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王位継承戦

その日は朝から投石や指弾のテストを兼ねておさらいをした。


 「今までの成果を少しだけ見せてくれ」


 クリスに言われるままに俺は飛礫を投げたり弾いたりしたが、このころになると標的から外すことはなくなり、ほぼ百発百中。また投石と指弾では有効射程は違うものの基本的には的を射抜くほどに威力も増していた。


 「これが並の人間相手なら一発で倒せるな」


 クリスの見立てではまず満足のいく仕上がりだということで及第点をもらうことができた。

 そんな中、ティナがやってくる。


 「姫様がお呼びですニャ」

 

 俺たちは訓練をひとまず中止してリサの元へ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「本日、お兄様の従者サーバントが召喚されたとの連絡がありました・・・またそれに伴って王位継承戦の日取りも決定しました」


 待っていたリサがまず告げたのはそんな報せだった。


 「いよいよか。そういや従者サーバントって皆んな俺みたいに異世界から召喚されるのか?」


 俺はふと疑問に感じたことをリサに尋ねた。


 「王位継承戦に限ってはそうね」

 「王位継承戦に限っては?」

 「そう、場合によっては利害関係が絡む人物を召喚してしまう可能性もあるので、それを防ぐために異世界から召喚する決まりがあるのよ」

 「そうなのか」

 「王位継承戦に関係がなければ特にそういう制約はないわ」

 「いや重要ニャ禁止事項がひとつだけありますニャ」


 リサの言葉にティナが横から訂正をした。


 「重要な禁止事項?」


 俺はティナに訊いた。


 「悪魔召喚ですニャ」

 「ああ、そうだったわね・・召喚対象から外れていたのでつい失念していたわ」

 「悪魔召喚?」

 「そう、悪魔召喚は穢悪あいあく魔法なので教会から禁止されているのよ」

 「基本的ニャ能力値がものすごく高いので、魔力の劣る魔術師が使役しても上位術師の従者サーバントと互角以上の戦いができますニャ」

 「その禁止事項が守られているか監視するために教会関係者が立ち会う決まりとなっているのよ」

 「なるほど」


 俺の横からクリスがリサに話し掛ける。


 「こう言ってはなんですが、正直ミハエル殿下が王位継承戦に挑める従者サーバントが召喚できるとは思いませんでした」

 「思いませんでしたって、召喚できないこともあるのか?」


 疑問に思った俺はクリスに尋ねるが、リサが変わって説明する。


 「召喚魔法はおびただしい魔力を消費するので、それだけの魔力がないと強い従者サーバント呼び出せないのよ。お兄様の場合、王位継承戦に挑める従者サーバントを召喚するのは難しいと言われていたわ」

 「それなのになんで召喚できたんだ?」

 「王位継承戦だけに、利害関係のある誰かがお兄様をサポートしてくれたのかもしれないわね。足りない魔力を補ってくれさえすれば召喚の成功率は上がるもの」

 「ところで対戦相手はどんなヤツなんですか?姫殿下」

 「お兄様の従者サーバントについては、詳しいことがわからないのよ」

 「リサの兄さんってミハエルってヤツだっけ?」


 俺がリサに質問するとすかさずクリスが俺の脛を蹴飛ばした。


 「痛テッ、なにすんだよ」

 「仮にも姫殿下の兄君だぞ。ヤツ呼ばわりをするな」

 「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ?」

 「殿下とか、ミハエル様とか、あるだろ」


 そのやり取りを見ていたリサはクスッと笑う。


 「いいのよ、クリス。勇人君の言葉使いなんて今に始まったことではないし」

 「しかし、それでは国としての体面が保てなくなる恐れが・・・」

 「公の場では困るけれど、この場においてはそこまでかしこまる必要は無いわよ」

 「ホレみろ・・姫様は寛大なお方だな」

 「貴様、今日の投擲練習は二倍だからな・・・」


 クリスはギロリと俺を睨む。明らかに本気で言っている。


 「パワハラだろ・・・それ」

 「まぁまぁ・・・クリスも冗談はそこまでにしてあげなさいな」


 リサは笑いながら俺を庇うが、扇で口元を覆ったとき、クリスに向けたその眼差しが笑っていないことがハッキリわかった。


 「あ・・・そうですね・・・私としたことが少し冗談が過ぎたようです・・・ハハ・・・」


 クリスは主人に怒られた犬のようにショボンとなるが、すぐに気を取り直し話題を変える。


 「ところで、王位継承戦の日取りが決まったということは、弟君であらせられるフィリップ殿下の従者サーバントはすでに召喚されているんですよね?」

 「フィリップは王位継承戦には出ません」

 「え?どういうことです?」

 「かねてから病に臥せっており、病状が思わしくないことから正式に辞退すると意志表示があったそうです」

 「ご病気がちだとはうかがっておりましたが、大丈夫なんでしょうか?」

 「フリップのことは、わが国随一の魔道医師団が治療に携わっているので大丈夫だと思うけど、それより後見人である叔父様がこのまま黙っているとは思えないわ」

 「宰相、マクシミリアン様ですか、黒い噂の絶えないお方ですからね」

 「問題なく継承戦が終わってくれればいいのだけれど・・・」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一抹の不安を抱えたまま、やがて継承戦の日を迎えた。


 継承戦当日、リサは王宮内の室内闘技場の入口で俺を呼び止める。


 「勇人君、これをお守り代わりに持って行って」


 リサは自分の首にかかっていた銀の十字架のネックレスを自ら外して俺の首に掛ける。


 「神様のご加護がありますように」


 続けてそう言って俺の前で跪くと手を組んで祈りを捧げた。その敬虔な態度で真摯に祈るリサの姿はまるで聖母のように俺には思えた。


 「私はこれ以上立ち入れないので、二階の観覧席で応援しているわ。頑張ってね」


 そう言って俺を見つめながら微笑みかけるリサの愛くるしい笑顔に、俺は一瞬ドキッとさせられる。


 「お、おう・・・」


 俺はリサの真っ直ぐな視線を見つめ返すことができず、やや視線を逸らし照れながら曖昧に返事をすると、闘技場内へと足を踏み入れた。

 リサはティナ、クリス、シュン、サス、ミーナを連れて二階へと階段を上がっていく。


 闘技場はアリーナ形式になっており、広さは体育館よりやや広いくらい。四方は石の壁面で囲まれ左右の二階には観覧席が設けられている。また、観覧席のうしろには採光できるように大きなガラス窓がいくつも連なっていた。

 王の席は観覧席とは別に独立して設置されており、闘技場の上座にあたる最奥三階のバルコニーに設けられている。

 観客は継承戦に関係する王族および貴族と、外交関係のある各国の代表者、また聖職者に限定されており、一般市民が立ち入ることは許されていない。

 ちなみにシュン、サス、ミーナの三人はリサの意向もあり特別に入場を許可されている。規則にうるさいマイヤ女史がこのことについて特に言及して反対しなかったのは俺としては意外に思えた。


 俺とミハエルの従者サーバントは各々左右の入口から入場し、リサは俺の入場口の二階席、ミハエルは反対側の二階席で観戦する。


 ここ闘技場内で、俺は初めてミハエルの従者サーバントと面識を得る。その相手は長い黒髪の女だった。だがこの時点になってもまだ相手の能力がわからないことが俺を不安にさせた。

 唯一の救いはミハエルの魔術師としての能力がリサより数段劣り、魔力補正がリサと比べて雲泥の差であること、予想される従者サーバントも強くないだろうという情報に拠るものだけだった。


 「これより、フランツ王国、第一王子ミハエル殿下の従者サーバントカミラ・アルカードと、同じく第一王女エリザベート姫殿下の従者サーバントユウト・キサラギによる王位継承戦を開始いたします」


 継承戦開始のアナウンスが流れるに至り、俺はやっとミハエルの従者サーバントの名前を知った。そして、今まさに闘いが始まろうとしていた。

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