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初めての口づけ

 ―ドカンッ― 


 リサが午後のひと時を微睡んでいると突然ものすごい音が響いた。


 「なに?」


 突然の出来事に驚いたリサは、急いで呼び鈴を鳴らす。


 ―リン、リン―


 すぐにドアがノックされティナが入室してきた。


 ―コンコン―


 「お呼びでしょうかニャ?」

 「今の音はなに?」

 「わかりませんが、衛兵が調べに向かっているようですニャ」

 「そう、詳しいことがわかったら教えて頂戴」

 「わかりましたニャ」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 しばらくして報告を受けたティナがやってくる。


 「先ほどの音は、ミーナさんが爆発魔法エクスプロージュンを使った爆発音らしいですニャ」

 「そう・・・って、無属性魔法よね?あの子あれを使えるの?」

 「らしいですニャ」

 「王族でもないのに、凄い子ね」

 「さすが、オイゲン校長が一目置くだけのことはありますニャァ」

 「ところで、勇人君はなにしてるの?」

 「さあ、まだクリスのところで訓練中だと思いますニャ、気になりますかニャ?」

 「別に気になんかしてないわよ」

 「ハイハイですニャ・・・。私は洗濯してきますので、御用は他の者にお申し付けくださいニャ」


 ティナはそう言って部屋を出て行った。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 夕方近くになっても勇人が現れないので、リサは少し憤りを感じていた。


 『リサ、俺は諦めないからな』そんな勇人の言葉を思い出すリサ。

 

 「なにが『諦めないからな』よ・・・だったらなんで来ないのよ、サッサと来い、バカ勇人・・・」

 

 リサは怒りに任せ、ドア目掛けて枕を投げつける。


 ―バスンッ―

 

 投げつけられた枕に詰められた羽毛がドア周辺に舞って落ちる。

 リサがドアに枕を投げつけると同時にノックの音が聞こえた。


 ―コンコン―


 「姫殿下・・・」

 

 タイミングのいいノックにリサはドキッっとした。


 「あ、なんでもないの、ごめんなさい」

 「勇人様がお見えになっておられますが、お通ししてもよろしいでしょうか?」

 「ちょ、ちょっと待って頂戴」


 リサは枕を拾うと慌てて自分のベッドに戻り、頭までスッポリと布団を覆い寝たフリをすると、勇人の入室を許可した。


 「お通しして頂戴」

 「かしこまりました」


 勇人は入室すると、ミノムシのように頭まで布団をかぶっているリサに声をかける。


 「気分はどうだ?」

 「最悪よ・・・」


 勇人はリサの『最悪』という言葉が、吸血鬼になったことに対する気持ちだと思った。しかし、実際には勇人にもっと『好き』だとアプローチしてもらいたい思いと、それに甘えたいが素直に受け入れられない思いとが交錯したジレンマからくる言葉だとはわからなかった。

 だが、そのことを当のリサ自身も気がついていなかったので、リサも自分がなにに対して『最悪』な気持ちでいるのかが理解できていなかった。 ただ、その『最悪』という気持ちは勇人が現れた時点で薄らいでいたことはなんとなく感じてはいた。


 「そうか・・・あのさ、俺、前より強くなったよ・・・たぶん。きっと前よりもリサの役に立てると思うんだ。だからさ、吸血鬼になったリサを人間に戻せるように俺も手伝うから、これからも一緒にやっていかないか?」

 「本当に、元に戻ると思う?」


 リサは頭から布団をかぶったまま勇人との会話を続ける。


 「戻るさ・・・。あのカミラって女を倒せば戻るんじゃないかなって、思ってる。確証はないけど」

 「あれだけ力の差があったのに倒せると思うの?」

 「皆んなの力を借りれば倒せるさ」

 「・・・ねぇ・・・」

 「ん?」


 リサはモゾモゾと布団から半分だけ顔を出して尋ねる。


 「私のこと、好き?」

 「うん・・・」

 「本当に?・・・」

 「うん・・・」


 勇人は身を逸らし、照れながら答える。

 

 「ちゃんと目を見て答えて・・・」

 「俺はリサが誰よりも好きだよ」

 「私のどこが好き?」

 「全部・・・?」

 「具体的じゃないのね・・・」

 「信じられない?」

 「信じさせてくれる?」

 「どうやっって?」

 

 リサは布団の中から勇人に向け、まるで『抱っこして』と言わんばかりに両腕を伸ばして言う。


 「起こして・・・」


 勇人は言われるまま、リサの上半身を抱き起こす。そのあいだ、リサは目を瞑り勇人にギュッと抱きついたままだった。

 勇人に抱き起されたリサは目を瞑ったまま勇人のほうに顔を向ける。そして、首をやや上に向けて唇を少し突き出すと、黙ったまま勇人の『信じさせる』を待っていた。


 「えと・・・」


 これはつまり、キスしろってことだよな・・・?。勇人にもリサの求める『信じさせる』の意味がわかった。


 ―ゴクリ―


 思わず勇人は唾を飲んだが、野暮にもリサに訊いてしまう。


 「いいのか・・・?」


 しびれを切らしたリサはなにも言わず、勇人の両頬を両手で捕らえると、そのまま自分から唇を重ねた。


 「・・・バカ・・・。男の子は女の子をリードするものなの、女の子からはしたないことを言わせたり要求させたりするものじゃないわ。女の子の気持ちがわかったら野暮なことは訊かずにその要求に応えなさい」

 「ごめん・・・」

 「今度は勇人君からしてね・・・」

 「次から気を付けるよ」

 「次じゃないわ」

 「え?」

 「今・・・するの・・・」


 リサの要求に、勇人は今度は自分から唇を重ねていく。啄み合うように、なんども、なんども。お互いに唇を重ね求め合う。この時間が永遠に続いて欲しいと思うくらいの想いを込めて・・・。

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