなかなかいないのよ」
「リサお姉ちゃんはやっぱり、水、火、風なの?」
「私は、水、火、土ね」
「そう言えばさーリサ姉ちゃんの魔法って見たことがねぇな・・・一回見て見たいんだけど」
「あら、お安い御用よ、シュン君」
「じゃあさ、ミーナと同じ爆発っての使えるかい?」
「勿論・・・」
「じゃあその魔法を見せてくれよ」
「ミーナちゃんと同じ魔法でいいの?」
「ああ、姉ちゃんの魔法はこの国随一って噂だからミーナとの差が知りたいんだ」
「ミーナもリサお姉ちゃんの魔法が見たい」
周りからリサの魔法を見たいと言われ、リサは自分の力量を誇示したい欲求に駆られた。そこで二つ返事で「OK」して魔法を撃つことにした。
「爆発」
―ドガガーン―
リサが呪文を詠唱して「爆発」を発動させると、ミーナのときとは比べ物にならない、もの凄い音がした。と同時に吹き飛ばされた土塊もミーナのそれとは比べ物にならないくらいの量で、まるで土砂降りのようにバラバラと降り注いできた。
「スッゲー」
「すっごーい」
俺も含め、シュンやサス、ミーナはそのあまりの威力の差に驚きを隠せなかったが、目を丸くして一番驚いていたのは魔法を放ったリサ本人だった。
「嘘・・・なんでこんなに威力があるの?」
リサは自分の起こした爆発で空いた穴を見てそう言った。
リサの魔法で空いた穴はミーナの空けた穴より三倍ほどの大きさがあった。いくらミーナとの力量差があるとはいえ、ここまでの差があるとは思っていなかったのだ。
「魔力が以前よりも段違いに上がっている・・・なぜ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リサは自分の魔法が強くなった理由を魔法学校長のオイゲンに尋ねた。
「ふむ・・・たぶん姫殿下が吸血鬼となったことが原因ではないですかな?」
「そうなの?」
「古い書物によれば、吸血鬼は膨大な魔力を有するとか、となると、元々有していた姫殿下の魔力に吸血鬼の魔力が加わったと考えるのが自然でしょうなぁ」
「とすると・・・勇人君の従者としての力が増大したというのも・・・」
「あながち思い込みとも思えませんな。姫殿下の魔力増大に伴い強くなったものと思われます」




