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三人の浮浪児

俺の手招きに対して三人の浮浪児たちは、少しあとずさりして警戒の色を示した。

 まあ、いきなり見ず知らずの人間に呼ばれたら警戒する。あの浮浪児たちの境遇なら尚更そうだろう。


 その三人の雰囲気を察してか、肉屋のおっちゃんが浮浪児たちに声を掛けた。


 「おい、お前ら!このあんちゃんがお前らにメシを食わせてくれるってよ。遠慮せずにこっちへ来い」


 浮浪児たちはそう言われると初めに肉屋のおっちゃんの顔を、次に俺の顔を、そして周囲のおばちゃんたちの顔色をおずおずと窺った。

 おばちゃんたちは浮浪児たちを指で差しながら、俺に対してヒソヒソと「いいのかい?」と言っていたが、俺が大きく頷くと浮浪児たちに声をかけ始める。


 「あんたら、今日はこのお兄ちゃんがお金を出してくれるって」

 「遠慮せずに食べていきな」


 俺が金を出すとなったら現金なものだ。皆んなして浮浪児たちに声を掛ける。

 浮浪児たちは俄かに掌返しをされ戸惑っていたが、俺が直接焼肉を持って行って手渡すとひったくって夢中で食べた。

 その後、少し警戒を解いたのか、スープやパンなどにも口をつけ始める。

 頬張ってメシを食うが、視線はずっと俺に向けられたままだ。何かされないかまだ警戒しているのが見て取れた。まるで野良猫に餌をやったときのようだ。

 子供たちが旨そうにメシを食う姿が俺にはなんとなく楽しく思え、俺は微笑みながらその様子を見ていたように思う。


 三人の食事が落ち着いたところを見計らって俺は名前を訊いてみた。


 「君たちはこの辺に住んでるって聞いたけど何て名前なんだい?」


 リーダーっぽい男の子は黙ったまま何も答えてくれない。

 見兼ねた肉屋のおっちゃんが口を開く。


 「折角このあんちゃんがメシをご馳走してくれたんだ。名前くらい教えてやるのが礼儀ってもんだろう」

 「あのね、あたしミーナっていうの」


 三人の中で一番小柄な子供が口を開いた。

 声や話し方から察するに女の子のようだが、汚れていてよくわからなかった。


 「そうなんだ」


 俺はミーナに話しかけながら、その子の首元でキラリと光る物に目を引かれる。


 「ミーナの首元で光ってるのってペンダント?」

 「そう、これはお母さんがいつも身に着けてたペンダントなんだ」

 「お母さんのペンダントを君が持ってていいの?」

 「お母さんの形見なんだ・・・これ」

 「あ・・・」


 俺は少し気まずくなって話題を変えた。


 「他の二人は?」

 「こっちの一番大きな男の子がシュン。真ん中の子がサスっていうの」

 「おい、ミーナ」


 シュンという名前らしい男の子がミーナのお喋りに対して口を挟もうとしたが、逆にミーナがシュンに諭す。


 「大丈夫だよシュン。このお兄ちゃんはいい人だよ。多分・・・」

 「多分、ってお前・・なんでそう思うんだよ?」

 「だって、ご飯食べさせてくれたし・・・」

 「たったそれだけでかよ?」


 シュンという名前の男の子はミーナに少し呆れていたみたいだが、ミーナの方が最年少らしいしので、他の二人よりは警戒感がなかったのかもしれない。

 野良猫だって仔猫の方が懐きやすいことは確かだ。

 だが、そこいらの野良猫だって一度エサをやっただけでは警戒は解かないだろうがな・・・俺は二人の会話を聞いていて内心そう思っていた。


 「で、ミーナの言う通り俺はシュンっていうんだが、兄ちゃんは一体誰なんだ?この辺じゃ見かけない顔だけど、なんで俺たちにメシを食わせてくれたんだ?」


 シュンは俺に訊いてきた。そりゃいきなりメシを奢るとかいう人間が現れたら理由は気になるな。


 「俺は勇人っていうんだ。日本という国からやって来た。メシを奢ったのはただの気まぐれだから気にするな」

 「ユウト・・・二ホン・・・」


 肉屋のおっちゃんが口を挟む。


 「二ホンなんて国きいたことねぇな・・・」

 「念のために訊きたいんだが、ここはフランツ王国で間違いないんだな?」

 「ああ、ここはフランツ王国の首都サロンだ」


 おっちゃんがそう言うと、シュンたち三人も頷いた。

 俺は顎に手を当てながら考え込んだ・・・。そうなってくるとリサたちの言葉がいよいよ本当らしく思えてくる。


 「ちなみに魔法なんて使えたりするのか?」


 俺は突拍子もないと思いながらも訊いてみた。


 「いや、魔法なんて俺たちみたいな庶民には使えないな。使えるとしたら、よほど能力があるヤツか、上級貴族や王族くらいなもんだろう」

 「そうなんだ」


 おっちゃんの言葉に頷きかけた時、急にミーナが俺の服を引っ張った。


 「ねぇねぇ、あたし使えるよ・・・魔法」

 「え?」

 「バ、バカ!それは言っちゃいけないってあれほど・・・」


 シュンが慌ててミーナに注意したが、遅かった。


 「あ、そうだった・・・ゴメン・・・」


 ミーナは自分の頭を軽く小突いた。


 「ちなみにどんな魔法が使えるんだ?」

 「それ以上は教えられない」


 俺の質問をシュンが遮って、結局ミーナからそれ以上の話を聞くことは出来なかった。


 「ところでお兄ちゃんってお金持ちなの?」


 ミーナが訊く。


 「いやお金持ちじゃないさ」

 「そんな綺麗な服を着て、あたし達にご飯を食べさせてくれたのに?」

 「たまたまアブク銭が手に入っただけだよ」

 「そういやあんちゃん、さっきの置物はいくらで売れたんだ?」 

 「50万コインで売れたよ」


 俺がそう言うとおっちゃんは驚いていた。


 「えー?俺の見立てじゃ少なくとも100万コインにはなると思ったがなぁ、50万かよ」

 「おっちゃんは値段とか判断できるのか?」

 「俺は骨董品が趣味でな、以前あれと似たようなものを古物商で見かけた時に、高くて手が出なかったことを憶えている」

 「兄ちゃんどこの店で売ったんだ?」


 シュンが訊く。


 「そこの角を曲がって突き当たったところの古物商だが」

 「まさか、あの出っ歯のネズミに似た親父のところか?」

 「ああ、その親父のところだ」


 俺がそう言うとシュンは自分の額を手で叩いた。

 

 ―ペチッ―


 「アチャー、やっちまったな兄ちゃん」

 「なにかまずかったのか?」

 「あそこの親父は物の価値がわからないと判断した客には値切る、渋る、ぼったくるで有名なんだ」


 そう聞いて肉屋のおっちゃんが驚いた。


 「え、そうなのか?」

 「なんだ、おっさん知らなかったのかよ?あの渋ちんが50万出したってことは、売値は300万になってるぞ」、

 「買値の六倍かよ。ボロい商売だな。俺も古物商に鞍替えするかなぁ・・・」


 肉屋のおっちゃんは呑気そうにそう言った。


 「兄ちゃん、一緒について行ってやるから足りない分を貰いにいこーぜ。俺が一緒ならあの親父も値段を誤魔化せねーからな」

 「いいのか?」

 「なーに、メシを奢ってくれた礼さ」


 そう言ってシュンは先を切って古物商の親父の元へ歩き出した。その後ろを俺とミーナとサスが追って歩く。

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