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マイヤ女史のお説教

 「ハァハァ・・・助かったぜ、兄ちゃん」

 「俺のほうこそ、お前たちに助けられてるからな・・・ハァハァ・・・今回はミーナに助けられた。ありがとう」


 俺がミーナの頭を撫でると、ミーナは満面の笑みを浮かべて喜んだ。


 「魔法が効いている間はあいつはここには登ってこれない」

 「今のはミーナの魔法だったのか・・・」


 一体どんな魔法なのか気になった俺はミーナの魔法が掛けられた坂を腹ばいになって覗く。


 「兄ちゃん、気をつけないと滑り落ちるぞ」

 「わかってるって、ちょっと興味が湧いただけだ」


 坂の見た目は表面が乳白色になっており、指で触ると固くてヒンヤリと冷たい。しかもスケートリンクのようにツルツル滑る。・・・つまり、これはアイスバーンだ。

 ミーナがスリップと唱えて発動させた魔法の正体は地面をアイスバーンにするものだった。その上に足を乗せれば文字通り滑って転倒する。たぶん窃盗で追いかけられ、逃げるときに使用していたのだろう。だからシュンはこの魔法のことを言うなとミーナに念を押していたのだと容易に想像がついた。


 「今のうちにここから離れないとな」


 シュンがそう言うとサスが訊く。


 「でもシュンちゃん、どこに逃げればいいんだよ?」

 「うーん」

 「こんな街中で逃げ回ってもいずれ掴まるぞ。ここはリサに匿ってもらうのが一番いいだろう」

 「城に行くのか?でもよー兄ちゃん、俺たち城から出てきたばかりだぜ?」

 「そんなことを言ってる場合じゃないだろう?このままじゃミーナが危ないんだぞ。それにヤツらだって城にいる俺たちには手は出せないだろ」

 「わかったよ兄ちゃん。お前たちもそれでいいな?」


 シュンの言葉にサスもミーナも頷き、俺たちはすぐにその場を離れ王宮へと急いだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そのころ王宮では、リサがティナとクリスを伴って玉座の間で王に内謁していた。


 「ただいま戻りました。陛下」

 「おお、エリザベート無事であったか。心配したぞ」

 「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。陛下より護衛の派遣という恩恵を賜ったおかげで大事に至りませんでした」

 「そのことならロイス伯と女官長に礼を述べるがよい。とくに女官長の適切な助言がなければ今回の件は余のあずかり知らぬところであったからの」

 「ロイス伯、マイヤ女官長、危ないところを救っていただき感謝の念に堪えません。ありがとうございました」

 「イヤイヤ、私は自身の責務を果たしたまで。礼にはおよびませんぞ。全ての功績は私奴わたくしめよりも機転を利かせて適切な処置を執られた女官長殿にございますぞ」

 「いえ、私はただ陛下に助言をしたに過ぎません。裁可を下されたのは陛下御自身。また陛下のご下命を受けて指揮を執られたのはロイス伯でございます。そのうえで姫殿下がご無事だったのはなによりでございますわ。それよりも・・・」


 マイヤ女史はそう前置きしながら丸メガネの縁を持ち上げリサを見据える。

 リサをはじめ、ティナ、クリスも、あ、これは小言が始まるなと息を呑んだ。


 「・・・私は姫殿下に再三ご自重いただけますようにと申し上げたではありませんか。にもかかわらず御身を危険にさらすかもしれないあのような場所へ赴かれるとは何事ですか」


 予想通り、リサへの小言が始まったと思ったクリスは、俺の立てた計画通りにまずは自分に矛先を向かせるべく蚊の鳴くような声で口を開く。


 「あの、女官長・・・?」

 「なんですか?近衛兵長」

 「いえ、今度のことはですね、姫殿下をお止めしなかった私にも責任がありますので、あまり姫殿下を責めないでいただきたいのですが」

 「なにを言うかと思えば・・・、クリス、あなたにも責任があるのは当然ではないですか。ティナを含め、あなたたち二人は姫殿下をお諫めする立場にあるのですよ?お忍びの遊び相手ではないのです。二人ともそれをもっと自覚しなさい」

 「女官長・・」

 「・・・姫殿下にはなにか異論がございますか?」

 「いえ、異論ではないのですが、此度の件ではクリスの活躍により無事戻ることができたのです。その功績に免じて今回は穏便に・・・」


 リサが言い終わる前にマイヤ女史が口を開く。


 「近衛兵長が姫殿下をお護りするのは当然のこと。そのために護衛としてお付けしているのですから。そもそも、その功績もクリスがちゃんと姫殿下をお諫めし、あのような場所へ赴かせなければ立てる必要もなかったものでございます。違いますか?」

 「いえ・・・」


 やはりというか、俺程度の策ではマイヤ女史の小言を止めることは出来なかった。これからさらに小言が続くと思われたその最中に、一人の衛兵が入ってくる。


 「申し上げます」

 「なんですか。今は取り込み中ですよ」

 「申し訳ありません。シュンと名乗る少年がユウト、サス、ミーナと申す他三名の者と共に姫殿下にお目通りを求めておりましたので、ご報告に参りました。王室のエンブレムを所持しておりましたので規定通りお取次ぎをした次第であります」


 その報告は、これからマイヤ女史の小言を聞かされるとウンザリしていたリサ、ティナ、クリスたちにとってはまさに助け船を得た気分だった。


 「ふむ・・・女官長、言いたいことは積もるほどあろうが、ここはひとつ余に免じて、かの者たちをエリザベートに目通りさせてやってはくれぬか?」


 ふぅ―・・・とマイヤ女史は溜息をつく。ミーナの名前を耳にしたマイヤ女史は、自身もミーナの身を案じていたこともあって、すっかりお説教をする気持ちが無くなっていた。


 「わかりました。今回はここで終わりといたしましょう」

 「エリザベートも、これに懲りて今後は自重するようにな。下がってよろしい」


 王に退室を促されると、リサは王、マイヤ女史、ロイス伯の三人に恭しく礼を取って、玉座の間をあとにした。

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