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マイヤ女史

―コンコン―


 シュンたちが開け放ったままにしてある部屋のドアをティナがノックする。


 「勇人様、入ってもよろしいでしょうかニャ?」

 「ああ、いいよ」


 俺は勝手に入ればいいのにと思ったが、ティナが畏まって言うので適当に許可した。


 「失礼致しますニャ。姫様がお見えにニャっておられますニャ」


 ティナがそう言うとドアの陰からリサが、さらにうしろからお小言おばさんが入ってくる。


 「ゲッ・・・」


 お小言おばさんの顔を見たサスは思わずそう言葉を漏らし、ミーナに至ってはベッドの下に隠れた。

 二人とも相当お小言おばさん苦手らしいことは今の態度を見てよく理解できた。そうなってくるとシュンの反応も気になるが、特に動じることもなく淡々としているように見える。


 「勇人様、お体のお加減はもうよろしいですか?」


 リサは俺のベッドの近くまで来るとそう尋ねてきた。


 「特に痛いところもないし、大丈夫だと思うよ」


 俺がそう答えるとリサは少しだけなにかを言いあぐねてから、お小言おばさんに向かって言う。


 「マイヤ女官長、少し勇人さんと二人きりにしていただきたいのですが」


 どうやらお小言おばさんはマイヤという名前らしい。そのお小言おばさん・・・もとい・・・マイヤ女史は少し驚いた。


 「姫殿下を殿方と二人きりになどとんでもありません。なにかあったらどうなさいます」


 なんか酷い言われようの気がするが、気持ちはわからなくもない。こんなどこの馬の骨ともわからないような男と王位継承者、ましてやお姫様を二人きりにできるほうがどうかしている。まして女官長という立場なら絶対に認められないだろう。

 マイヤ女史の言葉に溜息を洩らしながらリサは言った。


 「では、ドアの外に近衛兵長を待機させておくようにします」

 「姫殿下!」

 「マイヤ女官長・・・これは命令ですよ」

 「わかりました・・・」


 命令と言われてマイヤ女史は渋々引き下がらざるを得なくなった。


 「ティナ・・・クリス近衛兵長を呼んできて頂戴」

 「わかりましたニャ」



 ティナが部屋を出てしばらく経って金髪ロングストレートの耳長女エルフが現れた。


 「クリス近衛兵長、ただいま罷り越しました」


 女エルフはドアの外に立ってリサに敬礼する。


 「苦労様です。さっそくですが、私の護衛としてドアの外で待機しててください」

 「了解いたしました。姫殿下の護衛として待機いたします」


 「これで心配ないでしょ?」


 護衛が配置につくとリサはマイヤ女史に振り向きそう言った。

 マイヤ女史としては、それで一応の納得がいったのか、


 「では、私はこれで下がらせていただきます」


 そう言って引き下がった。


 「ではシュン殿、サス殿、ミーナ殿、姫殿下は大切なお話があるとのこと、お部屋にお戻りになられますように」


 マイヤ女史はシュンたちにも部屋に戻るように促した。


 「えー、あの部屋でまた勉強かよ・・・」


 シュンは頭の上で両手を組みながら愚痴を零す。

 ミーナはベッドの下で身を隠したままだ。よほど勉強が嫌らしい。


 「読み書きや礼儀作法くらいは覚えませんと、将来王宮でお仕えすることができませんよ。・・・特にミーナ殿、あなたは淑女レディなのですから、ベッドの下に隠れるなどというみっともない真似はおよしなさい。よろしいですね?」

 「べつに王宮で働かせて欲しいなんて一言も言ってないぜ、オバサン・・・」


 シュンのオバサンという言葉に反応して、マイヤ女史の顔が少し引きつったように見えた。


 「オバサン・・・私はオバサンという名ではありません、ちゃんと正しくマイヤ、もしくは女官長とお呼びくださいまし。シュン殿」


 そう言うとマイヤ女史がシュンの耳を引っ張って連れ出そうとする。


 「イタタタ・・痛てぇよ!このババア!」

 「人をババア呼ばわりしてはいけませんよ・・・」


 そう言いながらマイヤさんはシュンの耳をさらに強く引っ張る。


 「痛テテテテテ・・・マイヤ・・・さん・・・」


 あの骨董屋の親父を手玉に取ったシュンが軽くあしらわれるのを目の当たりにして、俺はマイヤ女史を少し怖い人だと思った。


 「お姉ちゃん・・・」

 「どうしたの?ミーナちゃん」

 「ここに居ちゃダメなの?」


 ミーナは泣きそうな顔でリサに尋ねた。


 「ごめんね、このお兄ちゃんとちょっと二人でお話したいのよ・・その代わりあのオバサンに話をつけてあげるわ」


 リサにオバサンと言われたマイヤ女史は鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くした。


 「オバサン・・姫殿下!」

 「ごめんなさいマイヤ女官長・・・この三人を私の部屋に連れて行ってください。それで、今日はもうゆっくり遊ばせてあげられないかしら」

 「それはご命令ですか?姫殿下」

 「いいえ、これは、私の私的なお願いです」


 「ふぅ・・・」


 マイヤ女史は一瞬溜息をつくとシュンの耳を掴んだ手を離した。


 「わかりました・・・。お勉強を無理強いしたところで却って身に付きますまい。今日は姫殿下のお部屋で大人しくしていただきましょう」


 マイヤ女史がそう言うとミーナがマイヤ女史に抱きついた。


 「ありがとう・・・マイヤ・・・さん」


 そう言うミーナにほだされたのか、マイヤ女史の顔は少しほころんで見えた。


 「ではシュン殿、サス殿もご一緒に姫殿下のお部屋へお連れいたします」


 部屋を出る際にミーナが一瞬だけリサに抱きつく。


 「お姉ちゃん、ありがとう」


 そしてすぐにマイヤ女史に優しく手を引かれながら退室していった。

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