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殺意

作者: K.NOT

 気が付けば、その手の刃を突き立てていた。

 流れる赤いぬくもりは手首を伝い落ちていく。

 無感動にそれを見つめていた眼差しを知り、言いようのない虚無感を感じる。それはきっと、寂しさと同じ気持ち。

「また、やってしまったんだな、君は」

 自分の内側から語り掛ける声に耳を傾ける。

「いつもそうだ、君という奴は。そうやって、簡単に殺してしまうのはよくないことだ」

 では、じっくりと、手間を掛けて殺せばいいのか。

「どうしてそうなるんだ。なにも殺さなくていいだろう、ということだ」

 それでは耐えられない。殺さなくては納まりがつかないんだ。

「そいつを産み出したのは、他ならぬ君じゃないか。愛情はなかったのか」

 愛ゆえに。

「殺したのか」

 頷く。

 顎を伝った雫は、足元の赤い水溜りに波紋を生じさせる。

 ぱた、ぱたた。不規則なリズムで、雫は滴り続ける。

 自分の産み出したものだからこそ、その不出来に耐えかねた。今までの子ら、その全てを消し去り、その未来に最高の子を授かること、その目的だけがこの体を突き動かすのだ。

「過去無くば今は無く、今の無くば未来もまた」

 たとえ、そうだとしても。

「踏み出すために」

 切り捨てる。


 描きかけのキャンバスには赤い絵の具がぶちまけられ、そのど真ん中にはパレットナイフが突き立てられていた。

 私はそれに背を向け、歩き出す。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 芸術家にとって自分の作品は我が子同然ですよね。真剣にやっているからこその感情の発露を感じました。ただ、後に入ってきた人はその惨状に震えるやもしれません。
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