ありふれた日常
朝だ。
昨日天井から吊るした紐も、俺が蹴飛ばした椅子も、そのままに残されている。
神様との会話は、夢だったのだろうか。
夢じゃないといいな。
◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️
俺の見た目が変わっている可能性に気がついて、急いで廊下を走る。
ーーー緊張
スケルトンとかゾンビになってたら、見た目で他人に誤魔化しようがないぞ。
ドキドキしながら洗面所の鏡を覗き込む。
鏡を見ると、見た目は何ら変わってなかった。
ただ強ばった顔でこっちを見てる俺の顔があるだけだった。
「夢だった説浮上」
◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️
俺が不死者であろうとなかろうと、世界は周り、時間は進んでいく。
ぶっちゃけ登校時間まで、あと僅か数十分しかない。
キッチンに移動して自分の分の朝食を作っていると、慌てていたせいか人指し指の腹を包丁で切ってしまう。
ピッ
血がプッと線上に溢れた後、指先へ垂れていく。
ーーー痛い。
のたうち回るほどじゃないが、地味にジンジン痛い。視覚から痛い
うぅぁ、痛いー。萎えるー。
バンデージ、バンデージ。
薬箱を取りに、リビングに足を向けたその時、指の傷が変化する。
『シュッ』
え?治ったんだけど。ま?
指の腹を擦ってみるが、さっきまで存在を主張していた指の傷は、無くなっていた。
それどころか、流れていた血まで消えている。
もう一度、今度は少し深めに切ってみる
血がドクドク出る。
あぅあぅあーーー痛いーーーーー。
『シュルンッ』
治ったーーー!!!
嬉しいーー。
じゃあ次はーーー、、
『プルルルルルル、プルルルルルル』
◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️
いつもの電話だ。
俺は親に独り暮らしを認めてもらう代わりに、毎朝電話で問題ないか確認することになっている。
俺は、ゆっくりと音へ近づいていき、受話器を取る。
『ガチャ』
「もしもし」
「代わりはないか?」
硬い、年齢を重ねたことを感じさせる男の声だ。
「うん」
「ならいい」
『ガチャン、ツーー、ツーー』
これだけのために、わざわざ毎朝ご苦労なこった。
◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️
また、いつものように、自分の分だけの朝食を作り、食べて、片付ける。
服を着替えて、鞄を持つ。
「いってきます」
言う相手もいないのに、空っぽの家に挨拶をして、家に出る。
学校だ。
スマホをいじりながら移動していると、学校につく。
校門の前に立つたびに、
Qなんで義務教育でもない高校に通ってるんだろう
A就職のため
と自問自答してむなしくなる。
教室について、ドアを開けても、誰も反応しない。
これは、俺の見た目が理由である。
人と会話するのも目を合わせるのも苦手なため、小学生の時、髪を伸ばし始めた。
元々天パぎみな俺の髪は、顔を隠すと透けることもなく、完璧に隠れる。今や顎まで伸びた髪は、顔のパーツを少しも外に見せない。その上でマスクと眼鏡をつけているから、風が吹いても完璧に隠せる。
そんなこんなで誰とも関わらず、学校生活を終え、またスマホをいじりながら帰宅する。
帰ってもすることがまるでない。
学生の本分は勉強?
最低限出来る。
友達と遊びに?
んなもんいたら苦労しない。
そうなるとやることは限られてくる。
ネット、ゲーム、食事、睡眠、自慰。
毎日これしかしていない。
自分の、何か深いところが腐っていっているのを感じる。
今日も今日とて、時間を潰すことだけを考えて、一日が終わるのを待つ。
自分の分だけの夕食を作り、食べて、片付ける。
風呂に入り、布団にはいる。
寝る。
無味乾燥な俺の毎日は、退屈だけれど、そんな退屈も嫌いじゃなくて、これからもずっと変わらず続くことを願っている。