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エリザベートの戸惑い

 夜になってクリスがリサの元にやってきた。


 「聞きましたよ。勇人を部屋から追い出したんですって?」

 「ええ」

 「何をやらかしたんですか?あいつは」

 「クリス、あなたはティナと仲がいいから私が吸血鬼になった話はティナから聞いているでしょう?」

 「ええ、まあ」

 「まったく、あの子は口が軽いというか・・。でも相手があなただったから、というのもあるかもしれないわね」


 リサは横持に逸れた話を元に戻す。


 「う、ん・・・その私を勇人君は好きだとかいうのよ・・・まったくバカげているわ。古今より従者サーバントが召喚者を好きになったなんて話は聞いたことがないわよ」


 最初は軽いノリでリサの話を聞いていたクリスだが、いつもと違ってやや早口なリサの喋り方に少し違和感を感じていた。


 「おまけに私の傍にいられることが勇人君がこの世界にいる意味だー。とか言い出すんだから・・・。まったく冗談にもほどがあるわ。あなたもそう思うでしょう?、ねえ・・・クリス・・・クリス?」

 「ああ、すみません、つい考え事をしていました」

 「あなたが考え事だなんて珍しいこともあるものね」

 「姫殿下・・・少しお話をしてもよろしいでしょうか?」


 そう言うクリスは少し真面目な顔をしていた。


 「?・・・ええ、いいわよ・・・?」

 「姫殿下がお倒れになって三日目くらいにミーナが姫殿下のためにお祈りしたいと言い出したので、大聖堂に連れて行ったんですよ」

 「あの子はいい子たちよね・・・会ってあげなかったのは悪かったわ・・・」

 「そのとき勇人も誘ったんですが、あいつ、自分は神なんて信じてないから行かないと言ったんですよね」

 「神様を信じてないなんて勇人君らしいけど・・・」


 勇人も祈りを捧げてくれたのだと少し期待していたリサは少し落胆して聞いていた。


 「その時はずいぶん薄情な奴だなと思って憤慨したんですが、夜中に城の礼拝堂の扉が開いていたので様子を見に行ったら、勇人が祈りを捧げていたのでビックリしましたよ」

 「そうだったの?」

 「ええ、あの勇人がですよ?なんてお祈りをしていたか想像つきますか?」

 「さあ?」

 「では一言一句そのまま言いますから聞いててくださいね」


 そう前置きをしてクリスは勇人のセリフを述べて言った。


 「俺は神様なんて信じたことはないし、祈り方なんて知らない。けど、今回だけはあんたに祈らせてくれ。お願いだからリサを目覚めさせてくれ。あいつがいないと俺がこの世界にいる意味がなくなってしまうんだ。だから頼む・・・」


 クリスはリサがどう反応するか興味があったので、そこに自分の意見も付け加えた。


 「・・・そう言ってましたよ。私が思いますには、勇人が姫殿下に言った言葉は、あながち嘘とも冗談とも思えません。たぶん、あいつは本気で姫殿下を想っていると思いますよ」


 リサはいつの間にか自分の枕に顔を埋めて聞いていた。


 「そう・・・あのね・・・クリス」

 「はい?」

 「今日はもう眠いの・・・。オヤスミしてもいいかしら?」

 「わかりました。では今宵はこれで・・・それと、勇人のお祈りのことはアイツには黙ってやっていてくださいね。おやすみなさい」

 

 リサの照れている様子が手に取るように分かったクリスは、そのことにはあえて触れずにリサに言われるまま、部屋をあとにした。

 クリスが部屋を出たあと、リサは眠いという言葉とは裏腹に、いつまでも寝付くことができなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ―翌日―


 リサを起こすためにティナがやってきた。


 「おはようございますニャ。姫様」

 「うーん、おはよう・・・ティナ」


 まだ眠そうに伸びをするリサ。


 「もうお昼ですニャ・・。昨夜はいつもより早くお休みなられたとクリスが言っていましたが、まだ眠たそうですニャ」

 「ええ、なぜか昨夜はなかなか寝付かれなかったの・・・」

 「もしかして勇人様のせいですかニャ?」

 「なに言ってるの?ティナ・・・そんな好きだなんて言葉に私が惑わされると思って?」


 リサはそう言ったが、リサの赤くなった顔が虚しくも自分の言葉の説得力を欠いていたことをリサ自身がわかっていなかった。


 「私は勇人様の身分をわきまえない無礼な行為を怒っておられたのだと思っていましたニャ、勇人様の好きという言葉のせいだったのですかニャ?」

 「もう!」


 リサは図らずも自分が勇人に惑わされたと告白してしまったことに気がつき、枕で顔を隠した。


 「ところでお食事はいかがされますかニャ?」

 「今日もワインだけ用意してくれる?」

 「昨日もワイン以外お召し上がりになっておられませんニャ・・・」

 「仕方がないじゃない・・・お腹が空かないんだもの」

 「ところで、今日の御髪おぐしはどのようにしますかニャ?」

 「いつもの通りでいいわ・・」

 「はいニャ」


 ティナは慣れた手つきでリサの髪をかしてゆく。

 そのあいだ、リサは窓の外を眺めていた。


 「いいお天気ね・・・でも私にはちょっと日の光が眩し過ぎるかも」

 「そんなに眩しいですかニャ?」

 「そう感じない?」

 「ではカーテンを閉めますニャ」

 「お願いね」


 ティナがカーテンを閉めに窓辺に寄ると、外に勇人、シュン、サス、ミーナがいたので手を振る。


 「あら、誰かいたの?」

 「勇人様たちが、訓練に行くところだったみたいですニャ」


 ティナはカーテンを閉めながら答えた。

 そして再びリサの髪をかしはじめる。

 リサはカーテンによって光が遮られると落ち着きを取り戻したようにホッとする。


 「やっぱり今の私にはこのくらいの明るさのほうがちょうどいいみたい。・・・・ねぇ、ティナ」

 「はい?」

 「人を好きになるってどういうことかしら?」

 「姫様は人を好きになられたことがないのですかニャ?」

 「今まで好意を持ったり、持たれりしたことはあるけれど、勇人君のは今までのそれとは違う感じがして・・・正直、戸惑っているのよ」

 「どうして戸惑われるのですかニャ?」

 「だって勇人君は従者サーバントよ?従者サーバントが主人である召喚者を好きになるなんて、いいの?」

 「いいんじゃないですかニャ」

 

 ティナはずっとリサの髪をかしながら答える。


 「だって身分だって全然違うのよ?私は王族だわ・・・」

 「姫様は、私やクリスが姫様を好きなのはご存じですニャ?」

 「ええ知ってるわ」

 「でも私たちは姫様が王族だから好きになったんじゃないんですニャ。姫様のお人柄に触れて好意を持ったのですニャ。たぶん、勇人様もきっと同じだと思うんですニャ。だから、姫様も王族とか、召喚者とかいう立場を離れて素直な気持ちで考えてあげて欲しいのですニャ」

 「私はずっと素直だわ・・・たぶん・・・」

 「フフ、そういうことにしておきますニャ。・・・さて、御髪おぐし整え終わりましたニャ」

 「ん、ありがとう」


 ティナが部屋を出て行ったあと、リサは一人で膝を抱え考え込んだのだった。

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