ありふれた神様面談
異世界転生や転移は、しません。
あくまで、現実世界です。
気がつくと白い部屋にいて、目の前には、白いおじいさんがいた。
木でできた曲がった杖をついていて、髪は無いが、顔が見えなくなるほどの立派なヒゲと眉毛。どちらももれなく真っ白だ。てるてる坊主のような、一枚の長い服を着ている。こっちも白の無地。
日頃からラノベを愛読している俺は、次の展開が読めてしまい、耳を塞いで亀のようにしゃがみこんだ。
「えっ、、、ちょっ、、、」
神様(多分)がなにか言っているが、知らない。
この後は、きっとこう来るだろう。
『実は、手違いで、、』
『お詫びに、チ↑ート↓を与えるから、、』
『異世界で俺つえーを、、、』
決まりきった展開だ。
嫌だ。
異世界にはいきたくない。未発達な文明で原理もわからない魔法に頼った生活を送りたくない。
俺は、死のうとしていたんだ。もう一回同じように生まれ直せって言われても全力で拒否する所存にござい。
かといって、地獄や天国なんて退屈なのも嫌だ。
現代社会ばんざーーい!!!
叫んでいる神様の声から必死に現実逃避する。
「、、、、!?、、、、!!」
きーこーえーなーいー、
「、、、、、、、!」
わーかーらーなーいー
「、、」
しーらーなーいー
【強情な、】
!?
突然脳内に流れてきた老人の声に驚いて、思わず顔を上げて神様の顔を見てしまう。
これは、伝説の、、、『なんでこころが読めるんだ!?』『神じゃから』という流れの逆パターンか!?
マジカルで、ゴッドなパワーで念話をつかってきたというのか!?
【ふふん。】
くそー、ドヤ顔がうざい。
耳を塞いでも意味がない。
【いやー、お主の自殺についてなんじゃがのー】
いーーーーーやーーーーーー!!!!
【そこでじゃが、】
やーーーーめーーーーーてーーーーーー!!
【異世界転生を、】
やーーーだーーーーーーーー
【何でじゃ!!良いじゃろ!異世界!!チート!!】
「嫌ですよ。戦いなんて。怖すぎます。
そもそも、なんで俺なんです?勝手に自殺した俺よりチートを必要としてる人いるでしょう。男子高校生より飢えた難民を救ってくださいよ。」
【いや、不幸を感じながら死んだ人間は全員チート付きで異世界にいってもらっておるが?】
アホか。転生者のインフレじゃねーか。
こっちの世界の人間の個人個人に強大な力が付与された世界なんて誰が行きたいよ。
「もうそれ異世界じゃないでしょ」
【ちゃんと記憶も消してるから大丈夫じゃ】
「転生する意味」
話になんねー。
俺は異世界になんて行きたくない。ただ存在をもう終わらせたいだけなんだ。
「本当に俺に何かしたいと思っているのなら、神様なんだから人一人ぐらい不老不死にして生き返らせてくださいよー」
【一度死んだ世界に、生き返らせるとかはできないルール・・・】
神様がモゴモゴと言ったせりふに被せるようにして俺は言う。
「言ったな」
【え?】
「生き返らせることは、できないって言ったな?」
【い、言ったが?】
「ならば、死んだままでいいです」
【それは、異世界を受け入れると言うことかの?】
ふふふ、そんな事じゃない。そんな程度の事じゃない。
「いえ、違います。」
【じゃあ、どういうことなんじゃ?】
俺の願いは、俺が神様に祈ることは、
「俺を、不死者にしてください。」
【な・・・。】
「できますよね?生き返らせるわけではないんだから。」
不死者。アンデッド。
『しがない』。ふふふ、いい響きじゃないか。
【・・・ルール的には、出来る、かもしれん。
しかし前例がない。成功するかわからん。最悪の場合、お主の魂は消えるかもしれんのじゃぞ】
ふふふ。
あはは。
ふはははは。
できるのか?できるのか!!
「それでもいいです。このまま老いる人の体でいるよりはましだから」
【正気の沙汰ではない】
「正気なアンデッドなんかいる分けないでしょ。死なないためなら狂気の沙汰にでも堕ちますよ」
俺が自殺を選んだのは、俺が死んでいくを感じたくないからだ。
矛盾しているように感じるかもしれないが、ちゃんと筋は通っている。
圧死も、安楽死も、縊死も、壊死も、煙死も、枉死も、餓死も、惨死も、事故死も、即死も、墜死も、溺死も、徒死も、凍死も、突然死も、頓死も、病死も、轢死も、老衰も、全部『死』には変わりない。
自分以外の誰かに、自分以外の何かに殺されるという事実は、何も変わらない。
圧力に、薬に、紐に、菌に、煙に、無実に、飢えに、無惨に、事故に、即座に、重力に、水に、無駄に、氷に、事件に、俄に、病に、通行に、老いに、自分の命が奪われてしまう。
だったら、自分で早いとこ死んでしまおう。
どうせ致死なら、決死に自死しよう。
よう~し(夭死)!!死ぬぞ!!・・・なんつって。
自分の人生を自分の身で完結させてしまおう、という考えである。
だか、不死者になれるというのなら、話は別である。
永遠の命。
俺が唯一望んでいた物が手にはいる。
俺だって死にたくて仕方がなかったわけじゃない。意味もなく、意義もなく、意味もわからず死にたくなかった。それだけだ。
必死になっても、死にたくなかった。
自殺して良かった。神様万歳。これから毎日神様に祈りを捧げることにしよう。
【、、、ならばよい。では、蘇生、いや、不死化を行う。】
神様は、俺の言ったことを自分の中で咀嚼してようやく消化できたらしい。
そんな神様に対して、俺は更に要求を増やす。
「いや、ちょっと待ってください」
【何じゃ?まさか、今更怖じ気づいたとでも言うまいな?】
「いえ、俺が言いたいのは、『チートをください』
神様に、謎空間、転生ときたら、チートの付与でしょう?」
【儂の申し出を断り、ルールの粗を突くような真似をしておきながら、まだ何か都合良く願いを聞くとでも?】
「良いじゃないですか。神の器の大きさを見せてくださいよ。
別にそんな強いチートじゃありません。
俺の望むチートは、、、、、」
【、、、、まぁそのくらいならいいじゃろう。どんな種族になるかもわからんと言うのに不死化をしようとするんじゃ。そのくらいのサービスは甘んじてやろう】
え?種族わかんないの?
てっきり見た目はそのままで只死ななくなるんだと思ってたよ?
もしかしたら、目が覚めたらゾンビとかスケルトンとかになってる可能性があるの?
、、、まじかー。狂気じゃん。萎えるなー。
怖じ気づいちゃう。今から中止とかできないかなー。
案外言ったらできたり? しないよなー。
神様を虚仮にしたら魂とかを壊されそうだし。
【では、お主の第二の人生に幸あらんことを】
神様が空中に手を翳し、俺に謎の光が流れ込んでくる。
目の前の光景が滲んで、意識も薄れてゆく中、身動きの取れない俺に出来ることは神に祈ることのみだった。
神様は、目の前にいるのに。
怪物は嫌だ。怪物は嫌だ。怪物は嫌だ。怪物は嫌だ。怪物は嫌だ。
次回、主人公の望んだものとは!?
俺たちの戦いはこれからだ!