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サタニズム教

 ―パシャパシャ―


 突然、洞窟の奥の暗がりから水を踏む複数の足音が近づいてくる。


 「誰だ!」


 クリスは己が問いに返答がないまま足音が近づくので、相手は敵だと判断して庇うようにリサの前に立つと、剣の鯉口を切り盾を構えた。リサの横にはティナが駆け寄り添っている。

 息を殺して様子を窺っていると、突然、洞窟の陰からローブを纏い、短剣とバックラーを装備した怪しげな人物が三人、同時にリサ目掛けて襲い掛かってきた。


 「ガァッ!死ね」


 三人同時に飛び掛かり、振りかぶられた凶刃がリサ目掛けて振り下ろされる。


 「させるか!」


 そう言ってクリスが前に出る。


 ―ズバッ―

 ―ガキン―

 ―ドカッ―


 クリスが剣を抜いたかと思うと敵の目の前を閃光が走り、その次の瞬間、切り口鮮やかに一人目の不審者の首が飛んだ。二人目の不審者に対して、クリスは敵の短剣を盾で弾くとそのまま盾で殴りつけた。横殴りの盾は敵の横っ面に直撃する。その顔は歪み、口からは折れたであろう歯と血飛沫が飛び出した。

 三人目はクリスの横を擦り抜けそうだったが、クリスはとっさの判断で敵の足を引っかけて転倒させた。


 強えぇぇ、俺は内心そう思っていた。さすがに近衛兵長だけのことはある。三人の不審者をアッと言う間に制圧しやがった。

 突然の出来事に、俺は正直いってどうすればいいかわからず、剣を持ったままオロオロするばかりだったのに。


 「勇人!そのスッ転んだヤツを捕まえろ!決して逃がすな」

 「あ、ああ、わかった」


 クリスに言われ、我に返った俺は慌てて三人目の不審者を取り押さえにかかる。不審者は必死に抵抗するが、なぜか俺は子供を取り押さえているような感覚に陥った。

 確かに、目の前の不審者は大人にしか見えないのに・・・。なんでこんなに弱いのだろう・・・.。


 俺がなんとか取り合さえている間にクリスもやって来た。それを見た不審者は諦めたのか、突然抵抗をやめる。


 ―カリッ―


 不審者の口からなにやら噛み砕く音が聞こえた。


 「ヤバイ、口を押えろ!飲み込ませるな」


 クリスが慌てて叫ぶ。俺はなにが起きているのか全く分からなかった。

 不審者は白目をむくと、やがて口から血を滴らせながら絶命した。


 「しまった、これで黒幕を洗い出せなくなったぞ・・・クソッ」


 クリスは残念そうに足元の水を蹴る。


 「とにかく、なにか身元を洗い出せるものがないか遺体を調べましょう」


 リサに言われるままに俺たちは三人の不審者の遺体を調べた。


 「なにも持ってないですニャァ」

 「なんでもいい、なにか手掛かりになるものは・・・」


 ティナとクリスが呟きながら遺体から衣服を剥がす。


 「あ、これは」

 「ニャァ」


 ティナとクリスがなにかを見つけたらしく、リサが駆け寄る。


 「なにか見つかった?」

 「リサ、これを」


 クリスが指し示した不審者の遺体の胸には、ある紋が刻印されていた。それは魔法陣の中にヤギの頭が描かれている禍々しいものだ。

 リサの顔もだが、ティナもクリスも一様に驚いている。


 「この紋がどうかしたのか?」


 理由のわからない俺はリサに尋ねた。


 「これはサタニズム教の紋ね・・・」

 「サタニズムって?」

 「わかりやすく言えば悪魔崇拝の教団よ」


 悪魔の概念ってこの世界にもあるのか。俺は密かにそう思った。


 「サタニズム教は穢悪あいあく魔法を得意とする教団ニャのですニャ」

 「私やティナを奴隷にしようとしたのもこいつらだ。サタニア王国が滅んだと同時に消滅したと思ったのに」

 「まだ残党が残っていたのね」

 「でも、なんでリサを襲って来たんだ?」

 「そりゃあ、サタニズム教を国教としていたサタニア王国を滅ぼしたのは我がフランツ王国だからな。その後嗣である姫殿下が狙われてもおかしくはない」

 「そしたらその残党がまだこの奥に残っているかもしれない。調べるか?」


 俺はそう提案したが、リサが即座に却下した。


 「いいえ、必要以上の危険を冒すことはないわ。とにかく、用事が済んだ以上、さっさとここを離れましょう。これ以上ここにいるのは危険だわ」


 リサの意見に従い、俺たちはすぐに洞窟を逃げ出し、一旦ココナの宿屋に向かうことになった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺たちが宿屋に入るころ、近衛隊長のロイスが部下より受けた報告をリサの父親である王と女官長のマイヤ女史に伝えていた。


 「国王陛下にご報告申し上げます」

 「おお、待ちかねておった。して伯、いかがであったか」

 「姫殿下が洞窟内を探索する前に、姫殿下のお命を狙って洞窟の奥に潜んでいた賊どもを殲滅したとの部下からの報告です」

 「ふむ」

 「ただ、取り逃がした一部の賊どもが姫殿下を襲撃したとのこと」

 「なんと。してエリザベートはいかがしたのか」

 「幸い、姫殿下の護衛として付き従っていた近衛兵長のクリスが、その者たちを全員倒したようです」

 「左様か。彼の者は腕が立つゆえにエリザベートの護衛の任に宛てたが、やりおったか、うむ」


 王は安堵し満足そうな顔をしていた。


 「して、エリザベートは無事にこちらへ戻ってきておるのか?」

 「はい。例の従者サーバントの処置を施し終わり、戻られるよしにて。部下には姫殿下が無事に王都に到着するまで引き続き護衛の任にあたるように指示を出しております」

 「そうか、ご苦労であった。下がってよろしい」

 「いえ、まだ下がってはなりませんわ」


 王はホッとしたようにロイス伯に下がるよう命じたがマイヤ女史が引き留めた。


 「女官長、まだなにかあるのか?」

 「はい、姫殿下を襲撃した賊どもの背後関係を調べる必要がございます」

 「おお、そうだった・・・それを忘れておった」

 「ロイス伯、引き続きご報告をお願いいたします」


 マイヤ女史に促されたロイス伯は引き続き報告をした。


 「襲撃者はサタニズム教の紋をつけておりました」

 「なんと、サタニア王国の残党どもの仕業か」

 「その線は濃厚ではありますが、背後関係を吐かせるために生け捕りにした賊全てが毒を飲んで死んだため、詳しいことはわかっておりません」

 「ううむ・・忌々しいヤツどもめ」

 「つきましては、今回の件を専門に調査する部署を設置することを進言いたします」

 「ふむ・・・」

 「それと、もう一つ陛下にお願いしたい儀が」

 「なんなりと申してみよ」

 「賊どもの動きが気になりますゆえ、できますれば直接姫殿下の護衛にあたりたく・・・」

 「女官長はどう思うか?」

 「私もロイス伯の意見に賛成でございます」

 「わかった、詳細はすべてロイス伯に任す」

 「御意」

 「しかし、エリザベートのワガママのおかげで我が国に潜む不穏分子がみつかるとは思いもせなんだ」

 「これも怪我の功名というものでしょう」


 隣で聞いていたマイヤ女史がそう言った。


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