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不穏

クリスの指導のもと、俺は移動や回避動作を行いながらひたすら投擲を繰り返した。十日ほどが経過すると標的への命中率が上がり始める・・・。


 「やっと、どんな動き方をしてもほぼ全弾標的に当たるようになったな・・・。約束通り次は投剣の投げ方を教えよう。それと、もう一つこれを教えるからマスターしろ」


 -パチン-


 クリスがそう言うと俺の顔になにかが飛んできて当たる。


 「痛テッ」


 俺は思わず顔をしかめる。

 俺の顔に当たったなにかは、そのまま地面に落ちる。よく見るとそれは小さな小石だった。


 「なんだ?どこから飛んできた?」


 クリスがなにかを投げたような動作は見受けられなかった。が、クリスの手にはなにかが握りこまれ、親指が握りこぶしの中に不自然に沈んでいる。


 「もしかして指弾か?」

 「知ってるのか?」

 「使ったことはないがな」

 「そうか、なら話は早い。投石や投剣はその動作から相手に動きを読まれやすい。また敵に接近された場合の攻撃手段としても弱い。そこで指弾を使えるようにしておけば攻撃の幅の広がる。投石に比べると威力や射程距離は落ちるが、近づいた相手に使うのであればそれなりの効果は見込めるだろう」

 「なるほど」

 「特に従者サーバントとしての魔力補正があるお前の指弾なら痛いどころではない威力になるはずだ」


 俺はクリスに言われるまま指弾の習得も並行して始めることにした。

 俺の傍ではシュンとサスも剣技と同時に盾や投石の練習をしている。盾や飛礫つぶてが使えると防御や攻撃の幅がグンと広がるからだ。

 クリスが言うにはシュンは我流で、独特の癖があるとのことだった。それについてクリスはシュンに矯正指導するか迷ったが、長所を潰す可能性を考えあえて指摘しなかったという。

 また、シュンは踏み込みが早く、相手との間合いを詰めるのがうまい。それだけに、切っ先がより早く相手に届く今の癖のままのほうが利点があるのではないかとの結論に達したとも言っていた。

 サスについてはシュンより素早さがあり身軽だということだが、シュンのような癖がついていないのでクリスとしては教えやすいと言っていた。問題は躰が軽く、敵とまともにぶつかり合ったときに力負けが懸念されることだという。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 中庭で練習する俺たちを三階にある近衛隊長の執務室の窓から興味深そうに眺めるロイス伯の姿があった。


 ―コンコン―


 「近衛隊長、女官長殿がお越しになられました」


 軽いノックのあと、ロイス伯の部下がそう伝える。


 「ここに通してくれ」

 「はっ」


 やや時間を置いてから案内を受けたマイヤ女史が近衛隊長室に入室した。


 「ようこそ、女官長」


 ロイス伯は窓の外からマイヤ女史に視線を移して挨拶し、女史はドレスの端を両手で持ち上げて礼をとる。


 「まあ、おかけください、女官長」


 ロイス伯は自らの机の前にある応接用のソファーにマイヤ女史を座らせる。


 「ロイス伯は窓の外にずいぶんとご興味があるご様子・・・。なにか面白いものでもございまして?」


 第一声にマイヤ女史がそう尋ねた。


 「姫殿下の従者サーバント君がかなりやる気を見せているようですのでね」

 「なるほど、近衛隊長の目から見て彼の者は有望に思えますか?」

 「さすがは姫殿下の従者サーバントと言ったところでしょうか・・・ただ惜しむらくはすべての補正が完全に掛かってるとは思えない点ですな。それよりも私がもっと興味を惹かれるのは例の浮浪児たちです」

 「と言うと?」

 「あの三人はいずれも傑出した才能が見込まれるということです。剣技という点ではシュン君はクリスも認めるほどの実力がすでにありますし、サス君はシュン君を凌ぐほどの俊敏さがあります。この両者はいずれも掘り出し物と言っても過言ではないと思います」

 「先ほど三人と仰られ、ミーナという女の子も含まれている言い方に聞こえましたが?」


 ミーナの名前が出てこなかったので、マイヤ女史から水を向けた。


 「これは失礼、ご存じの通り私は貴族といっても庶民上がりですからね、魔法のことにはとんと疎いのでつい・・・。ミーナという少女についてはオイゲン校長の評価が高いと聞き及んでおりましたので、私自信の評価というわけではないのですよ」

 「そうでしたか・・・」


 マイヤ女史はいささかガッカリしたが、表面上の態度にはおくびにも出さなかった。


 「ところで・・・本日お越しいただいたのは雑談をするためではないのですよ」

 「ええ、勿論わかっておりますわ」


 ここから二人の会話はヒソヒソ話に近くなり聞き取りにくくなる。


 「ご懸念されていたミハエル殿下のことなのですが・・・」

 「なにか変わったことがございましたか?」

 「ここ最近お忍びで出かけられることが多くなりまして・・・部下に探らせましたところ、ある場所に頻繁に通っていることがわかりました」

 「ある場所とは?」

 「それが、王弟であられるブラウン公の宮殿なのです」

 「宰相閣下の?」

 「ええ、ご存じの通りブラウン公の居城は治外法権のため、詳細についてはなにもわかっておりません。ただ・・・」

 「ただ・・・?」

 「関係があるかどうかはわかりませんが、半月ほど前からあの近辺で若い女性が失踪するという事件が起きております」

 「治安警察は捜査をしているのですか?」

 「勿論、訴えのあった家族の依頼を受けて捜査しておりました」


 マイヤ女史はロイス伯が過去形で話したことに違和感を覚える。


 「今は捜査されていない?」

 「ええ、結局はただの家出だろうということで訴えを退けられております」

 「ただの家出であれば問題はないでしょう」

 「ところがそうでもなさそうなのです」

 「どういうことですか?」

 「どうも公安警察に捜査を打ち切るように圧力が掛かった疑いがあるのです」

 「一体どこから圧力が掛けられたというのですか?」

 「それが・・・宰相府ではないかとの噂が・・・」

 「なんと」

 「現段階ではまだ噂に過ぎないので迂闊なことは申せませんが」

 「ブラウン公はかつて陛下と王位継承を争った仲・・・今は和解されたとはいえ、未だに王位にご執着があるとの噂もございますゆえ、これは由々しき事態かもしれません」

 「このことを陛下にご報告するか迷ってはいるのですが・・・」

 「いえ、相手がマクシミリアン様では下手をすると陛下の御身も危険にさらしかねません。ここは迂闊なことはしないほうがよろしいでしょう」

 「では私はミハエル殿下とともにブラウン公についても注意を払っておきましょう」

 「お願いいたします。ですが・・・相手がマクシミリアン様ということであれば、あまりご無理はなさいませんよう」

 「承知いたしました」

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