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狂信者からの逃避

洞窟からココナの町に急ぎ到着した俺たちは、宿屋で濡れた衣服を着替えると、今後の対応を相談した。

 初めに口を開いたのはクリスだった。


 「ヤツらが付けていた紋から推測して、敵の狙いがリサであることは間違いがないだろうから、今夜はここに留まらず、すぐに王都に向けて出発したほうがいいように思う」

 「そうね、グズグズしていては追手がかかる恐れがあるもの」

 「この町の中も無事じゃないってことか?」

 「相手がサタニア王国の残党だとすると、ここの連中じゃ手に負えないぞ」

 「そんなに強いのか?クリスが相手にしていた相手はそんなに強そうには思えなかったが」

 「クリスは強すぎて、相手を子供のように倒してしまったからわからニャイのは無理ニャイですニャ」

 「あれ?っていうことは、シュンってもしかして相当強い?」

 「なんだ、わからなかったのか?あいつはまだ子供で粗削りだが筋はいいぞ」


 クリスがそう言うってことは相当なんだろうな・・・。


 「とにかく食事を済ませたらさっさとここを出発しよう。幸い私とティナは夜目が効く、二人で交代しながら王都まで急行する」

 「そうね、今から馬車を急がせれば明日の昼前には王都に到着するわね」

 「敵に気取られるのを防ぐため、馬車の灯りは点けないでいきます」

 「わかったわ」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ―ガラガラガラガラ―


 暗闇の中を一台の馬車が走り抜けてゆく。


 「追手はどうだ?ティナ」


 御者を務めるクリスがティナに尋ねる。


 「今のところ見えないですニャ」

 「なにか俺にできることはないか?」

 「勇人はとりあえずリサのそばに。夜が明け始めたら見張りを交代してもらう」

 「わかった」


 たしかに夜目の効かない俺では夜が明けなければ見張りもできないし、たいして役には立たない。せいぜいリサの傍に付き添うくらいだ。


 ―ガタガタガターン!ガタガタ―


 道路はそれなりに整地されてるとはいえ、剥き出しの地面を突き固めただけのものなので、デコボコやギャップがそれなりに多い。また、馬車も俺がいた世界のようにサスペンションなどついてないので、大きく振動し上下する。その都度に舌を噛みそうになるが文句も言っていられない。


 途中、クリスは小さな村に立ち寄った。


 「どうどう」


 クリスは手綱を引いて馬車を止める。


 ―ヒヒーン、ブルルルル―


 「どうした?」


 俺の疑問にクリスが答えた。


 「このままでは馬が持たん。ここには王都府の駅舎があるから馬を交換して借りていく」


 ―ドンドンドン―


 クリスは駅舎の管理室の戸を叩いた。


 「緊急事態だ、ここを開けてくれ」


 管理室の宿直担当の一人が中から出て声をかけてきた。


 「どなたですか?」

 「近衛兵長のクリスというものだ。ゆえあって馬を借りたい。貸してもらえぬか」

 「わかりました」

 「かたじけない」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「おーい、おーい」


 クリスとティナが馬を交換している間に遠くから誰かが声をかけてくる。

 全員が騎乗しており、その人数は約十数名・・・。

 追手と思いクリスが身構えるが、声の主の顔が確認できると安心したように言った。


 「なんだ、お前か。どうしたこんなところに」

 「どうしたじゃありませんよ、兵長」


 相手はどうやら近衛兵の一人らしかった。


 「姫殿下をご心配され、陛下がロイス近衛隊長を通して我々を護衛にと派遣されたのです」

 「そうだったのか」

 「ここから先は我々も護衛いたしますから安心してください」

 「ということです。姫殿下」


 クリスが振り向き馬車に向かって声をかけると、リサはゆっくりと降りてくる。


 「護衛に来てくれてありがとう。感謝いたします。でも・・・陛下にはバレてしまったのね。・・・当然女官長も・・・」


 リサが人差し指を顎に当てながら困ったような表情で護衛の近衛兵に訊きいた。


 「ご存じでいらっしゃいました」

 「やっぱり・・・」


 リサは溜息をつくと続けて呟く。


 「お二人ともご立腹かしら・・・」

 「いいえ、陛下はもとより、女官長もご心配されてるご様子でしたが、ご立腹なさっているとは思えませんでした」

 「でも帰ったらきっと叱られるわね・・」


 まあ、それは当然そうなるだろうと俺は思ったが、一計を閃いた。


 「なあ、俺にひとつ案があるんだが」

 「なにかいい案があるの?勇人君」

 「上手くいくか保証は出来んが、まずリサがマイヤさんに叱られそうになったら、クリスがこう言うんだ。『すべては傍にいながらお止めしなかったのが自分が悪いので、姫殿下を叱らないでください』と」

 「なっ・・・そんなことを言ったら私が女官長に叱られてしまうじゃないか」


 クリスが驚き、嫌がった。よほどマイヤさんが怖いらしい・・。


 「ん?お前はリサのために命を懸けて仕えると言ったよな?」

 「言ったが、それがどうした」

 「マイヤさんに叱られるだけでまさか死にはしないだろう?」

 「そりゃあ、そうだが」

 「お前がリサのために命を掛けると言ったのは嘘か」

 「ぐ・・・」


 俺は苦虫を噛み潰したような顔をしているクリスに続けて言う。


 「まあ、最後まで聞け・・・。クリスがリサを護衛して護り通したことは事実だ」

 「そうね・・クリスがいなかったら今頃どうなっていたかわからないわ」

 「だから、今度はリサがそのことをマイヤさんに話して、クリスの功績と引き換えにと赦免を願い出るんだ」

 「おお、それなら叱られないで済むかもしれないな」


 皆んなが俺の提案を受け入れることでこの件は落着し、また正式に近衛兵の護衛がついたことで今度は余裕を持って再び王都までの帰路についた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そのころ王都内では・・・。


 「おい、そっちへ行ったぞ」

 「逃がすな、捕まえろ」


 物騒な会話と共にバタバタと走り抜けていく足音の正体は、俺を刺した不良のリーダーとノッポとデブだった。

 一方、追手をやり過ごし、暗がりの物影から辺りを警戒しながら出てきたのはサスだった。

 サスは物陰から物陰へ素早く移動して隠れると合図を送る。するとサスのいた物陰からシュンとミーナが続いて飛び出して同じく物陰へと移動し、再びサスを中心に暗がりに溶け込むように姿を消した。

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