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魔法触媒

クリスの一件から数日後、昼食を終えた俺はシュンたちと一緒にオセロゲームを楽しんでいた。

 この王宮内に娯楽というものがあまりなく・・・いや、正確には歌や踊りや音楽や演劇、舞踏会、絵画などの芸術、チェスに似たようなものなどはある。だが、この部屋の一室で楽しめるモノといえばせいぜい楽器を弾いたり、絵を描いたり、チェスを楽しむことくらいだろう。


 しかし聴いたり観たりするのはともかく、音楽を奏でたり絵を描くことに興味がないし、チェスに至っては俺自身がルールを知らない。したがって、そのような状況の中でいかに暇つぶしができるかを考えあぐねた結果が日本のオセロゲームだった。


 作り方は正方形の板に升目を書けばオセロ版が出来上がるし、コマに至っては板を丸く切って両面を白と黒に油性絵の具で塗り分ければそれで出来上がりだ。

 このゲームの良いところはルールが至ってシンプルであることだ。お互いのコマを交互に置いて、相手のコマを挟んだら裏返す。最後に自分のコマが多ければ勝ちなのである。説明がとても簡単で、ミーナでさえ理解して、皆んなで一緒に楽しめるというのが最大の利点だった。


 俺がオセロゲームを作ってから、時間ができるとシュンたち三人が遊びに来るようになったし、メイドのティナでさえ興味を持って遊び始めた。

 いまやこの部屋でちょっとした流行りと言えるほど子供たちがのめりこんでいた。


 そんな中、突然リサがクリスを伴ってやってきた。



 ―コンコン―


 「リサです。入ってもいい?」


 言葉使いからマイヤさんがいないことがすぐに推測できた。


 ティナが俺の目を見るので頷く。


 「どうぞですニャ」


 ティナが入室を許可すると、クリスがドアを開けてリサが、続いてクリスが入ってくる。

 子供たちはオセロの手を止めてリサを注視していた。


 「お楽しみのところごめんね」


 リサはオセロを見ると、自分がゲームを中断させてしまったと考えて謝った。

 ミーナは自分からリサとクリスに近づいて挨拶をする。


 「リサお姉ちゃん、クリスお姉ちゃん、こんにちは」

 「こんにちはミーナちゃん・・・。いつの間にクリスと仲良くなったのかしら?」

 「えーとね、この前シュンとクリスお姉ちゃんが勝負?っていうのをしてから・・・?」


 ミーナは屈託なく答えたが、クリスの顔が青ざめていた・・・。


 「どういうことか、お姉ちゃんにくわしく教えてもらってもいい?」


 リサの口調は優しく、顔は微笑んでいるのだが、明らかに怒っているいようなオーラを発している。

 ミーナはこの前、クリスが勝負を挑んてきた話をミーナ自身が伝えうる言葉で話しだした。


 ミーナがリサに聞かれたことを話している隙に、クリスはソロリ、ソロリとゆっくり後ずさりしていく・・・。


 「クリス近衛兵長・・・どこへ行かれるおつもりかしら?」


 リサは怒っているときは口調が丁寧になるらしい・・・下手に怒鳴られるより怖い気がする・・・。


 「あ、ちょっと忘れ物を取りに・・・」

 「なにをお忘れかしら?」

 「えと、剣を・・・」

 「その腰に吊り下げられているものはなにかしら?」

 「あ、ありましたね。ハハハ・・・。じつは陛下に用事を仰せつかっておりまして・・・」

 「あなたは陛下より私の護衛を仰せつかって私に同行しているのではなかったかしら?」

 「そう、でしたね・・・」

 「もう、怒らないのでそこでじっとしていなさい」


 クリスはこの場を逃げ出すことに失敗して、リサの後ろに立ち続けた。


 「ふぅ・・・」


 ミーナの説明が終わるとリサは溜息を洩らす。そして、こめかみに指をあてて眉を顰ませた。それが彼女の美貌を損なうどころか、却って際立たせる。


 「まったく・・・クリス、あなたは独断で動きすぎよ。勇人君のことは私がちゃんと解決方法を調べているのだから早とちりしないで」

 「ということは勇人の魔力補正について解決の目途がついたんですか?」

 「そのことで勇人君に説明しに来たのよ」

 「よかったな。勇人」


 クリスはまるで我がことのように喜んだ。


 「魔力補正がかからない、その原因についてはまだ定かではないのだけど、問題が解決、いえ、ある適度解消できそうな目途がついたので勇人君にも協力してもらいたいのよ」

 「なにを協力すればいいんだ?」

 「単刀直入に言うわね。ある洞窟に私と同行してほしいのよ」

 「理由は?」

 「その洞窟の奥には水晶があるんだけど、その水晶を触媒として私の魔力を供給できると思うの」

 「具体的にはどうやるんだ?」


 リサは事細かに俺に説明をしてくれた。要は触媒とした水晶をアンテナ代わりにして補正用の魔力を受信させるものだと思ってくれればいい。ただ、この方法でも本来の半分しか魔力補正がかからないということだ。


 「話は大体わかった。が、お姫様がわざわざ行く必要があるのか?誰かに取りに行かせればいいと思うが」

 「私と勇人君が行かないと意味がないの。水晶の魔力は洞窟から出してしまうと一日と持たないから、その場で水晶の中にある微かな魔力を私の魔術で集めて勇人君に融合させなければいけないわ」

 「そうか」

 「問題は、洞窟が王都の外だということね」

 「なにが問題なんだ?」

 「王都の外へ出るには国王陛下の許可がいるのよ」

 「ところで姫様・・・」


 ティナがおそるおそる尋ねる。


 「なにティナ?」

 「今回も私は同行するんですかニャ?」

 「そのつもりだけど」

 「そうすると、もう一つ厄介ニャことがありますニャ」

 「なあに?」

 「私の直属の上司であるマイヤ女官長が反対すると思われますニャ」


 マイヤ女史の説得は確かに難しそうだ・・・。俺は心の中でそう思った。


 「大丈夫、女官長には私から許可をもらえるように説得するわ」


 そしてリサは俺の部屋を後にしてマイヤ女史の元へと向かった。だが俺にはリサになにか根拠があってマイヤ女史の説得に当たると口にしたとは思えなかった。つまりは行き当たりばったりではないかと思った。



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