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015.落ち着けないお茶会

 殿下達とのお茶会と言う事で、マリエル達に念入りに手入れをされてしまった……。

 止めておくれ……。

 私はどちらのお相手にもなりたくないんじゃ。適当に生きたいのじゃ。


「まぁ、これはアンハルト家のカトルカールね?

私、大好きなの!」


 手土産持参で殿下達専用のサロンにお邪魔した所、調理人が用意してくれたカトルカールを手にシャルロッテ姫が嬉しそうに声を上げた。


 ……気合いを入れたのは調理人もだったらしい。

 こっちにはそんなにバター持ってきてない筈なんだけど、まさか家から取り寄せた? 魔法陣はそう簡単に使わせてもらえない筈だから、在庫として持ってきたものを後先考えずに使用したか、作ったか……。


 サロンにはシャルロッテ姫、リヒト殿下、ユーリヒ殿下、クリストファー殿下がいらっしゃった。

 錚々たるメンバーです。全員殿下ですよー。帰りたいなー。


 挨拶を軽く済ませると、すすめられるままにソファに腰掛ける。


「ユーリヒ兄様とこうしてお話しするのは初めてよね? ソフィア様」


 姫に言われてユーリヒ殿下に顔を向けると、向こうもこちらを見たので目があった。軽くお辞儀する。


「左様にございます」


「兄上とは面識があるのか?」


「先日、ナツィッサ様のお茶会にお姉様と招待された際、リヒト兄様とはお会いしてますものね?」


 姫、何処までご存知なのですか……。


「ユーリヒ兄様、出遅れてましてよ?」


 うふふ、と揶揄う妹に、ユーリヒ殿下が呆れたような顔をする。


「ソフィア嬢を困らせるような事を軽々しく口にするな。

王族としての言動には注意しろと言ってるだろう」


「分かっておりますわ。ただ、ソフィア様にそんなのは無用ですわ。十分にご理解頂いておりますもの。

その辺の令嬢とソフィア様を同等に考えるユーリヒ兄様の方がよっぽど失礼ですわ」


 頰を膨らませて抗議する姫は、年相応で可愛くて、つい笑ってしまった。


「まぁ!」


 姫が声を上げる。


「私、ソフィア様の笑顔、初めて見ましたわ! なんて可愛らしいの! もう一度微笑んでちょうだいな!」


 いや、そんな、無理です。

 姫の勢いと無理な要求に困っていると、クリストファー殿下が助けてくれた。


「シャルロッテ、ソフィア嬢はそなたの人形ではないのだから、そんな風に笑えなどと言って困らせてはいけないよ」


「はぁい」


 さすがのシャルロッテ姫も、叔父であるクリストファー殿下には頭が上がらないみたいだ。


「ところでソフィア嬢、昨日チェンバロを弾いてらっしゃったのは貴女?」


 クリストファー殿下の質問に頷く。


「お父上に似て、貴女もチェンバロの名手なのだね。その年齢であれだけ弾けるのだ」


 とんでもございません、と否定するものの、年齢的に見れば、上手い部類に入るのかも知れない。

 十歳だし。


「そうだ、公がソフィア嬢の為に作ったとされる曲を、是非聴かせてもらえないか? 帝都にいるから、公のチェンバロを聴く機会がなくてね」


 辞退したいけれど、チェンバロ好きの姫も目をキラキラさせてるし、リヒト殿下も何故か微笑んで頷いているしで、弾かなくてはならなくなってしまった。


 サロンの端に置かれているチェンバロで、仕方なく演奏する。


 お父様が作ったと言われている曲は何曲かあるけど、私がよく弾いているのは小フーガト短調。それを弾いていく。

 この曲はとあるゲームで使われてて馴染みがあったので、つい弾いてしまうんだよね……。

 本当はパイプオルガンで弾いた方が荘厳な感じでいいんだろうけど、チェンバロでも雰囲気は結構出るので、気に入ってよく弾いてる。


「次はあの、恐ろしく難しいのをお願いしたいわ」


 姫が言っているのは、リストのラ・カンパネッラの事だと思う。

 超絶技巧のリストが作った曲だから、難しいんだよね。

 そして記憶ベースだから、色々抜け落ちてるけど、ご愛嬌です。


「父程、滑らかに弾けませんので、お耳汚しではありますけれど……」


 断りを入れてから、ラ・カンパネッラを弾いていく。

 この曲は、凄い好きなんだけど、練習曲とは思えない程に難しい。でも好き。

 あまり失敗せずに弾き終えて、ふぅ、と息を吐く。


「これは……思った以上の腕前だ。御前にも上がれる程だよ、ソフィア嬢」


 クリストファー殿下、不吉な事を言わないで下さい。


「そのような、畏れ多い事をおっしゃらないで下さいませ」


「今の曲はとても素晴らしい。是非、また聴かせていただきたい」


 リヒト殿下が笑顔でそうおっしゃった。あら、音楽がお好きなのかしら?

 前も姫の誕生日でリクエストを受けた事があったし。


 ユーリヒ殿下が少し驚いた顔でリヒト殿下を見ている。……と言うより、全員がリヒト殿下を見てる。

 ……ふむ、リヒト殿下は普段、こういった事をはっきり口になさる方ではないのね。それとも笑顔が珍しい?


「……私如きの腕前でよければ」


 王族のお願いを断るという選択肢は、下々の者にはありませんからね……。


「私はソフィア嬢の音が好きだよ。父君の公爵の音より」


 予想外の褒め言葉に面食らってしまう。


「あ、ありがとうございます……」


 褒められて嬉しいけど、父の方が百倍上手い。

 でも、ありがとうございます……。


「ソフィア嬢の奏でる音は、何と言うのか、感情が音にのっているような、そんな気がする」


 何事にも秀でて、感情の起伏がない方、と言われているけど、そんな事ないのかも知れない。


 楽譜の書き方、お父様に教えてもらえば良かったな。


 なにかを思い出したらしく、クリストファー殿下が私の方を向いておっしゃった。


「そうだ、昨日ソフィア嬢の侍女から聞かれたけれど、温室と花壇の事。好きにしていただいて構わないよ」


「ありがとうございます」


 さすがにコーディアルやらエッセンシャルオイルは無理だけど、花を育てるのは楽しそうだから、是非やってみたい。


「まぁ、ソフィア様は花がお好きなのね?」


 そう、私ではなく、ソフィアが好きなのだ。


「はい。花は好きですわ。庭師が丹精込めて育てた花を、いつも愛でておりました」


 ターシャ・テュー●のガーデニングとか、いいなと思う。とても出来ないけど。

 マリエル達に頼んで、花の種か苗を買ってきてもらおう。


 窓の外は曇りだ。今日のお散歩は諦めた方がいいかも知れない。マリエルが許してくれない気がする。


「昨日、庭に出ていたけど、ソフィア嬢は散歩が好きなのかい?」


「身体が弱いので、体力を付ける為に始めたのですが、気分転換になりますし、好きです」


「身体が弱いとは聞いていたが、本当に弱いのだな」


 ユーリヒ殿下がおっしゃった。

 私は頷く。

 本当に、残念な程に弱いのだ。


「散歩に、私も付いて行こうか」


 そんな私に気遣ってか、ユーリヒ殿下が言った。その言葉にクリストファー殿下が苦笑する。


「ユーリヒ、護衛のつもりなら必要ないよ」


 そう言って私の足元で丸くなるヴィントを指差す。


「犬……にしては大きいと思っていたのです」と、ユーリヒ殿下はクリストファー殿下に向かって言った。


「風狼ですわ、ユーリヒ兄様」


 ドヤ顔で姫がユーリヒ殿下に説明した。


「風狼?!」


 ヴィントとの馴れ初めを説明すると、みんなポカンとしていた。


「サンドイッチのお礼?」


「父はそう言うのですが、大切な子供と引き換えにする程の物ではございませんから……私としても納得はいっていないのです。

ですが今は、ヴィントが側にいない日々は想像出来ません」


 そっと手を伸ばすと、ヴィントは起き上がって私の手が届くように起き上がった。

 なんとうちの子は賢いんだろう!

 おでこの部分を撫でる。気持ち良さそうに目を細めるヴィントがめっちゃ可愛い……!


 異世界転生して何が良かったって、ヴィントだな、って思う。

 こんな賢くて可愛くて私だけに懐く存在、そうそう出会えるもんじゃない。しかも何でも食べさせられる!


「そうだわ、私はお兄様達からお話を伺っていたけれど、ソフィア様はご存知ないのだろうから、学院の話をしていただけないかしら?」


 それはとても嬉しいです。

 基本的な座学は、実家で家庭教師に教えてもらっていたものと大差ないようである。

 魔力関連の授業は基本、精霊術、錬金術、魔術の3つ。適性のある者は神術を含めた4つ。

 難易度的に、魔術<精霊術<錬金術だそうだ。

 前世では空想の世界に存在したそれが、私の目の前にある。わくわくする。


 魔術は、大気中に存在するエーテルを己の中に取り込んで発動させるもので、詠唱は己の中に魔法陣を作成し、エーテルを増幅させ、術として安定させるものなのだそうだ。

 なので、自分の中で増幅出来るとであれば、無詠唱でもいけるらしいけど、大体無理らしい。


 精霊術は、契約したい精霊に認めてもらえないといけない。好戦的な精霊の場合は戦わなくてはいけない。それから、精霊の思考は人間と違う為、気を付けないと何気ない言葉で怒らせてしまう事が多々あるらしい。


 錬金術は、金を錬成すると書く訳だけど、本当に金を錬成する訳ではなく、錬金を安定させる特殊な道具を用いて、全く別の物を作り出す術との事。聞いていると、なんかちょっと化学的というか。ただ、錬成するのに魔力が必須らしい。


 神術は、リヒト殿下もユーリヒ殿下も適性がなかった為、詳しい内容は分からないとの事だった。

 クリストファー殿下のご友人が、適性のある方だったらしく、私の時代のだから古い話で恐縮だけれど、と前置きをして教えて下さった。

 聖女に祈る事で、呪いを解くだとか、回復するだとか、そう言った事が可能らしい。

 光属性的な感じだろうか。


 聞いてるだけでファンタジー全開で、楽しみで仕方ない。


 ちなみに、学院卒業後、祖国に帰る人もいれば、帝都に留まる人は少なくないらしい。

 せっかく学んだ事を活かしたいのに、魔力保持者が少なくなっている為、祖国に帰っても活かせる場所がないのだ。


 なるほど。

 ちなみに我が国は、ほぼ全員殿下なので、国に帰らないという選択肢は存在しない。

 私は実家と王家との婚姻問題が在学中に解決しなければ、帝都に残るという選択肢はない。

 それにあまりに身体が弱すぎて、一人で生きていけなさそうだし、ヴィントの事もある。

 なかなか自立は難しそうだ。


 今は、目の前の事に集中しよう。

 明日から始まる学院での生活に慣れる事が、第一だ。


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