見知らぬ部屋
はじめに・・
吸血姫の従者をご覧いただき誠にありがとうございます。
この小説につきまして、私なりにいろいろと面白いと思われる設定を考えて構成しました。
また、遅筆なため、チマチマと書き溜めたものがよくやくまとまりましたので、少しづつ投稿いたします。ストックが無くなった場合、更新が遅くなる可能性がありますが、その点を踏まえて楽しんでいただけると幸いです。
ここは・・・どこだろう?
目を覚ました俺は天井を見上げながら考えた。
確かに昨夜は自分の部屋で寝たはずで、今日から高校三年の新学期のはず・・・だった。
だが、いま俺がいる部屋の天井は遥かに高い位置にあり、そして電灯がない。
四方は石造りの壁面、吊り下げられたシャンデリアには蝋燭の炎が揺らめいており、明らかに自分の部屋ではないことを物語っている。
状況を把握すべくゆっくりと上体を起こすと、近くでガチャンと大きな物音が響く。
振り向くと目覚めた俺に驚いている一人の女性の姿があった。
猫のような耳にスカートから飛び出た尻尾・・・・ってなに?? コスプレ?
「姫様!姫様!・・・お目覚めにニャられましたニャ」
そう言って慌ててドアの外へ飛び出して行った猫耳の女性は、やがて姫様と呼ばれる一人の女性を連れて戻ってくる。
姫様?・・誰のことだ?
俺が寝ぼけた頭を思考させていると一人の女性が先ほどのメイドに先導されて部屋に入ってきた。
「お目覚めですか?」
部屋に入るなり、姫様と呼ばれるその女性は鈴を転がしたような声で俺にそう話掛けた。
見た感じ、俺と同い年くらいか。
目元のパッチリとした美しい相貌とサファイア色の瞳、ナチュラルウェーブの掛かった長いプラチナブロンドが印象的だった。
姫様を呼びに行った猫耳の女性はメイド服に身を包んで隣に立っている。
こちらはセミロングの黒髪で、おっとりとした雰囲気の女性だ。
「あの・・・」
「はい?」
「ここは一体どこだ、あんた達は誰だ?」
その質問に対して姫様と呼ばれるそのうら若き女性はさもありなんといった様子で答える。
「失礼いたしました、ここはフランツ王国。私はエリザベート・フォン・グランシーニュと申します」
「フランツ王国・・・俺は自分の部屋で寝ていたはずだが、どうしてここにいるんだ?」
「勇人様は魔術により私に召喚されたのです」
「は?」
いきなり突拍子もないことを言われた俺は思わず聞き返す。
「召喚?・・・魔術で?」
なにを馬鹿なと俺は思ったがエリザベートの顔は真剣そのものである。
「どうぞこちらへ。と、その前にお召し物をお着替えになって」
「あ・・」
言われるまで気がつかなかったが俺はパジャマ姿のままだった。
「お召し替えをどうぞ」
エリザベートの横にいた猫耳メイドは着替え用の服を持って立っている。なんだかゴテゴテと装飾のついた派手な服で、俺の趣味とはいい難かった。
「着替えが終わりましたら、こちらのメイドの案内に従って私の待つ部屋にいらしてください」
エリザベートはそう言って退室して行った。
だが猫耳メイドは何故か部屋から出て行かないので、俺は訝って訊ねた。
「えと、君は出て行かないの?」
「私はお客様のお召し替えをお手伝い致しますニャ」
「え?」
「どうか致しましたかニャ?」
「そんなの自分一人でできるだろう?」
「高貴ニャご身分の方のお召し替えは侍女にお任せするものだと伺っておりますニャ」
「いや、俺は高貴な身分じゃないし、恥ずかしいので一人で着替えさせてくれ」
「わかりましたニャ。では、お召し替えが終わりましたらお知らせくださいニャ」
猫耳メイドは軽くお辞儀をすると、そのまま廊下に出ていった。
俺はそそくさと着換えを済ませる。
「着替え終わったよ」
そう伝えると猫耳メイドは再び入室して、エリザベート待つの隣の部屋へと案内してくれた。
隣の部屋。といっても一部屋が大きいらしく、ドアとドアの間隔が長い大理石の廊下を通りその隣の部屋の前に立つと猫耳メイドはドアをノックする。
「お客様をお連れ致しましたニャ」
「入室してください」
エリザベートの許可を得て猫耳メイドがドアを開ける。俺は促されるままに中に入った。
部屋の中は厚手のカーテンによって外光が遮蔽さてれ薄暗く、蝋燭の灯によって揺らめくように室内が照らされている。なにやら怪し気な雰囲気でさえある。
「下をご覧になって」
薄暗い部屋の床には円形の模様が描かれており、その上には蝋燭の灯に揺れるエリザベートの影が映っていた。
「これは魔法陣です。勇人様をこの中に術式によって召喚しました」
「嘘だろ?」
「なぜそう思われるのです?」
「だって、ここはフランツ王国だっけ?確かそう言ったけど、あんたら日本語喋ってるじゃないか。本当はここ日本だろ?嘘吐くならもっとマシな嘘を吐いてくれよ」
「あ、これは失礼いたしました」
エリザベートは軽く広げた両手の指先でドレスのスカートの裾を摘むとゆっくりとお辞儀をする。その優雅な物腰は本当に高貴な身分のように思えた。
「説明が必要でしたね。私共はニホンゴという言語は存じ上げておりません」
「でも、あんたは日本語で俺と会話しているよな?」
「先ほど私は勇人様を魔術によって召喚したとご説明させていただきましたね?」
「ああ」
「じつは召喚された従者は、術者が理解できる言葉はすべて理解できるのです。発声が出来るなら会話による意思疎通も可能なのです」
俺はなにを言っているんだろうと思ったが、エリザベートは構わず説明を続けた。
「現在、王位継承の儀が行われる予定になっており、召喚した従者を競わせ、勝利させたものが王位を継承する決まりになっています」
「えと、あんたに呼び出された俺が誰かと戦うってこと?」
「リサとお呼びになっていいですよ。まあ王位継承戦で戦っていただくことになります」
「決闘みたいな殺し合いなのか?」
「あくまでも優劣を決めるだけですから、命の危険を感じた場合、早々にギブアップしていただければ、勝負はそこで終わりです。また、状況次第では戦うことなく不戦勝もあり得ます」
命の奪い合いではないことに俺はいささか安堵した。
リサが言うには現在、三人の王位継承者がおり、その三人がそれぞれ呼び出した従者同士を競わせる。そして勝ち残った従者の召喚者が王位を継承するのだという。
王位継承者が継承戦を辞退するか、従者の召喚に失敗した場合は不戦勝になるとのことだった。
つまり俺はこの国の王位継承問題に巻き込まれたのだった。
「細かい内容につきましては追ってご説明いたしますが、継承戦が始まるまで、こちらのティナがお世話いたします」
「ティナと申しますニャ。御用がございましたらニャンニャりとお申し付けくださいニャ」
リサの紹介を受けて、隣に立っていた猫耳メイドがお辞儀をしながら挨拶をする。
「ちょっと待ってくれ、リサ」
「なんでしょうか?」
「俺を元の世界に帰してくれ」
「なぜですか?」
「なぜって、俺はあんたらの王位継承戦とやらに興味はないし、いきなり呼ばれて迷惑なんだ。関わりたくもないから帰してくれ」
俺の意見は至極まっとうなものだろう。なんで召喚者の勝手な都合で戦わされなければいけないのか納得できなかったし、また、魔法で召喚されたということがどうしても理解できない。
もしかしたら寝てる間に変な団体に拉致されて嘘を吹き込まれてないか?この時点で俺はそう考えることしかできなかった。
「それはできません」
「なぜ?」
「そのような魔法は存在しないからです」
「なんだって?」
元の世界には戻れない。そのことに俺は絶句した。
吸血姫の従者・・・召喚された俺は吸血鬼になったお姫様を元に戻すため、吸血鬼退治に出かけます。をご覧いただきありがとうございます。
この作品は元々『吸血姫の従者』というタイトルだったのですが、内容を把握しやすいタイトルということで、変更させていただきました。
またブックマークや評価をいただけると今後の励みとなり、大変嬉しく思います。