殺意
気が付けば、その手の刃を突き立てていた。
流れる赤いぬくもりは手首を伝い落ちていく。
無感動にそれを見つめていた眼差しを知り、言いようのない虚無感を感じる。それはきっと、寂しさと同じ気持ち。
「また、やってしまったんだな、君は」
自分の内側から語り掛ける声に耳を傾ける。
「いつもそうだ、君という奴は。そうやって、簡単に殺してしまうのはよくないことだ」
では、じっくりと、手間を掛けて殺せばいいのか。
「どうしてそうなるんだ。なにも殺さなくていいだろう、ということだ」
それでは耐えられない。殺さなくては納まりがつかないんだ。
「そいつを産み出したのは、他ならぬ君じゃないか。愛情はなかったのか」
愛ゆえに。
「殺したのか」
頷く。
顎を伝った雫は、足元の赤い水溜りに波紋を生じさせる。
ぱた、ぱたた。不規則なリズムで、雫は滴り続ける。
自分の産み出したものだからこそ、その不出来に耐えかねた。今までの子ら、その全てを消し去り、その未来に最高の子を授かること、その目的だけがこの体を突き動かすのだ。
「過去無くば今は無く、今の無くば未来もまた」
たとえ、そうだとしても。
「踏み出すために」
切り捨てる。
描きかけのキャンバスには赤い絵の具がぶちまけられ、そのど真ん中にはパレットナイフが突き立てられていた。
私はそれに背を向け、歩き出す。