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ミーナのサーバント

 「う・・・・」


 俺はうなされていた。

 夢の中で、あのチンピラの凶刃によって俺は何度も何度も苛まれ続ける。

 なにもできない恐怖と怒りと憎しみと絶望の感情が絡み合った複雑な思い。


 「うをぉおおおおお」


 俺は夢の中でチンピラを殴り飛ばす。が、現実的にはベッドの上で仰臥ぎょうがしたまま振った拳が虚しく空を切ったところで目が覚めた・・・。


 「ハァハァ・・・」


 額や掌はビッショリと冷たい汗に濡れている。


 ここは・・・どこだ?


 見覚えのある部屋。そうだ・・・ここは王宮の俺の?部屋だ。


 確か、俺はあのチンピラに刺されて・・・。

 あの時の痛みと恐怖が俺の脳裏にフラッシュバックとして蘇える。

 背中から胸を抉られる激痛と不快感。そして失血により、急激に襲い来る眠気を迎え意識が飛んだこと。

 殺されたと思った・・・。その恐怖を思い出し躰が勝手に震えた。


 「はは・・・」


 俺は力なく自嘲気味に哂うと自分の拳を広げ、掌で自分の両目を塞いだ。


 涙が零れた・・・。


 無力だった・・・。召喚されたことが事実なら、俺には何か特別な力が授けられているのではないのか、心の奥では密かにそういった期待があった。

 だが、なにもできなかった・・・。心がすくんで逃げることしか考えられなかった。しかも逃げることさえできなかったのだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ―トントン―


 俺が物思いに耽っていると不意にドアがノックされた。


 「どうぞ」


 俺がそう言うと急にドアがガチャっと開き、ティナが驚いた顔で入ってきた。


 「勇人様・・・?」

 「おはよう・・ティナ」


 俺が起き上がって挨拶をするとティナは部屋を飛び出していった。


 「姫様、姫様」


 なんか、前にも見たような光景だ・・・。


 しばらくしてバタバタと騒がしく廊下を走ってくる複数の足音が近づいてくる。

 何事かと思っていると、ノックも無しにいきなりバンッという音とともに3人の子供たちが乱暴にドアを開けて入ってきた。


 「兄ちゃん」


 ライオンのタテガミのような金髪の少年が俺をそう呼んだ。


 「大丈夫か?兄ちゃん。・・・五日もずっと寝ていたから心配したぜ」

 「お前・・・シュンか?」

 「わからなかったのか?」

 「ああ・・すまん」


 正直言ってまったくわからなかった。あの汚い恰好をした浮浪児のシュンたち三人が奇麗に着飾った格好で現れたからだ。黒かった顔は白くなり、貴族の服とドレスを身に纏っている。馬子にも衣裳とはこのことだ。たまたま俺のことを兄ちゃんと呼ぶ人物がシュンとサスくらいしかこの世界での知り合いがいなかったので、推測ができたに過ぎない。となると、黒髪のショートボブの男の子はサスで、亜麻色のセミロングの少女は当然・・


 「ミーナ?だよな・・・?」

 「そうだよー・・・エイッ」


 ミーナは愛くるしい大きな瞳を細めて緩めた表情になると、ベッドの上に覆いかぶさるように飛び乗る。


 ―バフッ―


 「エヘヘヘ・・・フッカフカだぁ・・・気持ちいい」


 ベッドの上でふざけているミーナを横目にシュンが訊く。


 「兄ちゃん、身体の方はもう大丈夫なのか?」

 「ああ、大丈夫そうだ」

 「こっちは兄ちゃんが死ぬかと思って心配したぜ。幸いここのお姫様が助けてくれたけど、それがなかったら本当に死んでたぜ」

 「そうか」


 あとでエリザベートに礼を言わなければな・・・。


 「ところで、ここは城の中だよな?」

 「ああ、そうだよ」


 やっぱりここはあの城の部屋か・・・。


 「なんでお前たちここにいるんだ?」

 「あのお姫様が兄ちゃんを助けたあと、一緒にお城に来るか聞いてくれたんだよ。とりあえず兄ちゃんが心配だったからついてきたのさ」

 「ご飯も食べさせてもらえそうだったしネー」


 ミーナがそう言うとサスがミーナの頭をポカリと叩いた。


 「余計なこと言わないの」

 「痛ったー」


 ミーナは自分の頭をさすった。


 「ミーナはメシを食わせてもらえれば誰でもよさそうだな」


 シュンがそう言うと俺は力なく笑った・・少し顔が引きつっていたかもしれない。


 「正直言って、本当に兄ちゃんがお姫様に召喚されてたなんて驚いたよ」

 「信じていなかったのか?」


 そう言う俺だって未だに半信半疑なんだから、当たり前か・・・。


 「悪リィ、でもよ。ミーナの従者サーバントを見たろ?」

 「あのハヤブサか?」

 「そう」


 「ハヤブサじゃないもん。ハヤトって名前があるの」


 ミーナが口を挟んでくるが、シュンはかまわずミーナを手で横に追いやった。そのため、ミーナは唇を突き出したまま不機嫌顔になっている。


 「あのハヤトがどうかしたのか?」


 俺がハヤトと名前を使ったのでミーナは少し機嫌が直ったようだ。


「あのハヤブサは普通のハヤブサより強いから、てっきり従者サーバントって強いもんだと思ってたんだ。でも、兄ちゃんは、こう言っちゃなんだけどむしろ弱いからさ・・・」

「そこまでハッキリ言うことはないだろう」


  俺は少し文句を言った。


 「悪わりぃ、あのときミーナは強いって言うだけでうまく説明できてなかったけど、ホントに普通のハヤブサとは違うんだ」

 「ああ、そう言えばミーナがそんなことを言っていたな・・・」

 

 シュンの説明に俺は少なからず興味を抱いた。


 「具体的には?」

 「具体的にはスピードがものすごく速い。旋回も急上昇も急降下もだが普通のハヤブサの三倍はある」

 「ほう・・攻撃力とかもあるのか?」

 「あのハヤブサになんか持たせて攻撃させれば、的くらいなら簡単にぶち抜くぜ」

 「なるほど・・・ちょっと疑問なんだが」

 「なんだ?」

 「そんなに攻撃力があるなら、なんであのチンピラに絡まれたときに攻撃させなかったんだ?」


 俺がそう質問したとき、シュンをはじめ、サスもミーナも表情が曇った。俺は聞いてはいけないことを聞いたのか気になって訊いた。


 「どうかしたのか?」

 「いや、どうもしない。そもそも、あのハヤブサは街中じゃ本領を発揮できないのさ・・・」


 シュンはそう答えたがイマイチ説得力に欠けており、俺には言い訳にしか聞こえなかったので、俺の考えをシュンに伝えてみた。


 「本領を発揮できなかったにしても、あの時点で適当に攻撃させて邪魔くらいさせておけば、少なくともミーナはもっと楽に逃げられたと思うのだが・・俺の考え方は間違ってるか?」

 「ああ、確かにそうだな・・・兄ちゃんの言うとおりだ・・・今度からそうするよ・・・」

 「そうか・・・」


 シュンの歯切れが悪い。どうも俺にはそのことが心に引っかかる。しかし、これ以上質問しても逆効果だと思った俺は、あえてシュンを問い詰めることはしなかった。

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