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市中のエリザベート

出発しゅっぱーつ


 リサの軽快な掛け声に合わせてティナが馬車を出発させる。

 ガラガラ音をさせて進む馬車は、まずは俺がシュンたちと出会った市場へと向かっていく。


 王都内は王宮から至るところまで石畳で舗装された道路が続いている。その辺りのインフラはちゃんと整っているらしい。

 市場への道のりは俺が王宮を抜け出したときに辿った道だが、手探りで彷徨っていたときとは見える景色が違っていた。あのときは路傍に咲くタンポポに似た花さえ目に映らなかった。


 ガラガラとうるさい音を立てて進む馬車の中からボーッと景色を眺める俺にリサが声をかける。


 「なにを見ているの?勇人君」

 「ん?」

 「なにか面白いものでもみつかった?」

 「ああ、日本・・・いや俺のいた世界と同じような花が咲くんだなぁ・・・と」

 「やっと私が勇人君を召喚したって信じてくれたの?」

 「さすがに信じざるを得ないよなぁ」


 俺は頭のうしろで手を組むと、荷馬車の側アオリに寄りかかった。


 「でも、このままじゃ俺は足手まといなんだよな・・・」

 「例の洞窟で勇人君に魔力補正がかかるようになるよ。きっと・・・」


 リサはそう言って俺の肩に静かに手を置いた。



 ―ワイワイガヤガヤ―


 やがて周囲の様子が活気に満ちた空気に変わる。雰囲気からして市場到着したことを窺わせた。


 「リサ姉ちゃん、この辺で降りるから馬車を止めてくれないか」


 シュンの言葉に御者を務めているティナが市場の入口手前で馬車を止めた。


 「ここでいいの?」

 「ああ、ここでいいよ。ワザワザ送ってくれてありがとう。兄ちゃんも元気でな」

 「お前たちのお陰で助けられたよ。ありがとう」


 そう言って俺はシュンと握手を交わす。


 「シュン君ちょっと待って、これ持ってって」

 「なんだい?」


 リサは自分の首からペンダントを外すとシュンに手渡した。


 「このペンダントを王宮の守衛に見せれば、私とコンタクトを取れるから、なにか困ったことがあったら来るといいわ」

 「わかった、サンキューなリサ姉ちゃん」

 「バイバイ、姉ちゃんたち」


 シュンはそう言ってリサのペンダントを首にかけるとサスやミーナを連れて人ゴミの中に消えていく。ミーナは見えなくなるまで最後まで手を振っていた。

 消えゆくシュンたちを見送ったリサは少し寂しそうだったが、気を取り直したように声を張り上げた。


 「よし!・・・じゃあ気を取り直して買い出しよ!」


 そう言ってリサは俺の腕を取って颯爽と歩き出す。リサと俺のうしろにはローブを深く被って耳を隠したティナとクリスが適度な距離を保ったままついてくる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 市場を歩いていると、リサに気がついた人々が次々と声をかけてくる。


 「あら、お姉さんお久しぶり」


 恰幅のいい果物屋の中年の女性が元気よく挨拶するとリサも返事をした。


 「こんにちは、おばさん。今日はなにかお勧めはある?」

 「うちのはどれだってお勧めサ」


 そう言われてリサは露店の前に並べられた果物を見て回る。


 「これってどんな味がするの?」

 「食べてみるかい?」


 リサは差し出されたひとかけらの果物を口に含んで味をみる。


 「!おいひぃ」


 リサは目をパチクリしながら驚いた。


 「だろう?」


 果物屋のおばちゃんはニカッっと勝ち誇ったように笑う。


 「勇人君も食べてみる?ほらアーンして」


 リサは屈託なく俺に果物を差し出してくる。


 「イヤ、俺はいいよ・・・」


 俺は少し照れもあってリサの差し出す果物を断った。


 「あら、美味しいのに。食べず嫌いはダメよ?ねぇおばさん」

 「人前でイチャイチャするからお兄さんは照れてるのよ」

 「あら、そんなんじゃないわ、ねぇ勇人君?」

 「そんなに照れることないじゃないか。初々しいねぇ。ハハハハハ」


 おばちゃんの豪快な笑い声に押されてる俺の横から、隣の露店のおかみさんも声をかける。


 「お姉さん、こっちのデザートも味を見ておくれよ」

 「わぁ、こっちも美味そう。二つとも、馬車に積んでおいてもらえる?」

 「はい、まいどありがとう。用意して積んでおくわね」


 リサが露店のおかみさんとの会話に夢中になっているあいだ、俺は肉屋のおっちゃんの店を探しに行こうと思いリサに声をかける。


 「すまん、ちょっと寄りたいところがあるので行ってきてもいいかな?」

 「どこへ行くの?」

 「初めてここへ来たときに最初に声をかけてくれた肉屋のおっちゃんのところ」

 「じゃあ、私も一緒に行くわ。おばさん、また今度ね」

 「ハイよ、次もまたいいものを用意して待ってるからね」

 「期待してるわ」

 「ハハハハハ」


 リサは露天商のおばちゃんに挨拶してそのまま俺の後ろをついて歩く。



 肉屋のおっちゃんは相変わらず串焼肉を売っていて、俺が見かけたとき、たまたま他の客に焼き肉を手渡しているところだった。


 「まいどありぃ」


 焼肉を買った客を送り出すおっちゃんのうしろから俺は声をかけた。


 「おっちゃん」


 俺の声に反応して振り向くおっちゃん。


 「おー、あんときの兄ちゃんか。あれから見かけねぇから、心配してたぜ」

 「心配してくれてたのか」

 「そりゃぁまあな。ところで今日も焼肉買っていくかい?」

 「ああ、四人分くれ」

 「あれ?もしかしてそこの嬢ちゃんたちと知り合いなのか?」

 「あれ?おっちゃんとも知り合い?」

 「知り合いもなにも、嬢ちゃんはこの市場じゃちょっとしたお得意様だぜ」

 「そうなのか」


 そう驚く俺のうしろからリサはおっちゃんに挨拶をした。


 「こんにちは、おじさん」


 おっちゃんによると、リサは市場で薦められた商品は気前良く買っていくため、市場ではちょっと有名ですこぶる人気があるとのことだった。


 「この前の肉はどうだった?嬢ちゃん」

 「おじさんのお薦めだけあって、とても美味しかったわ」

 「だろう。で今日もなにか買っていくかい?」


 リサは少し考えてから言った。


 「うーん、今日はこれから少し遠出なのであまり生モノを持ち歩きたくないのよね」

 「だったらこの燻製肉なんかはどうだい」

 「あ、それだったらいいわね。じゃあ、それを頂戴」

 「ほい、まいどー」

 「じゃあ、勇人君。燻製肉を馬車までお願いね」

 「ええ、俺?」

 「男の子はウダウダ文句を言わないの」


 おっちゃんは俺とリサの会話を聞きながら燻製肉を切り分ける。


 「ほれ、ちゃんと運んでやりなよ」


 そう言っておっちゃんに手渡された肉の塊はズシリと重かった。

 その後も、リサは市場を廻って目ぼしいものを適当に買い入れ終わると、俺たちはようやく王都を離れるに至った。

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