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ミーナの魔法

午後をまわって、ティナが俺の洗濯物を取りまとめて部屋を出て行くのとほぼ同時に、シュンたち三人が俺の部屋へと入ってきた。


 「兄ちゃん」

 「よう・・・勉強はどうだ?」

 「相変わらずかな・・読み書き、数学、魔法に礼儀作法・・疲れるよ」


 数学や礼儀作法はともかく、読み書きと魔法に関することは教えてもらったほうがいいかもしれないな・・そう考えた時点で俺はここで生きていくことを決心していたのかもしれない。


 「俺も勉強を教えてもらおうかな?」

 「マジで言ってるのか?兄ちゃん」

 「マジさ」

 「なんでまた・・・?」

 「数学や礼儀作法はともかく読み書きや魔法に関することは教わったほうがいいかと思ってな。特にここは魔法が大きなアドバンテージを持ちそうだし」

 「でもよー、魔法なんて俺らみたいな庶民はよほど素質があるヤツしか使えないぜ?」

 「使える、使えないはこの際関係ないさ。知識としてあればそれで十分だ」

 「そうか・・・魔法といえば、オイゲンとかいう魔法学校の偉い爺さんがミーナをスッゲー褒めてたよ」

 「そうなのか?」

 「よくわかんねーけど、魔法陣を発動させると二重になるとかなんとか」


 そういえばティナがリサの魔法陣は二重になるとか言っていたな・・・。


 「ミーナの魔法ちょっとだけ見て見るかい?」

 「いいのか?」

 「ああ、ミーナもいいだろ?」

 「うん、でもどこでやるの?」

 「んじゃ中庭に行こーぜ」


 シュンの意見にしたがい、四人で中庭の噴水広場で向かうと、そこでミーナの実演魔法を見学することになった。


 俺は花壇の端に腰かけて静かにミーナを見ていた。


 「じゃあ、ミーナ、噴水に向かって魔法をかけてみてくれ」

 「わかった」


 ミーナはシュンに言われるまま、噴水を魔法の対象にする。広場の石畳の上に両足を綺麗にそろえて真っ直ぐに立つと、両眼を閉じ、両手を噴水に向けて呪文を唱え始める。

 この所作は、まだ魔法を習いたての初心者に行わせる基本的動作で、慣れてくれば自然と省略されることを俺はこのときは知らなかった。


 スタトゥス・スルスム 魔法陣起動スタートアップ


 ―フォン―


 ミーナがそう唱えると同時に音が鳴り、ミーナの足元に青白く光る魔法陣が出現する。そして、その魔法陣がミーナの膝まで上ると上下に別れて、右回りと左回りに回転し始めた。


 ドーナー・ノービース・グラキエース


 さらにミーナが詠唱を続けると、青白く輝く円形の足元の輪から魔力風吹き出し始め、ミーナのドレスと髪を靡かせる。そして徐々にミーナを中心に急速に冷気が漂う。まるでミーナという業務用の冷凍庫が開け放たれているように肌寒い。


 凍結フローズン


 ミーナがそう叫び、同時に目を見開くと、瞬時に魔法が発動した。


 ―パキッ、ぺキッ―


 ミーナの足元が音をたてながら噴水に向かって白く氷結していく。やがて、それが噴水まで到達すると、噴水の水面が外縁付近から徐々に白く凍る。噴水より出でる水飛沫には細かい氷の粒が混ざり始め、水吹き出し口に付着した氷の塊がだんだんと大きくなっていく。やがて、それが大きな氷柱になると噴水自体が完全に凍りついた。

 俺は、初めて魔法というものを目の当たりにして終始無言だった・・・。

 呆けている俺の横からシュンが肩を叩く。それを合図に俺はハッと我に返った。


 「ミーナの魔法どうだった?兄ちゃん」

 「あ、ああ・・・魔法なんて初めて見たから正直なんと言っていいかわからん。ただ・・・」

 「ただ?」

 「凄いとしか、言いようがない」


 俺がそう言うと、いつの間にかミーナが俺の目の前に立ってニコニコしていた。


 「ミーナ、凄い?」

 「ああ、凄い」

 「えへへへへ」


 そんな話をしている俺に誰かが話し掛けてきた。


 「おい、貴様!」


 振り向くと、そこには昨日の近衛兵長が二振りの剣を携えて立っていた。確か、クリスといったか・・・。それにしても人のことを貴様呼ばわりするとは・・・俺はいささか気分を害していた。

 それはシュンも同じだったようで、クリスに食って掛かる。


 「お前はクリスとかいう近衛兵長だろ?兄ちゃんに向かって貴様とか偉そうだな」

 「お前は、姫殿下が連れてきた乞食か・・・」


 クリスは一瞥してシュンに言うが、乞食と言われたシュンはカチンときたらしい。


 「この野郎!俺は乞食じゃねぇぞ、謝れ!」

 「ふん、子供に用はない・・・どけっ」


 クリスはシュンを突き飛ばして俺の目の前に立つと、携えた剣の一振りを俺の前に投げ置いた。そして、もう一つの剣をおもむろに鞘から引き抜いて俺に刃を向ける。


 「おい、貴様、この私と勝負しろ!」


 あまりにも乱暴で唐突な申し入れだ・・・。礼儀作法にうるさいマイヤ女史が見ていたらこの近衛兵長は相当絞られているのではないだろうか・・・そんなことを考えつつ俺はどうしてこいつに勝負を挑まれるのか理解に苦しんだ。

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