新たなる力
リサが目覚めたことによって心配の種の消えた俺たちは以前にも増して訓練に励んだ。
それは、リサを吸血鬼にした、カミラという女を倒すことが元に戻すための一つの方法として考えられたからだ。確証はない。またカミラがリサを吸血鬼に変えたという根拠も証拠もない。だが、可能性としては充分過ぎるほど考えられる。
リサが目覚めてからというもの、俺はとても調子が良かった。理由はわからないが、躰は以前より軽いし、力は増した気がするし、なによりも素早さでサスを凌駕していることは仮試合でハッキリわかった。
「勇人、あの樹に飛礫を当ててみろ」
クリスの指示通りに飛礫を投げる。
―ヒュッン―
―ドゴッ―
飛礫はメリ込むどころの話じゃなく、完全に樹に埋まっている。コントロールも以前にも増して制度が上がった感じだ。ほぼ力いっぱい投げても命中率がいい。
「なんだか威力が段違いに上がったな・・・」
クリスも驚いていた。
そんな中、ミーナが新しい魔法を覚えたといってお披露目してくれた。
まず最初に見せてくれたのは属性付与の魔法だった。以前、チンピラを撃退したときに地面に水属性魔法を付与したことがあったが、それを武器や防具に付与するのだという。
「じゃあいくねー。氷」
ミーナはそう言って俺の飛礫に魔法を掛ける。だが、なんの変化も感じられなかった。
「なにか変わったのか?」
俺がそう訊くと、ミーナが言う。
「ちょっと投げてみて」
俺は言われるままに飛礫を投げると、飛礫はたちまち氷となって、氷の刃、アイスランスに変化した。
―ズガッ―
飛礫の変化したアイスランスは樹の幹を完全に抉り取って大きな穴をあけていた。
「スッゲー」
あまりの威力の違いにシュンもサスも、そしてクリスも驚いていた。
ミーナはどうだとでも言わんばかりに誇らしげな顔をしていた。
「俺たちの武器にも付与してくれよ、ミーナ」
「いいよ、じゃあシュンたちはこれね・・・火」
これも見た目は変わっていない、だが・・・。
「これで盾を攻撃するんだよ」
「クリス姉ちゃん」
「ああシュン、じゃあこの盾を使ってくれ」
シュンはクリスに用意してもらった盾を攻撃する。
剣が盾にぶつかった瞬間、剣は真っ赤に輝き出し、徐々に盾に食い込んでいく。最終的には盾そのものを真っ二つに切り裂いてしまった。盾の断面を確認すると熱で溶けて切断されたことが見て取れた。
「これもスゲーな」
シュンそう言ってが驚嘆する。
俺も驚いてミーナに話し掛けた。
「火の魔法なんて使えたんだ?俺はてっきり水系統しか使えないのかと思ってた」
「オイゲン先生に教えてもらって、最近使えるようになったんだよ。あとね、こういうのも使えるようになったよ」
「なんだ?」
「あそこの地面を見ててね」
ミーナがそう言うとなにやら呪文を唱え始める。
「爆発」
―ドカンッ―
ミーナが魔法を発動させると地面が大きな音を立てて爆発を起こした。
―カンッ・・・バラバラバラ・・・―
吹き飛ばされた石の破片や地面の土が大きく舞い、そこいらじゅうに降り注ぐ。
「うわっ・・・ぺっぺっ・・・」
飛んできた土が口にまで入り込んだので思わず吐き出す。
「ちょっとミーナ・・・やりすぎだ」
あまりの衝撃音に驚いた衛兵が駆けつけてくる。
「なんだ、なにが起きた!」
「ああ、すまない。ちょっとした手違いだ。問題ない」
クリスがなんとか取り繕ってくれたおかげで、その場は丸く収まった。
「ふぅ・・危うく叱られるところだったぜ。ヒヤッとさせるなよ、ミーナ」
シュンがそう言うとミーナが謝った。
「ごめん・・・」
「今のはなんて魔法なんだ?」
興味が湧いた俺はミーナに訊く。
「今のはね、爆発って言うんだって」
「言うんだってって・・・」
「オイゲン先生がそう教えてくれたんだよ」
「ああ、なるほど・・・。で、今のはなに属性なんだ? 水とも火とも言い難かったが・・・」
「あれはね、無属性?かな」
「無属性なんて属性あるのか?なんか四大属性とか聞いたけど、火、水、無、とあとなんだ?」
「んーとね、四大属性は、火、水、風、土なんだって」
「無属性がないじゃないか」
「無属性は火と水の属性の組み合わせなんだよ。同時に発動させることで爆発するんだって」
もしかして、水蒸気爆発というものなんだろうか?・・・俺はそう思った。
「他にも組み合わせで何かあるのか?」
「水属性に風属性を組み合わせると雷属性になるんだって」
「組み合わせによっちゃかなりの属性ができそうだよな・・・。ちなみに雷属性も使えるのか?」
「今はまだ使えないよ。風属性魔法を教えてもらってるところだから」
「そうか」
横で聞いていたクリスが感心というか、驚いて言う。
「四大属性の魔法を複数使いこなせるなんて凄いな」
「そうなのか?」
「ああ、上級貴族でも一属性だ。複数使えるのは王族くらいだな」
「ということは、リサも複数使えるのか?」
「姫殿下は三属性使えるぞ」
「それって王族なら普通なのか?」
「いや、王族でも普通は二属性だな。ちなみに二属性使えるなら組み合わせで仕える他の属性も当然使えるぞ、だから正確には姫殿下は五つの属性魔法を使えることになる」
「三属性なら組み合わせでは六属性になるんじゃないのか?」
「ところがすべてが全て、属性が変わるわけではないらしいんだな。詳しいことはわからんが」
「それじゃあ、今度リサにでも訊いてみるかな」
「ああ、そうしてくれ」




