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ツェツィーリアの祈り

 私の妹 ソフィアは虚弱だった。

 アンハルト家には極稀に白銀の髪を持つ者が生まれるとは聞かされていたけれど、目にしたのは初めてだった。

 何故なら、白銀の髪を持つ者は短命だったから。

 五歳に到達する前に生来の病弱さで死んでしまう為、アンハルト家にその容姿を持つ者はいなかった。


 白銀の髪を持って生まれたソフィアは、生まれてから何度となく倒れた。

 持病ではなく、とにかく身体が弱く、少し動けば熱を出す。そうして何日も寝込むのだ。

 起きているよりも寝台に横たわっている事の方が多いのではと思う程、床についていた。


 母はいつもソフィアに付いていた。

 はじめの頃はその事に腹をたてもしたが、高熱のたびに命を落とすのではと気を揉む両親の気苦労と、好きなように動き回れる自分との違いに気付いてからは、そのように思う事もなくなった。

 ソフィアは優しくて、明るくて、いつも私の話を純粋に喜んで聞いてくれた。

 おねぇさまのお話、ソフィアはだいすき。

 そう言って笑ってくれるソフィアが、私は好きだった。

 大切な、大切な妹。




 なんとか五歳になったと思った時に、これまでにない程の高熱を発し、命が危ぶまれた。

 高熱が続いて一週間、ソフィアは遂に昏睡状態に陥り、医者は謝意を口にした。

 家族の誰もが肩を落とした。

 母親は音もなく涙を流し、己を責めた。もっと強い身体に産んであげられればと。

 父は、白銀の者は代々短命なのだ、貴女の所為ではない、そう言って慰めていたが、その言葉が母の耳に届いたとは思えなかった。

 誰もが諦めた。


 その翌日、ソフィアの高熱が嘘のように下がり、ソフィアは一命を取り留めた。

 感情を引き換えにして、命を取り留めたのだ。




 いつも床に臥せていても、色んなことに興味を持ち、何でも自分で経験したがったソフィアは、高熱後、心を失ってしまったのではないかと思う程に何にも関心を持たなくなった。

 言葉も少なく、表情も、これがあのソフィアなのかと思う程に、無表情だった。

 記憶もあやふやなようで、私たち家族のことも認識していないようだった。

 医者は原因は不明だが、高熱に記憶に影響が出ているのではないかと言った。


 けれど、それでもいい。

 生きているのだ。

 私の妹は、こうして生きているのだから。


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