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強行

 翌日、リサは俺の部屋へ来て、アフタヌーンティーがてら今後の打ち合わせをすることにした。


 「で・・・結局、王様から許可はもらえなかった・・・と」


 俺はオセロゲームを興じるテーブルの前の椅子の上で、腕組みをしていた。


 「ええ、マイヤ女官長にみごとに国王陛下を説得されてしまったわ」


 リサは両手を上にして、お手上げのポーズを取る。

 そりゃそうだろうな・・・。誰がどう聞いたってマイヤ女史の意見が正く聞こえるからな。

 だが、このときの俺はリサの優しさには気がついていなかった。それは昨日、マイヤ女史が王に対して俺を処刑するよう進言したことについてだ。なによりも王も賛同しており、リサが強く反対しなければ俺は処刑されていたかもしれないのだ。そのことをリサは俺に対し、あえて伏せていた。


 「それでこのあと、どうされるんですか?」


 紅茶を啜りながらクリスが訊いた。


 「どうするもないわ・・・他に勇人君を強くする方法が見つからないんだもの・・・強行するわ」


 マイヤ女史の説得のときも思ったが、このお姫様は、意外となにも考えてないのかもしれない。


 「表向きは王都へのお忍びということで・・決行は数日後ね」


 こんな話が出て数日後って、確実に気取られるだろう・・・。マイヤ女史が優秀だっていうなら尚更だ。


 「なあ姉ちゃん」


 シュンが手を挙げる。


 「なに?シュン君」

 「俺たち、そろそろここを出て行こうと思ってるんだけど」

 「え?どうしたの急に。なにかイヤなことでもあった?」

 

 リサは少し驚いてシュンに尋ねた。


 「別にイヤとかじゃないんだけど、やっぱ王宮ここの礼儀作法とかって俺らに合わないんだよな」


 まあそうだよな、俺だってそんなガラじゃないけど、シュンたちじゃ尚更窮屈だろう・・・。


 「で、三人で相談した結果、王宮ここを出て行こうかって、さ」


 リサはさも残念そうな顔をしていた。


 「そう、それは残念ね・・・ところで女官長には伝えてあるの?」

 「昨日話したよ。そしたらリサ姉ちゃんに了解を得なさいって・・さ」

 「そっか、女官長も内心ガッカリしてるかもしれないわね。特にミーナちゃんを気に入ってたみたいだし」


 カップを両手で持って「フーフー」しながら紅茶を飲んでいたミーナが言う。


 「ミーナもマイヤさん嫌いじゃないよ。・・・でも」

 「でも?」


リサの疑問にシュンが答える。


 「結構、細かいことにうるさいんだよなぁ、あの歩く小言・・・は」

 「歩く小言?」


 シュンの言葉に首をかしげるリサにミーナが言った。


 「歩く小言って・・・マイヤさんのことだよ。シュンがそうアダ名つけて呼んでるの」


 ―ブーッ―


 ミーナがそう言った瞬間、ティナとクリスが口に含んでいた紅茶を噴き出した。


 「うあっ、汚ねぇ!」


 クリスの噴き出した紅茶が俺に飛んできて、俺は思わず声を上げた。


 「す、すまん・・・勇人・・・ワザとじゃないんだ」

 「お前ら・・・・シュンのつけたマイヤさんのアダ名に笑ったろ?」

 「わ、笑ってニャい・・・」

 「ホントか・・?」

 「しつこいぞ」

 「ちょっとお茶を淹れニャおしてきますニャ」


 ティナはそのまま部屋を出て行く。たぶん笑いに行ったのだろうと思われた。クリスはクリスで自分の太腿を思い切りツネっていたが、さすがの俺もそこまでは突っ込まなかった。

 そんな二人を横目に、リサはシュンに話しかける。


 「では、私たちが洞窟に出かける日に馬車で送ってあげるわ。それでいい?」

 「感謝するぜ、リサ姉ちゃん」



 数日後、王都へのお忍びということで、朝早くから俺たち七名は目立たない服装に着替えて、ホロのついた二頭立ての荷馬車に乗り込む準備をしていた。

 御者は猫耳メイドのティナと近衛兵長のクリスの双方が交代で受け持つ。途中、練習も兼ねて俺も御者をする予定だ。

 とりあえず、市場へ寄ってシュンたち三人を馬車から降ろしたあと、食料を買い込む予定であるという。万一に備え武器防具の類は積んであるものの、食料まで城内で積み込むと遠出がバレてしまうためだ。


 その俺たちの出発の様子は城内、三階の窓辺からマイヤ女史が見ていた。


 「なにか、面白いものでも見えますか?」


 マイヤ女史が振り返ると、部屋の入口にミハエルが立っている。


 「これは殿下・・・」


 マイヤ女史は膝を曲げ恭しく礼をとる。


 「女官長ほどのお人が覗き見をされるほど興味を持たれるとは・・・」


 ミハエルは窓に近づいて外を見下ろすと、リサ、俺、ミーナの順に視線を移す。


 「そういえば、魔法学校のオイゲン校長がベタ褒めしている子供がいると聞きましたが、あの女の子のことですかね・・・」


 ミハエルはミーナをジッと凝視してマイヤ女史に尋ねる。


 「ええ、しかし・・・ミハエル殿下がご興味を抱かれるほどのものではないと思われますわ」

 「はははは・・女官長・・・。別に私はあの子供を取って食おうと言ってるわけじゃありませんよ。ただ、私に足りないものを補完してくれる人材が欲しいだけです。ご存じの通り、私にはエリザベートほどの魔力がありません。魔力補正が少ない分、より強い従者サーバント)が必要なのです。聞くところによれば、私のような力の無い魔術師でも、強い魔力を持った者の補助があれば強力な従者サーバントを召喚できるとか」

 「それでしたら、殿下の周りには数多の優秀な人材がおられると存じますが・・」

 「女官長はじつに口がお上手だ・・・。庶子であるこの私に付き従う人間など、所詮うわべだけにすぎませんよ。それに・・・オイゲン校長の話を聞く限りでは、彼らはあの少女とは比べ物になりませんよ」


 ミハエルはそう言い残すと部屋から出て行った。

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